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第五章 第3話:ただいまは再会の後で。

           ──あらすじ──


ルミナスはグラン王から譲り受けた“縛魂の魔石”を取り出す。

その魔石を解析しそして実用化するために王宮魔道士のグランツに声をかける。

そんな中グランツはある鉱石に目が光ったのだった。

──エルディナ王国・王宮 謁見の間。


ルミナスは、レシェナを自宅に迎え入れる約束を交わした後、グラン王から託された“あるもの”について話を切り出した。


「王様、それとね」


そう言いながら、腰のポーチから赤い小箱を取り出す。


「おや? そちらの箱はなんですかな?」


ヴェルクス王が問いかけると、ルミナスは箱を開けることなく、代わりにレシェナへと視線を向ける。


「レシェナ、お願い」


彼女が差し出したのは、呪い除けの人形だった。

レシェナがそれをそっと抱きしめると、ルミナスは箱の中身について語り始める。


「これは、グラン王から譲り受けた“縛魂の魔石”っていうの」


「グラン=カリフ王自ら……!? ふむ、縛魂の魔石……。

そのような魔石聞いたこともございませぬな……それで、その魔石には一体どのような効果が……?」


ヴェルクス王が驚きを隠せない様子で尋ねると、ルミナスはこくんと頷き、真剣な表情で説明を続ける。


「落ち着いて聞いてほしいんだけど……この魔石の効果は、

“強力な精神干渉による呪い”……つまり、人を服従させることができるの」


「──!!」


その言葉に、ヴェルクス王は目を見開き、思わず席を立ち上がる。

一呼吸置いたのち、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。


「な、なるほど……。ですがなぜ、グラン王はそのような物をルミナス殿に?」


「この魔石は、ザハール建国以前──まだ奴隷制度が広く存在していた時代に作られたものらしいの」


「となると、古代の魔石ですか……!?」


「うん。そしてね、この魔石はこれが最後の一つ。私はこれをグランツさんに解析してもらった後、壊すつもりなの。二度と使えないように」


その言葉に、ヴェルクス王はほっと息を吐き、安堵の表情で頷いた。


「いやはや……それを聞いて安心しましたぞ。いや、ルミナス殿であれば、正しい使い方をなさると信じてはおりますが……何分、効果が効果ですのでな……」


ルミナスも穏やかな笑みを浮かべ、こくりと頷いた。

そして、そこからが本題だとばかりに声のトーンを切り替える。


「──で、ここからが本題なんだけど……」


ヴェルクス王は黙って小さく頷く。


「この魔石、人以外にも作用するらしいの」


「──!! つ、つまり……」


「魔獣にも効くらしいの」


その瞬間、ヴェルクス王とアレクシアは互いに顔を見合わせ、驚きに目を見開いたままルミナスを見つめた。


「それは真実ですか……!? それが事実ならば、不可能と言われてきた移動手段の確保や……」


「家畜化問題が解消されるってことですの!?」


ルミナスはにっこりと笑って、無言で頷いた。


──コクッ……


「──!! お父様っ!!」


「……あぁっ! もしかしたら流通を再開できるかもしれん!

