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第五章 第8話:小さき女神と開催の宣言。

              ──あらすじ──


エルディナ王国で盛大な祝賀会が開かれる夜──

華やかなドレスに身を包み、ひとりひとりが輝く中、

肝心の主役・ルミナスが“ある理由”で登場できずにいた!?

果たして、彼女は無事に祝賀会へと姿を現すことができるのか。

そして祝賀の宴に告げられる、予想外の“次なる試練”とは──?

──エルディナ王国・王宮 大広間


──ざわ…ざわ…ざわ……


王宮の大広間は、今まさに盛大な祝賀会の真っ最中だった。

部屋の中には円卓がいくつも並べられ、そこにはルミナスが討伐した

魔獣「スパイクジロ」のロースト肉が豪勢に盛られている。


さらに王宮の外にも同じようにテーブルが設けられ、

民も自由に参加できる形が取られていた。

畑で収穫された新鮮な野菜、討伐組合によって仕留められた魔獣の肉──

それらが並ぶ光景は、かつての活気を取り戻しつつあるエルディナ王国の象徴でもあった。


その背景には、ルミナスを筆頭とする者たちの尽力と、

彼女を信じて共に歩んだ人々の努力がある。

今日の宴は、まさにその成果を讃える場であった。


会場にはレオナール、リゼット、バルゴ、ミーナ、ミレティアらが、

いつもとは異なる華やかな衣装に身を包み集っていた。

彼らの視線は、まだ姿を見せぬ主役を待ちわびている。


しびれを切らしたリゼットが、そっとレオナールに囁いた。


「ルミナス様、なかなかお姿を見せませんね……」


「たしか、レシェナ殿が仕立てたドレスの着付けを、客間で行っていると聞いたが……」


 


