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第五章 第7話:光と闇のサプライズ。

             ──あらすじ──


新たな一歩を踏み出したレシェナを送り出し、ルミナスたちは久々に農場へ。

そこで彼女を待っていたのは、想像を超える“豊穣”のサプライズだった。

一方その頃、神域の奥底では、魔族神が“新たなる闇”の目覚めにほくそ笑んでいた──。



──エルディナ王国・中心街 エンヴェラ工房前


ルミナスたちはエンヴェラ工房を後にし、次なる目的地──農場へと向かっていた。


「それじゃあルミナス様たちぃ~! またあとでねぇ~!」


工房の前で、ミーナが嬉しそうに手を振る。

その隣で腕を組んでいたバルゴも、にかっと笑って言った。


「ばあさん、レシェナにルネリアのこと、たくさん教えてやってくれよ!」


「言われなくてもそうするつもりさね。さ、レシェナ──ルネリアが使ってた作業場を見せてあげるよ」


ミレティアはそう言って、レシェナの手をそっと取る。

レシェナも静かに頷き、二人は手を繋いだまま新たな“始まり”の場所へと歩き出す。


「じゃあ、あたしはお祖母ちゃんのお店で、ルミナスたちのドレス作ってるね!」


無邪気にそう宣言するレシェナに、ルミナスも元気よく応えた。


「おっけー! じゃあ私たちは一旦農場に寄って、それから屋敷に戻るね!」


「それでは、レシェナ様。後ほどお迎えに上がります」


セシリアが丁寧に一礼する。


「あんた、あんまり派手派手なドレス作るんじゃないわよ?」


フェリスがレシェナに向かって釘を刺すと、場にふわっと笑いが広がった。


──こうして、レシェナは新たに始まる“フルギア店”へ。

ルミナス、セシリア、フェリスの三人は農場へと向かう。



──魔馬車の中


中心街を離れ、農場へ向かう道中。

ルミナスは、ふと思い出したように話を切り出した。


「いやぁ……でもさ。レシェナのお母さんのこと……あの事件、二人とも知らなかったの?」


御者席の小窓から顔を覗かせて、セシリアが答える。


「そもそも、私もフェリスも当時は生まれておりませんので……。記録にも詳しくは残っていないのです」


「ん~……」


隣で腕を組んでいたフェリスが、何かを思い出すように唸る。


「どうしたの? フェリス」


ルミナスが顔を覗き込むと、フェリスは少し戸惑いながら口を開いた。


「いやね……? 小さい頃によく言われてたのよ。“悪い子は鎧に魂を取られて連れて行かれちゃう”って……」


「雷が鳴ったらヘソ隠せ、的なやつ……?」


「……? なにそれ?」


フェリスが小首をかしげたところで、セシリアが思い出したように口を開く。


「ああ、“呪いの鎧”の話ですね。夜になると、誰も着ていない鎧が夜道を徘徊していて……

もし出会ってしまったら最後、無理やり鎧を着せられて魂を奪われる──そんな話を聞いたことがあります」


「あぁ~! それそれ!」


フェリスが指を鳴らして頷く。


「なにそれ、こわっ……」


ルミナスが苦笑しながら肩をすくめると、セシリアが少し真面目な表情で考え込んだ。


「もしかしたら……その事件が噂話として独り歩きし、迷信や怪談になったのかもしれませんね」


「なぁるほどね~……」


ルミナスは深く頷き、納得した様子で窓の外に視線を向けた。



──農場・小屋


魔馬車が農場に到着するやいなや、ルミナスは勢いよく窓を開け、身を乗り出して手を振った。


「おーーーいっ!! ただいまーーー!!」


その明るい声に、休憩中だった農民たちが一斉に顔を上げた。


「おおっ!! ルミナス様じゃ!!」

「ルミナス様がお帰りになられましたぞっ!!」


「え!? 本当に!?」

「間違いない、豊穣の女神さまだ!」


「またお姿を拝めるとは……」「お元気そうで、安心いたしました!」


口々に喜びの声を上げながら、農民たちがルミナスに駆け寄ってくる。

その光景に、ルミナスの頬にも自然と笑みが広がった。


「みんな、元気だった? 怪我とか、病気とかしてない?」


そう問いかけると、一番年配の農民がにこやかに笑いながら歩み寄ってきた。


「はっはっは。皆、元気でやっておりますとも。これもひとえに、ルミナス様からお恵みいただいた野菜たちのおかげ……」


そう語ると、そばにいた若者が老人の耳元で何かを囁く。


「……ほっほっほ。そうじゃった、そうじゃった。ルミナス様、どうぞこちらへ……」


「??」


小首を傾げるルミナスたちを先導し、老人はのそのそと歩き出す。

彼のあとに続いて歩くこと、約五分──畑から少し離れた土地に辿り着いたその時だった。


「っ──!!」


──ずしゃぁっ!


