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第五章 第12話:約束された勝利。

             ──あらすじ──


闘技大会予選の初戦、“ルーナ”の前に立ちはだかったのは、筋肉隆々な男。

圧倒的な体格差と武力を誇る相手に、場内は早くも勝敗を予想していた。

だが試合開始の合図と同時に繰り広げられた光景は、誰も予想していなかった――。

係員に名前を呼ばれたルーナは、案内に従って会場へと歩みを進めた。

レンガ造りの細い通路を抜け、差し込む光の方へ足を運ぶ。


──そして、視界が一気に開ける。


そこは広大な円形闘技場。青空の下、

地鳴りのような歓声と熱気が押し寄せてくる。

ルーナは場内を見渡し、にこやかに手を振った。


向かい側の入口から、筋肉の鎧をまとったような大男が係員と共に姿を現す。身長は二メートル近く、見るからに重量感のある体格だ。

男はニヤリと笑い、ルーナを見下ろして口を開いた。


「おいおい……俺の相手が、こんな小娘だと? 舐めてんのか?」


ルーナは軽く手を振って、あっけらかんと返す。


「よろしくね」


係員がそそくさと退場すると、

二人の間に白地に青い縦ラインが二本入った制服を着た審判が立った。

審判はしばらくルーナを見つめ、低い声で問いかける。


「本当に……始めてもよろしいですね?」


小首を傾げ、ルーナはあっさりと答える。


「うん? 大丈夫だよ」


審判はわずかにため息をつき、所定の位置へと下がった。


「……そうですか。では私は止めません。それでは──これより、ゴーリー・ゴライエス選手対ルーナ選手の予選第一試合を開始します!

勝利条件は“気絶”または“降参”。禁止事項は──」


説明の途中、ゴーリーがニヤついたままルーナに声をかける。


「へへ……よく逃げなかったな、お前。

副団長がお前を気遣って確認まで取ってやったってのによ……。

なんでお前が第一試合目かわかるか? 

こういう勝ち目のなさそうな奴と俺みたいな選手を当てて、

不戦勝を作るためさ。なのにお前ときたら……せっかくのチャンスを──」


ルーナは笑みを浮かべ、ぴしゃりと遮った。


「悪いけど──私、負けたことないから」


その一言に、ゴーリーの表情がぴくりと引きつる。

怒気を孕んだ視線がルーナに突き刺さった。


「それでは……両者、見合って──」


「っ……!」


合図が出るより早く、ゴーリーが咆哮と共に大剣を振り下ろす。


──ドゴォォォンッ!!


重い衝撃音とともに、闘技場に砂煙が舞い上がった。


「おっと、悪ぃ悪ぃ。肩に虫がついてたもんだから、ついな……」


「お、おいっ……! ゴーリー貴様っ!! まだ開始の合図は出していないぞ!」


審判の怒声が響く。


「へへっ……そうカリカリすんなよ、副団長さんよ。ま、これで戦う相手がいなくなったわけだから──俺の勝ちってことで──」


言いかけたゴーリーの目が、そこで大きく見開かれた。


砂煙が風に流されていく中、その奥から澄んだ声が響く。


「……で? 今のは“あいさつ代わり”ってことでいいのかな?」


そこに立っていたのは──振り下ろされた大剣の軌道を紙一重で外れ、

微動だにせずこちらを睨み返すルーナの姿だった。


鋭い眼光が、ゴーリーを射抜く。


審判(副団長)は思わず息を呑む。


(ば、馬鹿な……! 騎士団でも随一の剛剣を誇るゴーリーの一撃を……避けただと? しかも、これほどの至近距離で……!)


ルーナは何事もなかったかのように、服についた砂埃をパンパンと払った。


「ゴ……ゴーリー選手。次、同じことをした場合は即失格とする。……いいな?」


「あ、あぁ……もうやらねぇ……」


──そのやり取りだけで、二人は互いの力量を悟った。


一定の間合いを保ちながら、ゴーリーは先ほどまでの軽口をやめ、

真剣な眼差しで木剣を構える。


(こ……こいつ、一体何者だ……? あんな芸当ができる奴なんて……一人しか……)


審判は手を上げ、改めて開始の合図を告げた。


「で、では──両者、見合って……」


「始めっ!!!」


手が振り下ろされると同時に、真っ先に動いたのはゴーリーだった。


──ダダッ!!


