第五話 第4話:能力鑑定再び。
──あらすじ──
討伐組合でリゼットやレオナール、観察者ヴィスと再会したルミナスは、
レオナールの提案で仲間たちと共に能力鑑定を受けることに――。
ルミナス達は王国民間討伐組合に到着した。
民衆を退けてもなお組合の近くの人たちが集まり騒がしくなる。
組合員達はルミナス達がザハールへ遠征中の間平凡な日々を過ごしていた。
――王国民間討伐組合
「おい、なんか外……騒がしくねぇか……?」
「……確かに。」
「まさか、また魔獣が街の近くに現れたんじゃ!?」
コツ、コツ……と、外から靴音が近づく。ざわつく民衆の声を背に、
重厚な扉がガチャリと開かれた。
「ただいまぁーーー!!!!」
その声が響いた瞬間、組合内の空気が一変する。
「……!?」「えっ!?」「はっ……!?」「ぶぶぅっ!!げほっ、げほ……!!」
室内はまるで時間が止まったかのように静まり返った。
ジョッキを手から落とす者、飲みかけの酒を噴き出す者もいる。
それもそのはずだった。扉の向こうに立っていたのは、
絹のような白髪の長髪、陶器のごとく滑らかな白肌、
夜空の星を映したような瞳を持ち、白銀の衣を纏った──まるで女神のような風貌の少女が声高らかに入ってきたのだ。
「ルミナス様!?!?」「え!?いつからエルディナに!?」
「ルミナス様だ……!!」「もしかして魔獣を倒したのって……!!」
「本物!?」「馬鹿っ!!偽物なわけねぇだろっ!!」
騒然とした空気が一瞬にして歓喜へと変わる。
「うおおおおおおおっ!!!」「おかえりなさい!!ルミナス様!!」
「あ!セシリアの嬢ちゃんとフェリスも一緒じゃねぇか!!!」
「あれ?なんか雰囲気変わりました??」
「あともう一人居るのは誰?見ない顔だけど」
「結婚してください!!!!」
組合員が一斉に押し寄せ、ルミナスはニコッと微笑んだ。
「ただいまっ!! みんな!! 今さっき帰って来たところなんだ!!」
そんな彼女たちの元に、人混みをかき分けながら一人の女性が駆け寄ってきた。
「ど……どいてくださいっ……! ちょっと……進めないですから……!!」
乱れた髪と眼鏡を直し、ようやくルミナスの前に立ったリゼットはそのまま強く抱きつく。
「ルミナス様っ!! おかえりなさいっ!! 先ほどの魔獣討伐……やはり、ルミナス様ですよね!?」
勢いよくハグしたリゼットが、潤んだ瞳で見上げる。
「報告が届いたのはついさっきで……皆が知らなかったのも無理ありません……!」
「ごめんねぇ〜! 先に王様のところで報告してたら、すっかり遅くなっちゃって!」
ルミナスが手を頭の後ろに回すと、リゼットはくすっと笑い、頷いた。
「いえっ! こうしてちゃんと帰ってきてくださったんですもの!
それに……セシリアさんも、フェリスさんも……またお顔が見られて、私、本当に嬉しいです!」
その言葉に、セシリアとフェリスも柔らかく微笑み返す。
「ただいま戻りました、リゼット様。皆さんお変わりなく……それが何よりです」
「なーんだ、てっきりまた魔族だの魔獣だので、ひーひー言ってると思ったけど……案外平和じゃない!」
フェリスがくつろいだ様子で笑うと、リゼットが頬を膨らませた。
「も〜、フェリスさんったら! ルミナス様たちが遠征中の間でも、皆さんだってすごく頑張ってたんですよ!」
その言葉に応えるように、後ろにいた組合員たちが自信満々に胸を張る。
「ふーん、なら──次の訓練日はいつ? 私が腕試ししてあげるわっ!」
フェリスの挑戦的な一言に、組合員たちは笑顔を交わし、拳を握る。
──和やかで賑やかな空気の中、ただ一人その輪に溶け込めず、扉の近くでおどおどと立ち尽くす女性がいる。
「──あっ、そうだ!」
ルミナスがレシェナに気づき、ぱっと手を握る。
「リゼットさん! 紹介したい人がいるの!!」
そのまま手を引かれるがまま、レシェナは人前に引っ張り出される。
「あ……えっと……その……えーと……」
恥ずかしさで頭が真っ白になり、しどろもどろになるレシェナの隣で──
ルミナスが満面の笑みで宣言する。