ルミナスはその場で崩れ落ち、両膝をついた。


「ルミナス様っ!? いかがなされましたか!」


セシリアが駆け寄り、慌ててその背を支える。

フェリスも驚いたように叫んだ。


「ちょっと、あんた急に……え、ちょ、なに泣いてんのよ!?」


「おぉぉぉ~~……!! これは……これは泣かずにはいられないよぉぉぉ~~……!!」


ルミナスは、滝のような涙を流していた。

感動が、言葉を超えて胸を突き上げてくる。


彼女の目の前に広がっていたのは──


「稲だぁぁぁぁぁ~~……!!!!」


そう、そこには立派な“田んぼ”が作られていた。

苗ではなく、すでに稲として青々と育った姿に、ルミナスは心を打たれたのだ。


四隅には、グランツが開発したという“浄化の魔石”が取り付けられた長い棒が立てられ、

ほんのりと輝きを放ちながら、大地を優しく守っていた。


「ほっほっほ。そんなに喜んでいただけるとは、作った甲斐がありましたなぁ」


老人はひげを撫でながら、満足げに微笑む。


ルミナスは涙を拭い、振り返って老人に問いかけた。


「これ……どうしたのっ!? しかも、もう実がついてるじゃない!!」


「ルミナス様がザハールへ旅立たれる前、グランツ様と“ライシュの実”についてお話されていたのを耳にしましてな。

その種に似たものが保管庫にあると聞き、グランツ様のご指導のもと、育成環境を整えたのです」


“ライシュの実”──それは、ルミナスの前世における“米”とほぼ同等の穀物である。


「お米……というのは聞き馴染みがないのでよくわからんのですがな。

しかしそれに似た種なら、とグランツ様が見つけ出してくれまして……。

種をまいたら、まぁ、見る間に育ちましてのぉ」


「……っ!」


ルミナスは立ち上がると、勢いよく田んぼへ駆け寄り──


──ずぼぉっ!!


両手を土に突っ込んだ。


「魔力、全開っ!! 《セイクリッド・シャワー》!!!!」


彼女の魔力が大地に染み込み、田んぼ全体が眩い光に包まれる。

浄化と祝福の力が、稲の一つひとつにやさしく降り注いだ。


「まだこの一角だけだけど……たくさんの人に食べてもらえるように、いっぱい作ろう!

もちろん、私も手伝うからっ!」


泥まみれの手で親指を立て、ルミナスは満面の笑顔を浮かべた。


「ほっほっほ。それは頼もしい限りですなぁ!」


そのとき、少し離れた畑の方から若い農民が大声で呼びかける。


「おーい! じいさーん! ばあさんが呼んでるぞぉー!」


「おやおや、もうそんな時間ですか……。ルミナス様、それでは、またお会いしましょう」


老人は丁寧に頭を下げると、背筋を伸ばして歩き出す。


「ありがとねぇ~! 最高のサプライズだったよ~!」


ルミナスは両手を大きく振りながら、嬉しそうに見送った。


「ありがとねぇ~!! 最高のサプライズだったよ~!」


ルミナスは両手を大きく振りながら、満面の笑顔で感謝を伝えた。


その姿を見ながら、フェリスがふと田んぼを眺め、ぼそりと呟く。


「ふーん。それって、そんなに美味しいものなの? その……ライシュの実ってやつ」


次の瞬間、ルミナスは泥だらけの手でフェリスの手をガシッと掴んだ。


「ちょっ!? あんたっ!! その手で掴まないでってば……!? 力、強っ……!」


目をキラキラと輝かせながら、ルミナスは勢いよくまくし立てる。


「フェリス!! これはね、譲れないの!!

“日本人”の誇りにかけて、絶対に育ててみせるんだからっ!!」


「ニホンジン……? って、あんた、近い近いっ!! わかったから! 離しなさいってば!!」


必死に顔を背けるフェリス。

その隣で、セシリアがふと何かを思い出したように口を開く。


「なるほど。ではルミナス様にとって、そのライシュの実は“故郷の味”……ということですね?」


「そういうこと! “私のいた世界”の主食! ソウルフードってやつだよ!」


ルミナスは深く頷いて、胸を張って宣言する。


「ん……?」


“私のいた世界”──その言葉が、フェリスの中で引っかかった。

何気ない一言に、ひとつの疑問が浮かぶ。


「あんたの“いた世界”って、どういう意味よ?

