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第五章 第2話:これまでのことこれからのこと。

             ──あらすじ──


ザハールでの任務を終えたルミナスは仲間たちと王都へ帰還。

再会を喜び合う中、王宮では新たな脅威の兆しが語られる。

一方、謎多き裁縫師レシェナの素顔が明かされ、

物語は思わぬ方向へと進み始める──。

ルミナスは神纏を解き、そのままアレクシアの隣に並び立った。


「ただいま、アレクシア!」


にこっと微笑んだルミナスに、アレクシアも自然と笑みを返す。


「おかえりなさいませ、ルミナス様!」


そう言うと、アレクシアはその場で跪いた。


ルミナスの放つ神々しさに、言葉を失っていた警備兵たちも、はっと我に返ったように次々と膝をつき、頭を垂れる。


「えっ!? み、みんなどうしたの!?」


戸惑うルミナスに、アレクシアは頭を下げたまま声を発した。


「ルミナス様……! 天より授かりし白き翼を御身に宿すその御姿……そして、白銀に輝く衣装……まさに女神の化身に相応しき──」


「あ、ああ……これ?」


ルミナスが軽く手を広げた瞬間──


 ──バサァァァァッ……!


純白の翼が大きく展開され、光を浴びてキラキラと輝き出す。


「おお……!」「なんという美しさ……!」


「ありがたや……ありがたや……!」「女神様……どうか我らに加護を……!」


その光景に砦内は騒然となり、なかには手を合わせて祈り始める者まで現れる。


広げられた翼に、見る者を惹きつける魔力などは備わっていない。けれど、それでも人々は、その光に魅せられていた。


ルミナスは困ったように笑いながら翼をしまい、無邪気な声で言葉を投げかける。


「そんな大袈裟なものじゃないよ〜。ねっ、みんな顔上げて!」


アレクシアはそっと顔を上げ、再びルミナスを見つめた。


「はいっ……! それでは、セシリアさんたちのもとへ向かいましょう!」


砦の下り階段へと向かおうと、アレクシアがルミナスの隣に立ったとき、ふと違和感を覚えた。


「あら……? ルミナス様……?」


「ん? どうかした?」


アレクシアはルミナスの足先から頭までを、じろじろと見つめてから目を細めた。


「少し……身長が、高くなっておられませんか?」


「あっ、気づいた? そうなんだよね〜。ザハールで色々あってさ~」


そんなやりとりをしながら、ルミナスとアレクシアは砦を出て南門を抜け、セシリアたちが待つ魔馬車のもとへと向かった。


「あ、きたきた! おーい、ルミナス!! こっちよ! まったく、遅いわよっ!」


手を振って呼びかけてきたのはフェリスだった。


「ふふ、相変わらずで安心しましたわ、フェリス」


ルミナスの後ろからひょこっと顔を出したアレクシアを見て、フェリスはハッと目を見開いた。


そしてその場に、すっと膝をつく。


「アレクシア王女殿下……! お久しゅうございます……!」


その様子を見ていたレシェナは、目をまん丸くして驚いた。


「あのフェリスが……!? すごく騎士様っぽい……!」


隣にいたセシリアが、ぽつりとレシェナに言う。


「まあ、フェリスは剣士、騎士の家系ですからね。腐っても騎士ということです」


「ちょっと、セシリア! 聞こえてるわよ!!」


フェリスはセシリアに顔だけ向けて、叫んだ。


「あ……いつものフェリスだ……」


ボソリとつぶやくレシェナ。その様子に、アレクシアが気づいて声をかける。


「あら? そちらの方は……?」


アレクシアに声をかけられたレシェナは、びくりと肩を震わせてから、慌てふためいた様子で答えた。


「あっ……えっと……レ、レシェナ・モルヴァと申します……!」


深々と頭を下げ、挨拶をするレシェナ。


その丁寧な所作を見たアレクシアは、スカートの端をつまんで優雅にお辞儀を返す。


「お初にお目にかかります。国王ヴェルクス=エルディナの娘、アレクシア=エルディナと申しますわ」


その名乗りを聞いたレシェナは、アレクシアの足元から頭までじっくりと見上げ──ふふっと口元を緩め、呟き始めた。


「……良い……王女様……うふふ……。きっと、あんなドレスや、こんなドレスが……ブツブツ……」


その様子にアレクシアは小首をかしげる。


「……?」


「あー……あれはね、職業病みたいなもんだから、気にしないで?」


ルミナスが苦笑しながらアレクシアに耳打ちする。


「まあ、そうなんですのね!」


「うん。レシェナはザハールで知り合ったんだ。“月糸の家”ってお店の──」


「──!?!?」


その店名を聞いた瞬間、アレクシアの目がキラリと光る。


彼女は勢いよくレシェナに近づき、がしっと手を握った。


「レ、レシェナさん……いえ、レシェナ様!?」


「ひ、ひゃいっ!?」


アレクシアのルビーのような瞳がまっすぐレシェナを射抜く。