「ご紹介します! ──宵闇の糸紡ぎ姫ですっ!!」
「──!?!? ちょっ……!! ルミナスっ!? それは言わないって約束だったでしょーーっ!!」
顔を真っ赤にしたレシェナが、慌ててルミナスの口を両手で塞いだ。
室内が一瞬、しん……と静まり返る。
だが次の瞬間──
『どわははははははははっ!!!!』
大爆笑が沸き起こった。
「嬢ちゃん、面白ぇな!!」
「よろしくなぁ! えっと……なんて呼べばいいんだ?」
「組合は誰でも歓迎するぞっ!」
「“よいやみちゃん”でいいのか!?」
「それとも“つむぎひめちゃん”か?」
名前がどんどん変な方向へ派生していき、レシェナは必死に叫んだ。
「レ、レシェナ・モルヴァですーーーーーーっ!!!!」
『どわははははははっ!!!!』
再び響き渡る笑い声。
その賑やかさに、いつの間にかレシェナの表情にも自然な笑みが浮かんでいた。
そんな中──
ガチャリ、とまた扉が開く音が響いた。
「ふぅ……間に合いましたね……」
現れたのは、手に報告書を携え、額の汗を拭っていた組合長・レオナールだった。
「レオナール組合長!! ちょうどいいところに来ましたね!」
「ふむ、リゼット……ルミナス様とは、どうやらすれ違いになってしまったようだ」
そう言いながら、レオナールはルミナスたちの前へと歩み寄り、穏やかな笑みを浮かべて一礼する。
「ルミナス様、ご無事のお戻り、何よりでございます」
「うん! みんな元気そうで、本当に良かった!!」
ルミナスが明るく笑うと、レオナールはリゼットの隣に立ち、そっと耳打ちする。
「──……! そうだったのですね!!」
驚いた様子で小さく声を漏らしたリゼットは、すぐにルミナスの元へ歩み寄る。
「ルミナス様。組合長は、先ほどルミナス様と入れ違いで王宮へ向かわれたそうなんです」
リゼットの説明にうなずきながら、レオナールが補足を加える。
「さきほど、魔獣“スパイクジロ”が南門の砦に現れた件について、確認に向かっていたのですが……
そのとき、警備隊の者たちが“ルミナス様に羽が生えていた”“天使が舞い降りた”などと語っておりましてな」
レオナールが続ける。
「その真偽を確かめるべく急いで王宮へ向かったのですが……ちょうどすれ違ってしまったようで、
代わりにヴェルクス王から正式な報告書を受け取って来たのです」
にっこりと微笑むと、リゼットは手を前に組みながら丁寧に言った。
「──というわけで、皆様。一度、客間へご移動いただけますでしょうか?」
その申し出に、ルミナスたちは素直に頷き、二階にある客間へと向かった。
──王国民間討伐組合・客間
客間に入り扉を閉めると、レオナールは手に持っていた報告書を開いて目を通した。
「ふむ……では、先に」
そう言って立ち上がり、ゆっくりとレシェナの前に歩み寄る。
「あなたが……レシェナ・モルヴァさんですね? はじめまして。私はこの組合の長を務めております、レオナール・クローディアと申します」
レオナールは丁寧に一礼をすると、レシェナは慌てて姿勢を正した。
「あ、はいっ……! よ、よろしくお願いします……!」
その様子に柔らかく微笑みかけながら、レオナールは皆へ向き直る。
「どうぞ、皆さま。おかけください」
「じゃあ、私、お茶の準備してきますね!」
「私もお手伝いを」
リゼットが一礼して奥の給仕部屋へと向かい、セシリアも静かに席を立ってその後に続いた。
その頃、レオナールがまだ話を始める前──
ルミナスが何やら落ち着かない様子で部屋を見回していた。
「……ルミナス? どうしたの?」
レシェナが不思議そうに首をかしげて尋ねる。
「うーん……もうちょっとで、どこにいるかわかりそうなんだけど……」
ルミナスの視線を追ってレシェナが振り返ると──
「……もしかして、この辺?」
──ピタッ。
「──っ!!」
次の瞬間、ルミナスが目を見開く。
「……!? よくわかったな……」
レシェナが壁際に手を触れた瞬間、その場所からぼそりと声が響く。
全員が驚いてそちらに視線を向けると、そこには──
「ひぃぃぃぃっ……!!!」
突如として姿を現した“逃げのスペシャリスト”ヴィスの姿があった。