──王宮・客間


その頃──

王宮の一室である客間は、ある種の“異常事態”に見舞われていた。


ルミナスを中心に、セシリア、フェリス、レシェナの三人が円を描くように立ち尽くしている。


「ほら、言わんこっちゃない! 楽しようとした罰よ!!」


フェリスが、やれやれといった表情でルミナスを見やる。


「困りましたね……。すぐに戻るなら、まだ間に合いそうですが……」


セシリアは眉をひそめながらも、穏やかな口調でそう言った。


「ど、どうする……? このドレスにも形魂しておこうか……?」


レシェナがそう言って、鞄からブローチを取り出す。


当のルミナスは、自分の身体を触れて確認し──そして叫んだ。


「う、うそぉぉぉぉぉっ!!」


そう、原因は明白だった。

神纏い化を繰り返し使った反動で、彼女の身体はすっかり“小さく”なってしまったのだ。


「ったく……。グレイスを魔馬車に忘れたくらいで、わざわざ窓から飛び出して行くなんて……」


フェリスは深いため息をつきながら、呆れ顔で言い放つ。


「だ、だってぇ……」


しおれた声で言い訳するルミナス。


「でも、今回はただ飛んでいただけですし……戻るのは早いと思いますが……」


セシリアがフォローを入れると、レシェナがルミナスの服を見て感心したように呟く。


「こうして見ると本当に不思議……。私、実際に見るのは初めてだけど……あらためて、形魂しておいて良かったわ」


ルミナスの元々着ていた服は、身体の縮小に合わせて自然とフィットしていた。


「でも……もう皆、会場で待ってる……。や、やるしかない……!」


決意を固めたルミナスは、小さな身体のままでもドレスを着る覚悟を決めた。


「それじゃあ、ここに血を……」


レシェナが差し出したブローチを、ルミナスは両手で受け取る。

そして、自らの指先に小さな傷をつけ、一滴の血を垂らした。


──ピタリ


ドレスと魂が共鳴し、形魂の処理が完了する。


「……よ、よし……!」


そう呟いたルミナスは、真っ白なドレスを纏ったまま──

小さな背丈で、皆が待つ大広間へと向かっていった。


──王宮・大広間


──ざわ…ざわ…ざわ……


賑わう会場を、二手に分かれた大階段の上から見下ろすのはルミナスたち。

手すりの隙間から、ルミナスがひょっこりと顔をのぞかせた。


「けっこう……人いるね……」


その声に、すぐ上の段からフェリスが覗き込んで返す。


「そりゃそうよ。エルディナ中の貴族や王族が集まってるんだから」


さらにその上から、セシリアが静かに指を差す。


「ルミナス様、あちらにレオナール様たちがおられますよ」


「……あっ、ホントだ!」


嬉しそうに顔を輝かせるルミナス。


そんな様子を見ていたレシェナが、ふと思いついたように声をかけた。


「どうする? 私たちが先に降りて行って、陛下に事情を説明しようか?」


「うん……お願いできるかな?」


ルミナスが小さく頷くと、セシリア、フェリス、レシェナの三人もそれに応えた。

主役を階段上に残し、三人は静かに大広間へと降りていく。


「──あ、皆さん!」


先に気づいたのはリゼットだった。

振り返ったレオナールたちは、ドレス姿の三人に目を見張る。


「わぁ〜……! セシリアさん、キラキラしててお姫様みたいですぅ〜!」


ミーナが目を輝かせて声を上げた。


セシリアのドレスは──

いつもは清楚なメイド服で控えめに仕える彼女が、

この日だけはまるで“別人”のようだった。


身に纏うのは、ロイヤルブルーを基調とした優美なドレス。

清らかな白と気品ある黒が絶妙に織り交ぜられ、

落ち着いた色彩の中に確かな華やかさを宿している。


袖は大胆に取り除かれ、白い素肌が光を受けて柔らかく輝く。

長く流れるスカートの裾は歩くたびにふわりと揺れ、

視線を自然と奪っていく。


腰には黒のリボンが凛と結ばれ、その立ち振る舞いからは──

彼女がかつて高貴な家に育ったことを、言葉にせずとも静かに物語っていた。


「おぉ……フェリス殿。いつも軽鎧姿だから、今日は見違えましたな」


レオナールが目を丸くして賞賛する。


フェリスが身に着けていたのは──

戦場を駆ける女戦士とは思えぬ、

深い紺青こんじょうのスレンダードレス。

流星を散らしたような繊細な刺繍が、

まるで夜空そのものを纏ったような印象を与えていた。


露出を抑えつつも大胆に開かれた胸元、片方だけの肩紐が、

凛とした女性らしさを引き立てる。

身体に沿うシルエットから裾へとふわりと広がるそのラインは、

鋼の意志を秘めた気高さを象徴していた。


髪はすっきりと後ろでまとめ上げられ、黒のイヤリングが静かに揺れる。

控えめながらも凛とした存在感を放つその姿に、