その視線にさらされ、レシェナの視線は泳ぎ、顔はみるみる赤く染まっていく。


そして──アレクシアが問いかける。


「──もしかして、“宵闇の糸紡ぎ姫”様、ではありませんの!?」


「──へ?」


その名を聞いた瞬間、レシェナは固まった。


「ん? 宵闇の……なんだって??」


よく聞き取れなかったルミナスが首をかしげる。


するとアレクシアは高らかに宣言するように答えた。


「ザハールのどこかに存在すると噂される幻の店、“月糸の家”──その店主が“宵闇の糸紡ぎ姫”様ですわよ!! ルミナス様!!」


「……へえ〜」


ルミナスたちは一斉にレシェナの方を向く。


当の本人は──


「な、なんのことかなぁぁぁ……?? きっと、違う人と勘違いしてるんじゃ……」


冷や汗をダラダラと流しながら、苦し紛れの言い訳を口にする。


しかし──


「宵闇の糸紡ぎ姫……ねぇ?」


「宵闇の糸紡ぎ姫様、ですか。」


「その気持ち、わかるよ〜! うんうん。私はちゃんと時と場合で使い分けるから安心してっ!」


ルミナスはグッと親指を立ててウィンクした。


「も、もう勘弁してください……はい、あたしです……それ……」


レシェナは真っ赤になった顔を両手で覆う。


「住所も名前もバレないように、ひっそりやってたのに……ここに来て……っ!」


そんなレシェナに、アレクシアはさらに一歩近づいて問いかける。


「あの……覚えていませんか? わたくしが五歳の誕生日に、赤いドレスを仕立てていただいたことを……」


「えっ……あの時、依頼で来てた貴族の……。まさか……! 貴族じゃなくて、王族だった!?」


そう、レシェナが“貴族の子女”と思って仕立てたドレスの相手は、他ならぬ王女アレクシアだったのだ。


まじまじとアレクシアを見つめ、レシェナはぽつりと呟く。


「まさか、あの時の小さな女の子が王女様だったなんて……。納得……。通りで、透き通った魂だと思ったわ……」


アレクシアは嬉しそうに笑みを浮かべて言う。


「その節はありがとうございましたわ。“宵闇の糸紡ぎ姫”様。ここで再会できたのも、きっと何かのご縁ですわ! きっと父上も、お喜びになります!」


そしてルミナスたちは、アレクシアを魔馬車に乗せ──王宮へと、再び帰還の道を進み始めるのだった。


──エルディナ王国・王宮


王宮へと戻ったルミナスたちは、アレクシアと一旦別れ、先に謁見の間へ向かうこととなった。


「あれ? アレクシアも一緒に行かないの?」


ルミナスが振り返ると、アレクシアはふんわりと微笑んで頷いた。


「あとで必ず参りますわ♪」


そう言い残して、彼女は嬉しそうに廊下の奥、自室へと戻っていった。


──王宮・謁見の間


重厚な扉の前に到着した一行を、控えていた従者が出迎え、厳かに扉を開く。


その奥には、王位に腰掛けたヴェルクス王が満面の笑みで待っていた。


扉の向こうへと足を踏み入れた瞬間、王は椅子から立ち上がり、深々と頭を垂れる。


「おかえりなさいませ、ルミナス殿……! またそのお姿を見られたこと、何より嬉しく思いますぞ」


「王様、ただいま!!」


ルミナスはピースサインを作り、ぴょこんと前に突き出して答えた。


「オアシスの件、バッチリ解決してきたよっ!」


「おお……! それは頼もしい! いやはや、流石はルミナス殿!」


王はホッとしたように椅子へと腰を下ろした。


だが──


その後、ルミナスがザハールでの出来事を語り始めると、ヴェルクス王の表情は一変する。


──数分後


「な、なんですと……!? 人を魔族へと変貌させる実、“瘴果の実”……そして……魔王復活……」


先ほどの余裕ある笑みはすでになく、王の顔は青ざめ、冷や汗が頬をつたっていた。


ルミナスもまた、険しい表情のまま言葉を継ぐ。


「魔王の復活については、まだ確かなことは言えない。けど──。

いつ復活するのか、そしてどこで復活するのか。……時間の問題だと思う」


王は唸り声を漏らし、額に手を添えた後、ぽつりと呟く。


「うーむ……しかし、ルミナス殿は以前、魔王を単騎で討伐されております。今回も──」


「え……ルミナスって、魔王も倒してるの!?」


セシリアの隣でひっそりと立っていたレシェナが、思わずぽそりと声を漏らす。


「はい。しかも、たった一撃で葬り去ったそうですよ」


隣に立つセシリアが、静かに補足した。


「す、すごいじゃないっ!! それなら──」


「──いや」


ルミナスが口を開く。最初の一言は、明確な否定だった。


その声音の重みに、室内が一気に静まり返る。


「おそらくだけど──最初の魔王とは、比べちゃいけないと思う」


「……と、言いますと?」


ヴェルクス王は身を乗り出し、真剣な面持ちで続きを促す。


「最初に私が倒した魔王は、おそらく“人間を相手に”作られた存在だった。あまりにあっさり倒してしまったから強さは測れなかったけど……