驚いたレシェナは、思わずルミナスにしがみつく。
「ええええ!? レシェナ!! すごいじゃんっ!! よくヴィスの場所がわかったね!!」
「ふ、ふぇ……?」
ぽかんとするレシェナに、レオナールが感心したような声を漏らす。
「いやはや……まさか、名前も知らずにヴィスの位置を突き止めるとは……」
その言葉に対し、ヴィスはじっとレシェナを見つめ、悔しそうに眉をひそめる。
そこへフェリスがくるりと振り返って問いただす。
「で、ヴィス。あんたいつからそこにいたのよ?」
「……スパイクジロの時からだ」
「はぁ!? ちょっと! いるならいるって声かけなさいよっ!!」
「………」
完全に無視されてフェリスは憤慨するが、ヴィスの視線はレシェナから離れなかった。
「……それより、なぜ俺の居場所がわかった?」
「ちょっと! 何よその“それより”って!? 無視すんなってば!!」
フェリスが噛みつく横で、レシェナは小さな声で答える。
「えっと……姿は見えなかったけど……微かに、魂が……揺れたから……」
「……魂、だと?」
ヴィスが眉を寄せ、そっと自分の胸に手を当てた。
「あー……なるほどね! その手があったか……!」
ルミナスは手をポンと叩き、納得した様子で笑った。
だが、横にいたレオナールはまったくついていけていない。
その頭の上には、まるで目に見えるかのような「?」が浮かんでいた。
そんな彼に、ルミナスはフォローを入れるように説明する。
「えっとね……レシェナは“人の魂”が見えるの。
姿が完全に隠されてても、魂までは消せないってことだよね?」
その言葉に、レシェナはこくんと頷いた。
「魂……を見る、ですか……?」
レオナールが驚きの表情を浮かべると、ヴィスもまた驚愕しつつマスクの端を持ち上げる。
「……筒抜け、ってわけか」
ぽつりと呟いたヴィスは、興味深そうにレシェナを見つめる。
「その魂を見る力……仮に“魂視”と呼ぶとして、具体的にはどのように見えるものなのでしょう?」
レオナールが興味深げに問うと、レシェナは少し考えてから口を開いた。
「えっと……形があるってわけじゃないんだけど……
たとえば、ヴィスさんは紺色の光で、うっすらと揺らめいてて……
レオナールさんは青。澄んだ青色の光を放ってる、そんな感じ……」
「じゃあ、私は!? 私のはどんな色なの!?」
フェリスが手を上げ、きらきらした目で身を乗り出す。
レシェナは彼女を見つめて少し微笑んだ。
「フェリスは……オレンジ色。とっても力強く輝いてるわ」
「ふふんっ♪ やっぱりね、“力強く”ってとこがポイントよね!」
言われた言葉にフェリスは大満足。胸を張って頷いている。
「では──ルミナス様は……どう見えているのでしょう?」
レオナールがふと尋ねると、レシェナはルミナスをじっと見つめた。
その瞳に映る何かに引き込まれるように、彼女の頬がふわりと緩む。
「ふへへ……やっぱり何度見ても綺麗……優しくて……包み込まれるような光……」
ふにゃっと笑ったまま、レシェナはぽりぽりと目を擦り──
ぽすん、とルミナスの膝の上に身を預け、そのまま小さな寝息を立てはじめた。
「んん? レシェナ殿……!?」
ルミナスは驚くでもなく、レシェナの黒髪をそっと撫で、微笑んだ。
「あらら……私の魂を見たら、安心しちゃったのかな……」
──ガチャ。
「皆様、お待たせしまし──あれ?」
ちょうどお茶と茶菓子を運んできたリゼットとセシリアが、寝ているレシェナを見て思わず足を止める。
「ルミナス様……これは?」
「あ、セシリア! なんかね、私の魂を見たら眠っちゃったみたい」
「魂を……?」
不思議そうに眉を寄せるセシリアに、ルミナスはこれまでの流れを簡単に説明した。
納得した様子で頷いたセシリアは、レシェナにそっとブランケットをかける。
「さて──話が脱線してしまいましたが」
レオナールは一口お茶を啜ってから、再び話題を戻した。
「ルミナス様。報告書によれば……翼が生えたと?」
「うん! ちょうどいいし、見せてあげるね!──《神芽顕現》!」
──バサアァァァァッ!!