これで病や飢餓に苦しむ遠方の村や街へ、薬や食料を届けられるようになる!」


嬉しそうに声を上げる二人を見て、ルミナスはやわらかく微笑んだ。


「それでね。魔石を解析して、“一つの効果だけ”を抽出してもらう。

魔獣を従わせるための効果だけを抜き出した、“テイムの魔石”を量産するの」


「……なるほど。ならば……!」


ヴェルクス王は立ち上がり、従者へと視線を送った。


「今すぐ王宮魔道士・グランツを──!」


その号令に、従者たちは即座に謁見の間から駆け出していった。


王は再び椅子に腰掛け、ルミナスへと向き直る。


「して、その“テイム”とは……どういった意味で?」


「えーっと……なんていうか……そう! “魔獣を捕まえて仲間にする”って意味だよ!」


「ほほぉ……それは良い。実に夢のある言葉ですな……!」


そんなやり取りをしていると、謁見の間の扉が静かに開かれる──



──ギィィィ……


「ルミナス様ぁぁぁぁっ!!」


「グランツさん!!」


重厚な扉を押し開けて、息を切らしながら駆け込んできたのは王宮魔道士・グランツだった。その目には安堵の色が浮かび、声は弾んでいた。


「よくぞ、よくぞご無事で!! 先ほど従者から招集を受けた時は仰天いたしましたぞ! 陛下とルミナス様が“急ぎ呼ばれている”と聞き、このグランツ、全速力で駆けつけた次第でございます!!」


「あははっ、相変わらず元気で安心したよ」


ルミナスが笑顔で迎えると、グランツは胸を撫で下ろしながら深々と一礼する。


その空気を断ち切るように、ヴェルクス王が小さく咳払いをひとつ。


「さて、グランツよ。貴殿を呼んだのは他でもない。ルミナス殿が持ち帰った“縛魂の魔石”……その解析を、貴殿に任せたいのだ」


「縛魂の……魔石、ですと?」


グランツは眉をひそめ、ルミナスが抱えている赤い箱に視線を向ける。


「……聞いたこともない名称ですな。新種の魔石でしょうか?」


「それがね、ちょっと普通じゃないんだよ」


そう言って、ルミナスはその魔石の“効果”について、手短に説明を始めた。聞くうちにグランツの顔はみるみる青ざめ、やがて目を見開いて叫ぶ。


「な、なななな……なっ、なんですとぉぉぉぉぉぉっ!?!?!?」


その大音声は、謁見の間の柱を揺るがすほどであった。


「で、グランツさん。この魔石、解析してもらえるかな?」


「もちろんですとも!! これは実に興味深い……! して、何か制限や注意点などは?」


「うん。この魔石、箱から出して直接見ると……なんというか、魅了に近い効果があるみたいなの」


「なるほど……魔力による錯乱、あるいは精神誘導系の反応かもしれませんな。」


すると、レシェナがそっとルミナスの傍に近寄り、小さな人形を差し出した。


「これ……解析時に使ってください」


「ありがとう、レシェナ。──グランツさん、この人形には呪い除けの加護が付与されてるんだ。作業時は机の上に置いて、できるだけその近くで作業してね」


「ふむ……ありがたく使わせていただきます」


人形を手に取ったグランツは、眼鏡をクイッと押し上げ、その目を細めてじっと見つめる。


「ほほう……これは面白い魔石……いや、いや、これは……また別の性質……?」


何かに気づいたように言葉を濁したグランツ。その様子を見ていたレシェナが口を開いた。


「その石……“リコルナイト”っていうの。別名、“継澄石(けいちょうせき)”。ザハール地方でのみ採れる天然鉱石で……意志や想いを宿しやすい特性があるの」


「な、なんと……!」


興奮を抑えきれない様子のグランツは、がばっとレシェナに詰め寄ると、

両手で彼女の手を握った。


「す、素晴らしいですなぁっ!!」


──ぐんっ!