少なくとも、普通の魔族よりははるかに上。フルネス化した魔族よりも、さらに上だったと思う」


一呼吸置いて、ルミナスは静かに、しかし重く言葉を落とす。


「──そして、これから復活する魔王は──」


皆がごくりと息を飲む。


「……“私を倒す”ことを想定して、生み出された魔王だと思う」


その瞬間、謁見の間には凍りつくような静寂が訪れた。


神の力を宿した者を倒すための存在。


それが、これから現れる敵──。


「な……なるほど……」


ヴェルクス王は深く椅子に腰掛けると、ひとつ深呼吸をした。


しかし、そんな中でもルミナスは変わらぬ笑みを浮かべて言う。


「でも大丈夫! 絶対に、みんなを守るから。この命が尽きても──」


その言葉の続きを遮るように、背後から鋭い声が飛んできた。


「──ちょっと!!」


振り返れば、それはフェリスだった。


「あんた一人で抱え込むんじゃないわよ」


その後ろから、セシリアが穏やかな声で続ける。


「そうですよ、ルミナス様。私たちも一緒です。……皆で守っていきましょう」


さらにレシェナも、ややおずおずと声を上げた。


「あたしも……なにか協力できることがあれば……! 防具とか……」


「みんな……」


支え合う声の数々に、ルミナスの胸の奥が温かくなる。


そんなやり取りの中、ヴェルクス王がふと首を傾げて口を開いた。


「そう言えば……そちらの女性は?」


王の視線の先にいるレシェナが、ハッとして慌てて前に出る。


「あ……! あの……!」


ペコペコと頭を下げ、名乗ろうとするが、緊張からか言葉が詰まってしまう。


そのとき──


──バァンッ!!


「皆様!! お待たせしましたわ!!」


威勢よく開いた扉から、颯爽とアレクシアが現れる。


真紅のバラをあしらったドレスを纏い、彼女は凛として歩み寄ってきた。


「おお、アレクシアよ。今日はまた随分と気合が入っておるな」


そう感心した様子で王が言うと、アレクシアはレシェナの前に立ち、くるりと一回転してみせた。


「レシェナ様! 見てくださいませ、このドレス……仕立てていただいたものですの!」


それは彼女が五歳の誕生日に作ってもらった一着。形魂の技術によって、今も美しいまま身体に馴染んでいた。


「あっ……そうそう! このドレス……うわぁ、懐かしい……!」


レシェナが目を細め、感慨深げに口にする。


その様子を見て、ヴェルクス王が目を細めながら問う。


「アレクシアよ……どういうことなのだ?」


問われたアレクシアは胸を張り、レシェナの隣へぴたりと立つ。


「ふふん、お父様。この方こそ、あの幻の名店『月糸の家』の店主──“宵闇の糸紡ぎ姫”様ですわっ!!」


「な、なんとっ!? この方が……!」


ヴェルクス王が目を見開く中、レシェナは恥ずかしそうにうつむきつつ、そっと片手を上げる。


「は、はいぃぃぃ……」


「いやはや……! お久しゅうございます。あの節は、大変お世話になりました」


王は朗らかに微笑みながら、ゆっくりとレシェナの元へと歩み寄る。


そんな様子に、ルミナスが首を傾げて尋ねた。


「レシェナって、そんなに有名人だったの?」


「はっはっは! それはもちろん。貴族や王族の間では大変な評判でしてな。

ある地方では、糸紡ぎ姫様の人形がきっかけで疫病が収まった、なんて話もあるほどですぞ」


「へぇ〜……!」


「ただし、顔を隠されていたのでな。こうしてお会いするまで、まったく気づきませんでしたが」


ヴェルクス王の言葉に、レシェナが小声で説明する。


「あ〜……その……顔バレすると家に押しかけられることがあって……で、まあ、色々と……」


(……なんかネットで活動してる有名人みたいだなぁ)


ルミナスが心の中でそんなツッコミを入れていると、ヴェルクス王が改めてレシェナに問いかける。


「ところで、こちらへはご移住を?」


「あ、はい。一応……エルディナ王国でもお店ができたらなぁって……」


「それは素晴らしいお考えですな。では、住居の手配を──」


王が従者に目配せしようとしたそのとき、ルミナスが手を挙げて遮った。


「その件、私から提案がありますっ!」


レシェナとヴェルクス王の視線が、ルミナスに向く。


「私のお家に、住んでみるのはどうかな?」


言いながら、隣のセシリアに目配せをする。


「はい。ルミナス様のお屋敷には、まだたくさん空き部屋がありますから、滞在には十分すぎるほどです」


「フェリスもよく泊まりに来てるし、きっと退屈しないと思うんだけど……どうかな?」


「えっ!? いいの!?」


「もちろん! むしろ大歓迎だよ!!」


ルミナスの温かな笑みに、レシェナはぱあっと顔を輝かせた。


こうして、レシェナがルミナスの屋敷に住むことが、正式に決まったのだった──。

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