ルミナスが掛け声とともに神気を解放すると、彼女の背中から神聖な光を纏う白銀の翼が広がる。
その光景に、レオナールたちは一斉に目を見張った。
「お、おぉ……! こ、これは……」
「ルミナス様……!! まるで──おとぎ話の女神様のようです……!」
「……さらに眩しくなったな……」
神話から抜け出たような光景に、三人はしばし言葉を失って見入る。
そのとき──
「ちょっ……ちょっとぉ! やるなら先に言ってよ! 羽根、お茶に入るじゃないのっ!」
「あっ! ごめんごめん!!」
ルミナスは慌てて神纏いを解き、翼を引っ込めた。
レオナールがふとリゼットに目配せをすると、彼女は頷き、そっと奥の棚から魔紙と針を取り出してきた。
「ルミナス様。以前、組合に初めていらした際に能力鑑定を行ったのを覚えていらっしゃいますか?」
それは、組合登録時に血を魔紙に垂らしてスキルや能力を測定した、あのときのことだった。
「当時と比べると……今のルミナス様は、明らかに成長されているように見受けられます」
レオナールの言葉にうんうんと頷きながら、リゼットが微笑む。
「私も驚きました! 身長も少し伸びて、なんだかお姉さんっぽくなってましたし!」
そう言いながら、リゼットは魔紙と針を丁寧に机の上へ並べていく。
「そこで、改めて鑑定をお願いしようと客間へお呼びした次第です。
今回ご用意した魔紙には、“解読術”の魔法をかけてあります。
前回のように読めない項目が出ないよう、暗号解析に使われるものと同じ技術を用いています」
「へぇ〜! すごいねそれ! じゃあ今回は見れなかったスキルもバッチリ分かるかも……!」
ルミナスはわくわくとした様子で針を手に取り、躊躇なく指先にぷすっと刺した。
──ポタッ。
一滴の血が魔紙に落ちた瞬間、紙面に淡く光る魔法文字が浮かび上がる。
それはまるで、熱を帯びて焼けつくように、するすると紋様を描いていった。
「ルミナスの能力鑑定か……ちょっと……いや、かなり気になるわね……!」
フェリスが興味津々で覗き込み、セシリアも静かに隣へと寄っていく。
「私も、ルミナス様の鑑定を見るのは初めてです……」
《神を纏う者:ルミナス・デイヴァイン》
生命力:特大(+1)魔力:無限(※小人時:中量)
【神術による対価】
空腹(軽減)/睡魔(軽減)/小人化
◆神術
・剣術《剣神の加護》:剣速、反応速度、筋力強化
・魔術《魔術神の加護》:魔力無限、詠唱破棄、全属性・創造魔法、神話級魔法
・天照の加護:病気・呪詛・老化無効
・豊穣の加護:農作物の成長促進・収穫増幅
・神纏い《神芽顕現》:神気(微量)、女神の翼、特定の神術行使、信仰力による能力向上
・???(判別不能)
◆受動術
身体強化/瞬間再生/暗視/料理スキル/言語理解
視覚強化/聴覚強化/サバイバル術/釣り上手
免疫強化/毒物無効/瘴気耐性/状態異常耐性
回避向上/弱点把握/武器の知恵/記憶力向上
運気上昇/士気高揚/勝負師/乗馬技術
飛行技術/操縦士/他 多数
◆特殊(本人のみ可視)
《神の芽》:神格進化の可能性上昇
《英雄の血》:神器を引き抜く資格
「わぁ〜……微妙に増えてる気がする〜……」
じっと紙を眺めたルミナスは、どこか他人事のように呟いた。
そのとき、横で一緒に覗き込んでいたレオナールたちが、一斉に声を上げる。
「な、なんですかこの……大雑把すぎる能力表は……!?」
「魔力無限!? 詠唱破棄!? 神話級魔法までっ!? そ、そんなの……あり得るんですか……!?」