「ひっ……!!」


「お名前を、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか!? あ、私はグランツと申します!!」


唐突な接近に、レシェナはビクリと震え、涙目で身を引く。


「レ……レシェナ……レシェナ・モルヴァです……」


今にも泣き出しそうな彼女の様子に、ルミナスは慌ててグランツの襟を掴み、ぐいっと引き離す。


「ちょ、ちょっとグランツさん!! 近い、近いからっ! もうちょっと距離をとってあげて!」


「おおっと、これは失礼……」


少し距離を取ると、レシェナは胸をなでおろしてほっとした表情を見せる。


そんな中、グランツは再びリコルナイトを手に取り、その宝石のきらめきを静かに見つめながら、低く呟いた。


「……このゆらめき……ただの鉱石ではありませんな。魂の残響……強き意志や絆……時には生命までも受け継ぎ、内に宿す……違いますかな?」


「す、すごい……そんな一瞬見ただけでそこまで……!?」


レシェナが思わず声を上げると、グランツは再び眼鏡を持ち上げ、ニヤリと笑った。


「ふっふっふ……魔石と宝石に関しては、他の追随を許しませんので」


グランツは手元のリコルナイトをじっと見つめたまま、何かを思いついたように唸り声を漏らす。


「……。 うーむ……」


そしてふと顔を上げ、レシェナに問いかけた。


「レシェナ殿。そのリコルナイト、余っていたりしませぬか?」


「えっ……? ま、まぁ……職業柄、たくさん持ってはいるけど……」


レシェナは戸惑いながらも頷く。


それを聞いたグランツの表情がパッと輝いた。


「もしや……このリコルナイトならば、魔獣の精神を傷つけず、共生関係を結ぶことが可能かもしれませんな!」


「えっ、本当に!?」


ルミナスが目を見開いて、身を乗り出す。


「ええ、普通の魔石は魔力を媒介として発動するため、使用者の魔力がそのまま魔獣の精神へと干渉してしまう危険性があります。

しかし……このリコルナイトからは、魔力とは異なる“流れ”──まるで魂の波動のようなものを感じるのです」


「つまり、縛魂の魔石の一部の力と、あたしが持ってきたリコルナイトを組み合わせれば……!」


「魔獣と、真の意味で“友好関係”を結べるかもしれません!」


ルミナスは拳をぎゅっと握りしめ、力強く笑う。


「……それではグランツよ」


ヴェルクス王が穏やかに声をかけた。


「はっ、陛下」


「この大役、貴殿に任せてもよいな?」


グランツは胸に手を当て、ニヤリと自信満々に笑う。


「もちろんでございますとも! このエルディナ王国……いえ、人類の未来のため! このグランツ、必ずや果たして見せましょうぞ!」




──エルディナ王国・王宮門前 荷馬車前


レシェナはリコルナイトの原石や研磨済みの宝石を並べながら、使用方法や発動条件について丁寧に説明をしていた。


「──で、血を一滴、垂らすんです」


「ふむふむ……」


グランツは大きめのノートを開き、ペンを走らせながら真剣な眼差しで聞き入る。


「それが“契約”のような役割を果たしていて、リコルナイトが持ち主を識別して力を貸すんです」


「ほぉ〜〜!! 実に、実に面白いですな……!! これは応用の余地が大いにありそうですぞ!」


レシェナとグランツはしばらく真剣なやり取りを交わした後、ペコリと丁寧にお辞儀を交わした。


そのままレシェナは魔馬車へと戻り、グランツが手をひらひらと振りながら声をかける。


「それでは、ルミナス様──また近いうちに」


そして、ふと思い出したように言葉を続けた。


「あっ、そうでした。後ほど、農場のほうにも顔を見せてあげてくださいませ。農民の方々も、ルミナス様のご帰還を心からお待ちしておりましたぞ」


「うん!! 絶対行く!!」


ルミナスが元気よく頷くと、グランツは満足そうに微笑む。


「セシリア殿も、フェリス殿も……お元気なお姿を拝見できて、私は大満足です」


「はい、グランツ様も以前と変わらずお元気そうで、何よりです」


「ふん。相変わらず人との距離感はおかしいけど……ま、元気そうでよかったわ」


セシリアとフェリスもそれぞれ穏やかな微笑みを浮かべながら言葉を返す。


そんな中、グランツがレシェナの方へ向き直り、あらためて礼を述べた。