 あんた、封神殿から生まれたんじゃなかったの?」


「ああ! そういえばフェリスには話してなかったね!」


ルミナスが思い出したように手をポンと叩いたその横で、

セシリアがそっと手を差し出し、両手から水を生み出す。

ルミナスの泥だらけの手に、さらさらと心地よい水が流れていく。


ジャーッという水音と、バシャバシャと水を弾く音の中、

ルミナスは何気ない調子でさらりと告げた。



「私、もともとこの世界の人間じゃないんだよ」



フェリスの身体がぴくりと震えた。

思わず口を開きかけて──でも、その言葉を飲み込む。


……妙に納得がいったのだ。


魔法の構えや、戦技の発想。

知られていない知識、たまに名前を言い間違える独特な言動。


思い返せば思い返すほど、「別の世界から来た」と言われればすべて合点がいく。


「あんた……それ、他に誰かに言ってるの?」


「ん~? セシリアくらいだよ? 別に隠してたわけじゃないし」


ルミナスは手を洗い終え、セシリアから受け取った布巾でていねいに拭き取っている。


セシリアはその様子を見ながら、穏やかに頷いた。


「私も、最初に聞いた時は信じがたく思いました。

ですが今では、もう私にとっては当たり前のことです」


フェリスの頭の中で、記憶が繋がっていく。


封神殿からルミナスは現れた。

では──その前は、誰がそこにいた?


(……まさか、“中に入った”のか?)


胸の奥に、ぞわりとした感覚が走る。


「あんた……それって……その身体は……」


フェリスの問いかけに、ルミナスがすぐさま手を振る。


「大丈夫だよ!? この身体に“乗り移った”とかじゃないから! そこは安心して!!」


フェリスはふぅっと息を吐き、肩の力を抜いた。


「なんだ……。てっきり“呪いの鎧”みたいなもんかと思ったわっ!」


ルミナスはツンッとしたフェリスの態度を見て、にこっと笑いながら、上目遣いで言った。


「……もしかして。

 “別の世界から来たよそ者”だから、私のこと……嫌いになった?」


その一言に、フェリスの身体がピクッと跳ねる。

反射的に振り返り、思わず叫んでしまった。


「──!! 嫌いになるわけないじゃ──……あっ」


自分の口からこぼれた“本音”に気づき、途中で慌てて口を閉じる。


「え? えっ? なになに? “嫌いになるわけ……”? んん~??」


ルミナスはにこにこと追いかけるように迫る。


「っ~~~~~~~!!」


顔を真っ赤に染めたフェリスは、そのままルミナスから逃げるように魔馬車の方向へと走り去っていく。


「あっ!! 逃げた!! 待ってぇぇぇ!!」


「ちょっ!! こっち来ないでっ!!」


「どうせ魔馬車で一緒の席なんだから、逃げられないよぉぉぉ~!!」


「セシリア!! ルミナスなんとかしてっ!!」


夕陽を背に、田んぼの脇を走るフェリスと、無邪気に追いかけるルミナス。

その光景を眺めながら、セシリアはくすっと笑った。


「はいはい。ルミナス様、フェリスもああ言ってますので……ほどほどに問い詰めてくださいね?」


「セシリアっ!?!?」


騒がしくもどこか温かい空気の中、

三人は魔馬車へと向かっていく。




──神域・獣の間


静寂と闇に包まれた空間に、ただひとつ揺らめく青白い光──


精霊核を指先でくるくると弄びながら、玉座に腰掛けている女神がいた。


「リーネ……ねぇ……?」


その声の主は、魔族神ザル=ガナス。

無造作に回していた精霊核をふと掴み、目を細めて凝視する。


「何だったかしらね……」


その瞳には、記憶の底から引きずり出された何かを思い出すような、曖昧でありながらも執着を孕んだ色があった。


──そのとき。


ズズズ……。


空間が軋み、重たく捻じれ、禍々しい“渦”がゆっくりと開いた。


「戻ッタ……」


異形の声とともに現れたその黒い渦から、ぼんやりと揺れる魂が差し出される。


「あはっ……! 早かったじゃなぁい。

たったの一年と半月……上出来ねぇ」


ザル=ガナスは楽しげに笑いながら、渦を覗き込む。

手を伸ばすと、魂はふわりと宙を漂い、女神の掌の上へと乗った。


「洗浄サレル前ノ魂ダ……」


「ふぅん……。よくまあ、そんな厄介な魂を地獄から持ち出せたものねぇ?」


薄く笑みを浮かべながら、ザル=ガナスはその魂をまじまじと見つめる。

そこには濁り、歪み、怒りと狂気……そして、かすかな執念が渦巻いていた。


「……まぁ、いいわ。

ククク……ッ!! アーハッハッハッハ!!」


甲高く、不気味な笑い声が神域に響き渡る。


「これからじっくりと──

時間をかけて、私の“理想の魔王”に仕立ててあげるわ……」


玉座に君臨する魔族神は、手のひらの魂を愉悦に満ちた目で見つめ続ける。


その笑みは狂気に染まり、次なる“闇”の胎動を告げていた。

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