自然と人々の視線が集まっていた。


まさに──夜の剣を思わせる気高さ。


「おう! レシェナもよく似合ってんじゃねぇか!」


バルゴが腕を組み、豪快に笑いながら声をかける。


レシェナのドレスは、漆黒の布地に秘められた神秘と気品が漂う一着だった。

肩からデコルテにかけてわずかに露出し、

そこに重なる繊細なレースが上品な華やかさを加える。


スカートの裾には、蜘蛛の巣を模した白銀の刺繍。

それは夜に浮かぶ月光のような儚さと、

不思議な魔力を感じさせる装飾だった。


美しくまとめられた黒髪には、ミレイユから贈られた一輪の花──

ダイヤモンドリリーの髪飾りが飾られ、ほのかに輝きを添えている。


控えめにうつむくその横顔に、琥珀色の瞳が一瞬だけ揺れる。

胸の奥に秘めた感情が、ふとこぼれ出たかのように。


陰りを帯びた美しさと、奥ゆかしい気品──

まさに“黒薔薇の乙女”と称するにふさわしい装いだった。


「うん、さすが私の孫娘ね。着る相手のことまでしっかり考えて作られてるわ」


ミレティアが満足げに頷く。


その一方で、三人の中にルミナスの姿が見えないことに気づいたレオナールが、セシリアに問いかけた。


「して──ルミナス様は、いずこに?」


目を合わせ、気まずそうにした三人。

代わりにセシリアが一歩前に出て、そっと告げる。


「実は……」


ルミナスが神纏い化を繰り返しすぎた結果、小さくなってしまった──。

セシリアがその事情を皆に説明すると、周囲にはどよめきが走った。


「そ、それは……!」


驚きを隠せない一同に、セシリアは階段の上をそっと目で示す。


「現在、ルミナス様はあちらで待機されております」


視線の先、二手に分かれた階段の手すり越しに、

ひょこっと小さなルミナスが顔を覗かせていた。

手のひらほどの小さな手を、ちょこんと振っている。


「わぁ~……! 本当に小さくなったルミナス様だぁ~!」


ミーナが目を輝かせ、小動物でも見るかのような表情でルミナスを見つめる。


「おいおい、これじゃあ女神さまのドレス姿はおあずけってことか?」


バルゴが苦笑いしながら冗談めかしてつぶやく。


「だ、大丈夫です! ちゃんと形魂は施してありますから、サイズが変わってもドレスはぴったりです!」


レシェナが慌てて説明したそのとき──


大広間の入口が開き、ヴェルクス王、アレクシア、そしてグランツが揃って姿を現した。


ヴェルクス王は歩みを止め、軽く一礼。

アレクシアは気品ある微笑みを浮かべ、小さく手を振る。

その後ろでは、グランツが両手をブンブンと勢いよく振り回しながら国王の後に続いていた。


三人が階段下の演壇に立つと、ヴェルクス王が声を張り上げる。


「皆の衆、よくぞ参られた!」


その声に、場の喧騒が一瞬で静まる。


「本日集まってもらったのは、我が国の女神──ルミナス・デイヴァイン殿の帰還と、

ザハール自由連邦国の無事を祝しての祝賀会でもある──!」


高らかに響く開会の言葉。

その荘厳な雰囲気に、フェリスが思わず小声でセシリアたちに話しかける。


「ど、どうするのよ!? もう始まっちゃってるじゃない……!」


「そうですね……確か、このあとすぐにルミナス様のご挨拶があるはずです……」


「わ、わわわっ……どうしよう! ね、ねぇ、始まっちゃったよ……!」


レシェナが不安げに周囲を見回し、そわそわと身体を揺らす。


そして──


「──それではここで、女神ルミナス殿より祝辞の言葉を頂戴いたそう」


ヴェルクス王が進行の言葉を告げると、場が静まり返った。


ルミナスの出番が──来てしまった。


──しん……


会場は、まるで息を呑むように静まり返る。


──ざわざわ……ざわ……ざわ……


しかし数瞬後、次第にざわめきが広がり始める。


「や、やばいっ……! どうする、セシリア……!」


「フェリス……ここは一度、私たちが──」


フェリスとセシリアが目を合わせ、こくりと頷いて一歩を踏み出そうとした──そのときだった。


──フッ……。


「──!?」


突如として、大広間を灯していた明かりがすべて消えた。


闇が訪れる。


そして──


──コツ… コツ… コツ…


静寂の中、階段を降りる足音が一つ、また一つと響き渡る。


──バサッ!!


階段の上──二手に分かれた中央の最上段から、

白い布がふわりと舞い降りた。

まるで劇場の幕が下りるかのように。


「な、なに……!? 一体、何が始まるっての……」


フェリスが警戒を滲ませながらも、その不可思議な光景に目を凝らす。


「……! フェリス、あれをっ!」


セシリアが突然、白布を指差す。


──カッ!