「い、いや……さっきはまぐれだ! 二度目はない!!」


渾身の力を込め、大剣を横薙ぎに振り抜く。


「うおぉぉぉっ!!」


──ブオォォンッ!!


  ──スカッ……!


だが、結果は同じ。

ルーナは刃をすり抜けるように、あっさりと身をかわした。


「こ、こいつ……っ!! うおあぁぁぁぁぁっ!!」


──ブンッ! ブンッ! ブンッ! ブンッ! ブンッ! ブンッ!


苛立ちを爆発させたゴーリーは、獣のように吠えながら大剣を振り回す。

その攻撃は重く速く、常人なら一撃で沈む威力だ。


しかしルーナは腰の木剣に手を添えたまま、正確に、そして無駄なく回避を重ねていく。

一撃ごとに軌道を見切り、体を最小限だけ動かす洗練された回避。


観客席からは、やがてどよめきが歓声へと変わっていった。


「当たれっ!! 当たれよおぉぉぉぉっ!!!」


手応えのない斬撃に焦燥を募らせ、ゴーリーは絶叫した。

息を荒げながら、横薙ぎに大剣を振り抜く。


──ブオォォンッ!!


「はぁ……はぁ……っ──!?」


振り切った剣の先に、信じがたい光景があった。

──ルーナが、その剣先の上に立っていたのだ。


「あ……あぁ……!! そ、そんな芸当ができるのは……まるで──」


──スパァンッ!!


一閃。


──ドサッ……!!


ゴーリーの巨体が、音を立てて地面に崩れ落ちた。


ルーナは剣先を思い切り蹴り、その反動を利用して空中へ舞い上がると、

回転しながら木剣で相手の頭部を打ち据えていた。

着地も軽やかに決め、木剣を鞘へと納める。


円形闘技場に、張り詰めた静寂が訪れる。


──それを破ったのは、審判の震える声だった。


「はっ……! しょ、勝者──ルーナ選手!!!」


──うおぉぉぉぉぉぉっ!!!

──わあぁぁぁぁぁっ!!

──ヒューヒューヒュー!!


歓声と口笛が渦を巻き、観客席が揺れる。

ルーナはにこりと笑みを浮かべ、小さく手を振った。


だが、その姿を見つめる審判の眼差しは鋭い。


(な、なんだ……今の動き……まるで──女神様のようじゃないか……)