「通りで……あんたに全く勝てないわけだわ……」
驚愕と混乱の声が飛び交う中、リゼットが魔紙の下部を指差した。
「ですが、この最後の部分……やっぱり一部がぼやけていますね。解析できていない……?」
ルミナスはひょいと首をかしげながら、特に気にも留めない様子で答える。
「うん? まぁこんなもんじゃない? いつもこんな感じだし」
ルミナスにとっては“転生特典”のようなもの──
それが当たり前だと思っていたが、その意識のギャップに、
レオナールたちは再び全力で否定するのだった。
「そ、それが普通なわけありませんっ!!」
「あ、あんたねぇ……! 他の人と比べて見れば一目瞭然でしょうがっ!!」
「え、そうなの? ……いや、そもそも他の人のステータスなんて見たことないし……」
ケロッとした顔のルミナスに、思わず全員が肩を落とした。
すると、フェリスが一歩前に出て、自信満々に胸を張った。
「分かったわ。特別に見せてあげる……これが“普通”よ!」
そう言って新しい魔紙を手に取ると、針で指先を刺し、さらりと血を垂らした。
──ぷすっ。
──ポタッ。
【名前】フェリス・ヴァルグレイス
【年齢】18歳 【性別】女
【体力値】8037/8037 【魔力値】605/605
【力】403 【魔力】203
【技】189 【速さ】72
【防御】305 【精神】214
【免疫】252 【幸運】15
【練度】
・剣術の心得:熟練度★★★★☆
・魔法の心得:熟練度★★☆☆☆
【推定ランク】A+
【技能】
武器付与/武器属性付与/肉体強化/防御姿勢
防御魔法/初級魔法/中級魔法/特殊剣技
フェリスは指先についた血を拭いながら、ルミナスに向かって言い放つ。
「ほらね? 普通はこういうふうにちゃんと出るのよ! あんたのはもう別格過ぎて、比べるのも失礼なレベルだからっ!!」
それを聞いたリゼットが頷いて補足する。
「はい、フェリスさんの能力値は一般の組合員と比べるとかなり高水準です。
さすが王国騎士団に選ばれし者、といったところですね」
「えぇっ!? いいなぁ〜!! 私もこういう感じで出してほしかったのに〜……!」
ルミナスはフェリスの魔紙を見て、どこかゲームのステータス画面を思わせる書式に懐かしさを覚え、羨ましそうに自分の魔紙と並べて見比べた。
その様子を見ていたセシリアが、そっと魔紙と針を取り出す。
「なんだか……秘密を共有し合ってるみたいで、少しだけずるいです……。
私も、ルミナス様にお見せします!」
意を決して指先を刺し、魔紙に血を垂らす。
──ぷすっ。
──ポタッ。
【名前】セシリア・ローゼリッタ
【年齢】17歳 【性別】女
【体力値】5087/5087 【魔力値】4025/4025
【力】103 【魔力】608
【技】256 【速さ】63
【防御】185 【精神】403
【免疫】193 【幸運】28
【練度】
・剣術の心得:熟練度★★☆☆☆
・魔法の心得:熟練度★★★★★
【推定ランク】S
【技能】
武器付与/武器属性付与/肉体強化/防御魔法
回復魔法/初級魔法/中級魔法/上級魔法
投擲術/家事術(掃除・洗濯・炊事等)
◆精霊術
・水霊術《水の精霊の加護》:水魔法威力向上、水操作、水の精霊術の行使
セシリアの魔紙にも能力値が鮮やかに浮かび上がったが、一部は文字が滲み、解読できない領域もあった。
「魔力値……四千!? 魔法の心得が星五つ!? 推定Sランク!? う、うそでしょ……!?