布の内側──奥から光が差し込む。

白幕に映し出されたのは、一人の少女のシルエットだった。


長い髪が風に揺れ、小さな身体が静かに立つその姿。

ルミナスの影だ。


そしてその影が、ゆっくりと両手を広げ、呪文を唱える。


「……《エトワール・メモリア(星々の記憶)》」


──シャラララララ……


星が降る。

天井一面に広がった光の粒たちが、まるで命を得たかのように舞い、

大広間に幻想的な夜空を描き出していく。


会場全体が、魔法の夜に包まれたようだった。


「わぁ……綺麗……」


誰かの、感嘆の声がそっと零れる。


そして──


白い幕の向こう、ルミナスの声が静かに、しかし確かに響いた。


「皆様、今宵は、私たちの帰還、そしてザハールの民の無事を祝して開かれた祝賀の夜です。


ささやかではありますが──私から、夜空の星を皆様に贈ります。


この光が、皆様の日々に静かな祝福をもたらしますように。


そして今後とも、エルディナ王国の安寧を願って──祝福を……!」


──パチンッ


ルミナスが小さく指を鳴らした。


すると──天井に輝いていた星々が、はらはらと降り注ぐ。

まるで雪のように、儚く、しかし温かい光の粒が、大広間の空間を包み込んだ。


誰もが──その光景に、言葉を失った。


優しさと美しさが混じり合い、ただ静かに、心の奥を満たしていく。


そのとき、レオナールがふと、白幕の上にある“気配”に気づいた。


「……ふふ、なかなか名案じゃないか……ヴィス」


彼の視線の先には、誰にも気づかれぬよう息を潜めて見守る、

《幻視の記録者》──ヴィスの姿が、かすかに揺れていた。



──遡ること、数分前。


ヴェルクス王が会場に現れ、開会の言葉を述べているその頃──

ルミナスは階段の上で一人、焦燥に駆られていた。


「ま、まずいっ……!! 非常にまずいぞぉぉぉ……!!」


(この後、祝辞の言葉を任されてるのに……この姿じゃ、どう見たって私だって言う説得力ゼロじゃん……!)


「ぐぬぬ……」


額にじっとりと汗を滲ませながら、ルミナスは頭を抱える。


そんな彼女の背後から、不意に声がかかった。


「……おまえ、ルミナスか?」


「ひょわっ!!?」


びくっと肩を跳ねさせて振り返ると──

そこには、いつの間にか現れたヴィスの姿があった。


「ヴィス……!!」


その表情には、いつものように感情の起伏は見られない。

ただじっと、小さな姿になったルミナスを見つめている。


「……もしかして、困りごとか?」


「うんっ!!うんっ!!」


ルミナスは勢いよく首を縦に振り、事情を一気に説明した。


ヴィスは静かに頷くと、辺りを見回し──

近くのテーブルに掛けられた白いクロスに視線を向けて、ふっと鼻で笑う。


「……いい考えがある」


「えっ……?」


その言葉の意味を問う間もなく──


「俺が大広間の照明を消す。その間に階段を降りて、中央に立て」


「なっ……そ、それだけ!?」


「急ぐんだろ?」


緊急事態。猶予はない。

説明もないまま、ヴィスはすっと姿を消した。


──そして。


──フッ……


大広間の照明が一斉に消えた。


「……っ!」


ルミナスは息を呑み、ドレスの裾を踏まないようにゆっくりと階段を降りていく。


──コツ… コツ… コツ…


(暗視スキルあってよかったぁぁぁ~~!!)


心の中で叫びながら、階段を下りきったそのとき──


──バサッ!!


頭上から、白い布が垂れ幕のように降りてきた。


(……!! なるほど……!! そういうことかっ!!)


瞬時に理解したルミナスは、幕の裏で小さく呟いた。


「……《ライトショット》」


魔力の光弾がルミナスの背後へと放たれ、彼女の影が白布に映し出される。

そこに浮かび上がったのは、小さくなった今の彼女ではない──

“いつものルミナス”の、堂々たるシルエットだった。


(ありがとう、ヴィス……! 本当に助かった……! あとで何かお礼しなきゃ……!)