気絶したゴーリーが担架で運ばれていくのを見送りながら、

審判は唾を飲み込む。


「そ……それではルーナ選手。次の試合まで控室でお待ちください……」


「おっけ~!」


ルーナは軽い足取りでスキップしながら控室へと戻っていく。


その様子を、場外からじっと見ている一つの影があった。

審判役の副団長セドリックの隣に赤い鎧をまとった中年の男が歩み寄る。


「セドリック……彼女は一体……」


「……!! ガレオス団長!!」


男の名は──ガレオス・グランフォード。

この予選大会の参加者であり、現役の騎士団長でもある。


「団長! ご覧になりましたか!? 彼女のあの動き……!!」


「あぁ、観客席から見ていた。あの立ち回り、それに太刀筋……只者じゃないのは確かだな」


ガレオスは短く整えられたヒゲを無造作に撫でながら、低く言った。


「おい、セドリック。あの“ルーナ”という女性……身元を調べられるか?」


「そ、それはどういう意味で……?」


ガレオスは口元に不敵な笑みを浮かべ、ルーナが去っていった入口の方へ視線を送った。


「騎士団にスカウトするに決まってるだろう。……当初の目的を忘れたわけじゃないだろうな?」


「は、はい! もちろん忘れておりません! この闘技大会を経て、優秀な人材を募集する……でしたよね?」


「ああ。ああいう人材は、この国にとって必要不可欠だ。──彼女……ルーナを、なんとしてでも騎士団に迎え入れる」


そう言い残し、ガレオスは控室へと戻っていった。

セドリックはすぐに部下へ命じ、ルーナの素性を調べさせる手配をする。


一方その頃、何も知らぬ当の本人──予選会場を後にしたルーナ……いやルミナスは、屋台の料理を頬張りながら腹ごしらえの真っ最中だった。


「ん~♪ これもセシリアとフェリスに買って帰ろ~♪」


次の対戦相手に備え、嬉々として両手いっぱいに紙袋を抱える。


──そして、その後もルーナは次々と予選を勝ち抜いていった。

一撃も攻撃を受けることなく、しかも全ての相手を一撃で気絶させて。



──ガレオス団長の控室。


「セドリック、何か情報は掴めたか?」


 扉を開けて入ってきた副団長に、ガレオスが低い声で問う。


「いえ……ほとんど何も。ただ、受付の者によれば──彼女は孤児なのではないかと」


「孤児……?」


「ええ。姓がなく、生まれた日も不明だと話していたそうです」


ガレオスは腕を組み、眉間に深い皺を刻む。


「……そうか。まあいい。次は俺自身が彼女と剣を交える。直接聞き出すとしよう」


「団長、気をつけてください。ルーナ選手は、ほぼ全ての相手を“一撃”で倒しています……!」


その忠告に、ガレオスはコクンと頷き、立ち上がった。


「安心しろ。そう簡単に負ける私ではない」



──闘技大会・予選決勝。


ついに決勝戦。勝利すれば本戦への切符が与えられる一戦だ。

審判の前に立つルーナと、その対面に立つガレオス。

ガレオスは鋭い視線を投げかけ、静かに問いかける。


「ここまで──全て“一撃”で片付けてきたそうだな。……剣は我流か?」


不意の質問に、ルーナの肩がわずかに揺れた。


「あ……うーん、まあそうだね……!」

(まあ、ゲームで身につけた動きだし……我流、ってことでいいよね……)


──スッ。


ガレオスは無言で手を差し出した。


「いい試合になるといいな」


その厚く逞しい手を、ルーナはにこりと微笑んで握り返した。


「うん、お互い頑張ろう!」

(……騎士団のガレオス団長だ。さすがに気づいてないよね……?)


一瞬だけ視線が交わったが、ルーナはすぐに逸らす。

ガレオスは握った手の感触を確かめるように一瞬目を伏せ、

何かを悟ったような表情を見せた。


セドリック副団長が、場内に響き渡る声で宣言する。


「それではこれより──闘技大会予選、決勝戦を行います! 両者、配置について!」


ガレオスは長方形の大盾を左腕に、木剣を右手に構える。

ルーナは片手で木剣を軽く持ち、リラックスした構えを取った。


「──始めっ!」


手が振り下ろされ、決勝戦の火蓋が切られる。


しかし、開始直後の二人は動かない。

視線を交わし、互いに相手の出方を探っていた。


(来ない……か。流石だな。俺が盾持ちだから、カウンターを警戒している……)


「──ならっ!」


最初に動いたのは、ガレオスだった。


ダッ! と踏み込み、大盾をルーナに向かって投げ放つ。


──ブンッ!


「ちょっ! 飛び道具は禁止じゃないの!?」


──ガキンッ!!


ルーナが木剣で弾いたその盾を、ガレオスは空中で器用にキャッチし、再び腕に装着。

その勢いのまま距離を詰め、鍔迫り合いへ持ち込む。


──ギギギギギッ……!


「盾は飛び道具じゃない、だからセーフだ」


「いや、真っ直ぐ飛んできた時点でアウトでしょ!?」


冗談めいたやり取りを交わしつつも、ガレオスは盾をルーナとの間に押し込み、そのまま体重を乗せて押し出す。


──グンッ!


ルーナは盾を蹴り、一回転しながら後方へ跳んだ。


「流石……。ではこれはどうかな!」


ガレオスは盾を正面に構え、剣を前へ突き出すと、そのまま地響きを立てて突進する。


──ドドドドドドッ!