わ、私、セシリアに負けた……っ」
膝をがくりと落としたフェリスがショックで崩れ落ちる。
そんな中、レオナールがじっと魔紙の端を見つめて、あることに気づく。
「これは……おや? 最後の表記……以前、ルミナス様の鑑定結果と同じ書式ですね」
彼の指差す箇所には、この世界の標準言語とは異なる、読めない記号が刻まれていた。
「鑑定した私ですら、これは読めませんね……」
そのとき、ルミナスがすっと前へ出て、さらりと読み上げる。
「“精霊術”。水の精霊の加護、水魔法の威力向上、水操作、水の精霊術の行使──って書いてあるよ!」
一同が、ぽかんと目を見開いた。
「やはり……ルミナス様には、未知言語の解読能力まで備わっていらっしゃるのですね……」
レオナールが深く頷いた。
すると膝の上で眠っていたレシェナが、ふとまぶたを開いた。
「ん……あれ? あたし……寝てた……?」
「おはよう、レシェナ!」
ルミナスがにっこりと微笑みかけると、レシェナはぼんやりとあたりを見渡す。
「みんな……何してるの……?」
「今ね、みんなで能力鑑定してたところなんだよ!」
そう言った瞬間──
「うりゃっ☆」
フェリスがニシシと笑いながら、レシェナの指先を針でチョン。
「──いったぁぁぁぁぁいっ!!!」
──ポタッ。
【名前】レシェナ・モルヴァ
【年齢】24歳 【性別】女
【体力値】503/503 【魔力値】104/104
【力】10 【魔力】58
【技】507 【速さ】5
【防御】25 【精神】189
【免疫】122 【幸運】19
【練度】
・剣術の心得:熟練度☆☆☆☆☆
・魔法の心得:熟練度☆☆☆☆☆
【推定ランク】判別不可
【技能】
裁縫術/職人技術/魂視
血が一滴落ちた魔紙には、レシェナの能力が淡く映し出された。
それを真っ先に覗き込んだフェリスが、遠慮のない一言を放つ。
「──よわっ……」
「ちょっとフェリス! レシェナが可哀想でしょっ!」
ルミナスはレシェナの頭を撫でながら、そっと回復魔法を施す。
レシェナは涙目になりながら、指先を押さえていた。
「ひぃぃん……」
「でも……これで比較の幅が広がりました。非常に参考になります」
セシリアの言う通り、これでルミナス・フェリス・セシリア・レシェナ、四人分の鑑定が揃った。
「いいなぁ……みんな、あんなふうにちゃんと出てて……私もあんな感じで見たかったのにぃ〜……」
ルミナスが肩を落とすと、レオナールが穏やかに提案を口にする。
「それでは、ルミナス様。表記が皆様と同じ形式になるよう、魔紙を改良いたしましょう。
少々お時間をいただければ、次回には見やすい形に整えられるはずです」
「ほんとっ!? わかったっ!! じゃあ次の鑑定、楽しみにしてるね!」
ルミナスはぱあっと顔を輝かせた。
レオナールもにっこりと微笑んで頷く。
「それでは──以上が本日の要件となります」
「えっ、もう終わりなの?」
「ええ。国王陛下からお話を伺い、もしかするとと思い鑑定をお願いしましたが……
想像を遥かに超える成果でした。鑑定して本当に良かったです」
レオナールはゆっくりと鑑定書をまとめながら、ルミナスに問いかける。
「このあと、ルミナス様はご帰宅されるご予定ですか?」
「んーとね……まずバルゴさんとミーナに会いにエンヴェラ工房に行って、
さっき倒した魔獣の解体依頼を出して……それから農場にちょっと顔を出そうかな〜って」
「なるほど。それでしたら──国王陛下が祝賀会の開催を希望されております。
ご迷惑でなければ、王宮にてお招きしたいとのことですが……」
「祝賀会!? パーティー!? やったーっ!!」
ルミナスの目がキラキラと輝く。
「ええ、そのようなものとお考えください」
セシリア、フェリス、レシェナと視線を交わし──ルミナスは笑顔で答えた。
「わかりましたっ!! このあと、行きますっ!」
親指を立てて、グッと拳を前に突き出す。
その横で、レシェナがそっと起き上がり、小声で提案する。
「でも……今の服装も素敵だけど、パーティーなら……やっぱり、ドレスが必要かも……」
「ルミナス様のドレス姿……っ!?」
セシリアがガタッと立ち上がった。
「レシェナ様っ、お時間はどれくらいで……!?」
「えっ? えーと……今から取りかかれば、夕方には仕上げられるかと……」
「わかりましたっ!! では急ぎ、エンヴェラ工房へっ!!」
そう言い残すと、セシリアは一目散に部屋を飛び出していった。
「はっはっは……セシリア殿も、すっかり変わりましたな。
それではルミナス様、また後ほどお会いしましょう」
「ルミナス様のドレス姿、楽しみにしておりますねっ!」
レオナールとリゼットが丁寧に頭を下げる。
「うんっ! またあとでねっ!!」
ルミナスは手を振りながら、意気揚々と討伐組合を後にした。
──王国民間討伐組合・客間
その後。リゼットはレオナールから手渡された能力鑑定書を、
そっと棚へとしまう前に手を止めた。
しばらくの間、レシェナの鑑定書をじっと見つめ──
続けて、自分の鑑定書と並べて見比べる。
「……レシェナさん……私と、同じくらい……ですね……」
ふと、先ほどのフェリスの「よわっ」という一言を思い出したレシェナは、
肩をガクッと落としていた。
「……レシェナさん……弱い者同士、頑張りましょうね……」