そして彼女は静かに、祝辞の言葉を述べる。


夜空の星が舞い、会場が幻想に包まれ──

祝福の魔法と共に、ルミナスの言葉は人々の心に深く染み渡った。


そして──


「ふ、ふぅ~……!! な、なんとかなった……!!」


祝辞を終えたルミナスは、そそくさと階段へ戻り、

その場にぺたんと座り込み、額の汗をぬぐった。


やがて、大広間に光が戻る。


拍手と歓声が、一気に場を包み込んだ。

その中心には、小さな──けれど誰よりも輝いた、“女神”の姿があった。


「ルミナス様!! とても素晴らしかったです!!」


「あんた、やるじゃないっ!」


「すごく綺麗だった……あたし、見惚れちゃった……!」


祝辞を終えたルミナスの元へ、セシリア、フェリス、レシェナが駆け寄ってくる。


「あ、みんなぁ〜……なんとかなったよぉ〜……」


──ぐぐぐ……


「おっ……!? おぉ!?!?」


突如、ルミナスの身体が淡い光に包まれ──

小人化していた身体が、徐々に、元の大きさへと戻っていく。


純白のドレスもそれに応じて膨らみ、まるで花が咲くように美しく広がった。


──ファサァァァ~……


それはまさに──

夜空から舞い降りた一輪の星の花。


祝賀の夜に咲いた、神話のような幻想。


彼女のドレスは、透き通るような純白から裾に向かって淡く紫が差し込み、

咲き誇る葡萄の蔓のようなレースが優雅に流れている。

繊細なシフォンのレイヤーは風に揺れ、

見る角度によって柔らかな光を放った。


絹のような白髪。陶器のように滑らかな肌。

そして、夜空の星を閉じ込めたかのような瞳──


ルミナスのその姿は、誰もが“女神”と錯覚してしまうほどに神秘的で崇高な美しさを放っていた。


見上げれば星。見下ろせば花。

ルミナスが歩くその道は、まさしく祝福された神域のごとく。


「も、戻ったぁぁぁ〜〜!!」


ルミナスはその場でスクッと立ち上がり、両手を天に掲げて叫ぶ。


「……!! ルミナス様っ!! と、とてもお美しい……!!」


セシリアは胸元で手を重ね、目を輝かせて見惚れる。


「あ、あんたのドレス姿、初めて見たけど……けっこうその……な、なんでもないわっ!」


フェリスは照れ隠しするように視線を逸らす。


「はわっ……!! すごく綺麗!! やっぱりあたしの目に狂いはなかったわ……!」


レシェナは興奮気味に、ルミナスの周りをくるくると回る。


そしてようやく、ルミナスは皆の前に堂々とドレス姿を披露した。


「よしっ!! みんな、さっそく下に降りてご飯食べよ!! 私、お腹ペコペコ──」


彼女が階段を降りて料理の並ぶテーブルに近づいた、その瞬間。


「おおおおおおっ!!」


「ルミナス様っ!! さっきのすごく良かったです!!」


「あ、あの……握手してくださいっ!!」


「とてもお美しいですっ!! そのドレス姿、まさに女神っ!!」


「ルミナス様ぁぁぁ!!」


──わあぁぁぁぁっ!!


場の注目を集めたルミナスに、民たちが次々と声をかけながら押し寄せてくる。


「おおおお……落ち着いてみんなっ!!」


食事にありつこうとしていたルミナスは、じわじわと大広間の奥へと追い詰められていく。


「なにやってんのよ……」


フェリスは目を細め、呆れたように呟く。


「フェリス! 私、ルミナス様を護衛してきますっ!!」


セシリアは即座に行動し、ルミナスの元へと駆け出す。


その時──

会場全体に、澄んだ声が響き渡った。


「お集まりのみなさまっ!!」


声の主は、アレクシアだった。


「これより、わたくしアレクシア=エルディナより大切なお話がございますの!!」


その一言に、民衆の視線が一斉にステージへと向けられる。


「今だ……!! チャ〜ンス!!」


民の注意が逸れた一瞬を見逃さず、ルミナスはすかさず料理を皿に盛り始めた。


「ルミナス様っ!! 手伝います!!」


セシリアもその流れに加わり、慣れた手つきで料理をよそっていく。


アレクシアの演説が続く中──


「エルディナ王国は、以前にも増して強く、そしてたくましく成長してまいりました!」


「セシリア、そのスパイクジロのお肉、柔らかくて美味しいよっ!!」


「ふふ、後でシェフにレシピを聞いておきますね……!」


アレクシアは高らかに宣言する。


「──今をもって、ここに“闘技大会”の開催を宣言いたしますわっ!!」


「むぐぐっ!?!?」


口いっぱいに料理を詰め込んでいたルミナスは、目を見開き──

頬をぷくっと膨らませたまま、固まっていた。


(──えっ!? 闘技大会ぃぃぃ!?)


──宴の中に、新たなる騒動の予感が漂い始めていた。

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