狙いはルーナの着地を潰す“着地狩り”。


「着地狩りってことね……! でも──!」


盾が迫る直前、ルーナは体をひねり、回転の勢いを乗せた木剣をガレオスの腹部へと叩き込む。


──ギュルンッ!


  ──ドガッ!!


「ぐぬっ……!?」


咄嗟の防御も間に合わず、重たい一撃にガレオスは足を止め、片膝をつく。


「……くっ。やはり俺では勝てないか」


そう呟くと、ガレオスは潔く木剣を投げ捨てた。


「……?」


突如の行動に、ルーナは首をかしげる。

ガレオスは両手で盾を握り、深く腰を落とした。


「はあぁぁぁぁぁっ……!! ──これが今の俺の全力だ……! 

あなたに、全てをぶつけて見せる!」


瞬間、彼の周囲の空気が揺らぎ始める。

魔力ではない、もっと原始的で剛烈な――闘気の奔流。

観客席にも、その圧力がひりつくように伝わってくる。


その様子を見たセドリック副団長が、慌てて叫んだ。


「あ、あれは……!! 団長、その技は危険です! ルーナ選手、今すぐ棄権を──!」


しかし、ルーナはその忠告を聞くどころか、自らの木剣をひょいと放り投げた。


「なっ……!? 何をしているんです! 早く――!」


副団長が制止する間もなく、ルーナは口元に笑みを浮かべる。


「ガレオス団長が“全力をぶつける”って言ってるんだよ? それを受けないなんて……先生失格じゃない」


「……先生……?」


あっけに取られるセドリックの視界の奥で、ガレオスが咆哮を上げた。


「行くぞッ!! ──《剛盾崩撃(ごうじゅんほうげき)》!!!」


──ズドドドドドドドッ!!!


大盾が地面をえぐり、土を撒き散らしながら猛突進する。

その勢いは、まるで横から迫る隕石の衝突のごとし。


「うおおおおおおおッ!!!」


ルーナは両腕を大きく広げ、正面から受け止める構えを取った。


──ドガアァァァァンッ!!!


耳をつんざく衝撃音が闘技場全体を揺らす。

セドリックは反射的に耳を塞ぎ、叫んだ。


「……う、受け止めた……!? あれを、正面から……!」


──ググググググッ……!!


足元の地面が沈み込み、粉塵が舞い上がる。

ルーナは全身でその衝撃を受け止め、耐えていた。


だが、ガレオスはさらに闘気を高め、押し込む。


「まだだ……!! まだまだァァッ!!!」


──ズズッ……!


一瞬、ルーナの足が後方へ滑った。

そのわずかな変化を察し、ガレオスはすっと力を解く。


そして――


──ドシャッ……バタンッ。


膝から崩れ落ち、仰向けに寝転がる。


「くぁ~~……! 負けだ、負けだ……!」


荒い息を吐きながらも、晴れやかな笑顔を浮かべるガレオス。

その降参を確認したセドリック副団長が、大きく息を吸い込み叫んだ。


「勝者――ルーナ選手!!!」


──わあああああああああっ!!!

──ヒューヒューッ!!