「そして──レシェナ殿。貴重な鉱石をお分けいただき、深く感謝いたします」


「い、いえ……それが誰かの助けになるのなら、ぜひ使ってあげてください……」


レシェナは少し照れたように言葉を返し、グランツも満面の笑みで深々と頭を下げた。


そして──


魔馬車は再びゆっくりと走り出し、次なる目的地へと向かっていく。



──エルディナ王国・中心街


次なる目的地は、王国民間討伐組合。

ルミナスは窓の外を眺めながら、呟く。


「レオナールさんに、リゼットさん……それからヴィス。みんな元気にしてたかな〜?」


そんな呟きをよそに、次第に外からざわめきが聞こえ始め──


「ねぇ! あれってルミナス様じゃない!?」


「ほ、ほんとだ!! か、帰ってきたんだ……!」

「ルミナス様ああああーーーっ!!」

「おかえりなさいませっ!!! ルミナス様ぁーーーっ!!!」

「きゃあああーーーっ!!! ルミナス様あああああ!!!」

「我らが女神がご帰還なさったぞおおおお!!!」

「聖女様ああああ! こっち向いてくださあああい!!!」

「け、結婚してくれぇぇぇぇぇ!!!!」


──わあああああああっ!!

──おおおおおおおおおっ……!!


中心街は突如として歓喜と熱狂に包まれた。まるで王都中が祭りに浮かれているかのように、老若男女が魔馬車の周囲に押し寄せてくる。


馬車はパタリと動きを止めた。これほどの人波では進行など到底不可能だった。


「ちょっとちょっと……!! これじゃ前に進めないじゃない……!」


フェリスが窓から外を覗き、思わず眉をひそめる。

そこには、押し合いへし合いながらも笑顔を浮かべる群衆の姿があった。


「わ、わ、わ……ひ、人がいっぱい……っ……! ど、どうしよう……っ……!」


レシェナは人の気配に圧倒され、馬車の隅で小さくうずくまる。


「い、いやぁ……こりゃ参ったね……」


御者席の小窓がコトリと開き、セシリアが冷静な面持ちでルミナスに問いかける。


「ルミナス様。このままでは進めません。……何か、策はありますか?」


「わかった! ちょっと待ってて!」


ルミナスが勢いよく立ち上がると、手を掲げ──


「──神芽顕現っ!」


「ちょっ……!? ルミナス!! ここでそれ使ったら……!」


フェリスの制止もむなしく──


──バサアァァァッ!!!


まばゆい光とともに、天使のような純白の翼が服の隙間から飛び出す。

魔馬車の扉を開け、そのままルミナスの体は宙に浮かび、ふわりと舞い上がった。


そして──


「みんなーっ!! ただいまーっ!!」


街の上空、魔馬車の屋根に降り立ったルミナスが、両手を広げて笑顔を見せる。

その神々しさに、群衆は一瞬、静寂に包まれたかと思うと──


「おおおおおお……!! なんという美しさ……!!」

「ありがたや……ありがたやぁ……!!」

「そのお姿……まさに女神様……!!」

「こ、これは夢か……!? 俺は夢を見ているのか……!?」


次々と人々が膝を折り、両手を胸元で合わせて祈りを捧げ始める。

その光景を馬車の中から見ていたフェリスは、ため息交じりに呟いた。


「あー……やっぱ、そうなるわよね……」


空を飛ぶルミナスは笑顔のまま、御者席のセシリアに向かって声をかける。


「セシリア! 今のうちに進んで!!」


「──っ! 了解です……! さすがはルミナス様!」


──ガラガラガラガラッ……!!


セシリアが巧みに手綱を操り、人々の意識が空へ向いている隙に魔馬車を進ませる。


しばらくして、馬車の扉が開かれ──


──ガチャッ。


「ふぅ〜っ! なんとかなったねっ!」


空から軽やかに舞い戻ったルミナスが、いつもの調子で席に戻る。


「あんたねぇ……その姿で急に飛び出して、心臓止まっちゃう人が出たらどうするつもりよ……!」


フェリスが半ば呆れ顔でツッコむと、ルミナスは翼をしまいながらにっこり笑った。


「だいじょーぶだいじょーぶ♪ もしそんな人が出ちゃったら、心臓に電気マッサージしてあげるから安心して!」


「怖いわっ!!」


フェリスがすかさずツッコミを入れる。

その様子を見ていたレシェナが、くすりと笑い声を漏らした。


──そして、何事もなく。

ルミナスたちは無事に討伐組合へと到着するのであった。

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