割れんばかりの歓声の中、ルーナはガレオスのもとへ歩み寄り、手を差し伸べた。


「お疲れ様! ナイスファイト!」


ガレオスも笑みを浮かべ、その手を力強く握り返した。


「やっぱりな……その声、それにその言葉遣い。――あんた、ルミナス様だろ?」


「──!?」


ルーナの肩がビクリと跳ね、冷や汗がつうっと伝う。

「な……なーんのことかなぁ~……ひゅ~ひゅひゅ~……♪」

音程も外れた口笛を吹きながら、必死に誤魔化そうとする。


しかし、ガレオスの眼差しは確信に満ちていた。


「その変装がどういう仕掛けかは知らんが……俺の《剛盾崩撃(ごうじゅんほうげき)》を正面から受け止められるのは、この国じゃあんたくらいだ」


観念したように、ルーナ――いや、ルミナスは小さくため息をついた。


「はぁ……バレちゃったかぁ……。じゃあ、これで闘技大会は終わりかな……」


肩を落とす彼女に、ガレオスはニッと笑みを返す。


「チクったりはしませんよ。理由は知らんが、そこまでして出場したいってんなら、きっと何か考えがあるんでしょう?」


実際には大した理由などなかったが、「黙っていてくれる」という言葉に、ルミナスは大きく頷いた。


「そ、そうそう! これには――ふかぁ~い、ふかぁ~~い訳があるのっ!」


ガレオスは深く追及せず、腰に手を当てて頷く。

そこへ、審判役のセドリック副団長が駆け寄ってきた。


「ちょっとちょっと! 団長、何やってるんですか!」


「あー……わりぃ、わりぃ」


「ルーナさんが馬鹿力だったから助かりましたけど、普通なら粉々ですよ!?」


(……馬鹿力、ねぇ)

ルーナは半眼になりつつ、その言葉を聞き流した。


「まぁほら、ルミナ……じゃなかった、ルーナも無事なんだからいいだろ」


やれやれと首を振りながら、セドリックは闘技場中央に進み、大声を張り上げた。


「それではこれにて、闘技大会予選を終了します! 本戦へ進む選手は――ルーナ選手! 皆さん、大きな拍手と応援を!」


──わあああああああああっ!!!

──パチパチパチパチッ!!

──頑張れぇぇぇ、ルーナぁぁぁっ!!


観客席から飛び交う声援に、ルーナは笑顔で手を振る。


「さて……俺も、あとは審判役に徹するとするか」


腰を軽く叩きながら、ガレオスは手を振って闘技場を去っていった。


残されたセドリックが、ぺこりと頭を下げる。


「この度は団長が本当に申し訳ない……!」


「あ、いえいえ~、全然気にしてないですよぉ~」


そう軽く笑って返し、ルーナも足早に闘技場を後にした。


こうして、ルミナスは危なげなく予選を突破。

そして次なる舞台は――本戦。

一体、どんな強敵が待ち受けているのだろうか。



──ガレオス団長の控室にて。


ガレオス団長は、セドリック副団長とルーナについて話し合っていた。


「それで団長。ルーナさんは……スカウトしない、ということでよろしいんですね?」


「あぁ、そうだ。本人がそういうのに興味がないと言っていた」


「もったいない話ですが……不本意なら仕方ありませんね」


(……まぁ、こいつに本当のことを話したら、真面目すぎて絶対に隠せねぇだろうしな)


「だが、人材探しは続行だ。優秀な人材を見つけるまで気を緩めるな」


「はいっ!」


副団長の背筋が正され、控室には緊張感が戻る。



──そしてその日の夕方。ルミナス邸にて。


「ちょっとルミナス、遅いじゃないのよ!」


ダイニングには腕を組んだフェリスと、隣で小さく手を振るレシェナの姿。

セシリアはキッチンで夕食の仕上げに取りかかっているようだ。


「ごめんごめん! ちょっと色々あってさっ!」


ルミナスはレシェナにウィンクを送ってから、席に腰を下ろした。


「はい、これ。屋台で買ってきたお土産! 夕食と一緒にみんなで食べよっ!」


袋いっぱいに詰まった串焼きや揚げ物をテーブルに並べ、満面の笑みを浮かべるルミナス。


「あんた……どんだけ買い漁ったのよ」


呆れたようにフェリスがため息をついた、そのとき――。


「ルミナス様っ!! お戻りになられたのですね!」


キッチンから料理を運びながら、セシリアがぱっと笑顔を向けてくる。


「うん! 遅くなっちゃってごめんね!」


「いえいえ! ルミナス様の分もちゃんとございますので、すぐにお持ちします!」


「ありがとっ、セシリア!」


セシリアはすぐにルミナスの料理を運び四人とも席につく。


「それじゃあ。いただきまぁすっ!!」


温かな空気の中、四人はテーブルを囲み、笑い声とともに夕食を楽しんだ。

そしてその夜、フェリスとルミナス――いや、“ルーナ”は、迫り来る闘技大会本戦に備え、しっかりと休息を取るのだった。

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