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第一章 第5話:種は再び水を吸う。

              ――あらすじ――

朝の光に包まれた王都の畑。

ルミナスは、昨日の出来事への感謝を伝えるため、ふたたび足を運ぶ。

そこで出会ったのは、熱意あふれる“とある人物”と、思わぬ提案だった。

新たな挑戦の幕が上がり、彼女の“はじめて”が、静かに動き出す――。

──朝。屋敷にて。


朝食を食べ終えたルミナスは、農民たちにお礼を伝えるため、再び畑へと足を運んでいた。


「おーい!ルミナス様ぁ!!」


農民のひとりが、鍬を片手に手を振る。その声に気づいたルミナスは手を振り返す。が──


「……あれ? あの人、謁見の時に……」


畑の隅に立っていた一団の中から、一人の人物がルミナスに気付き、勢いよく駆け寄ってきた。


「これはご機嫌麗しゅう、ルミナス様!! この浄化魔法をおかけになられたのは、貴方様ですよね!?」


その男──王宮魔道士・グランツ──は、勢いよくルミナスの前に跪く。


「は……はぁ……」


「やはりっ……!! 素晴らしい!!これほどまでに清らかな浄化の力……通常、浄化魔法は聖属性の高等魔術に分類されますが、わたくし……これほどの奇跡は見たことがありません!! やはりルミナス様は神の御使い……いえ!! 神そのもの!! はぁぁ!! ありがたや……!」


(す、すごい変な人だな……)


農民たちもやや引き気味に距離を取っている。


「そ、それで……グランツさんは畑に何か御用で?」


「あっ、そうでした!! 実はこの浄化された畑を見て、思ったのです!! わたくし王宮にて、貴重な作物の種を防腐魔法で保管しておりまして! この状態の畑であれば、これまで腐ってしまっていた作物も育てられるのではないかと……!!」


グランツは目を輝かせながらルミナスの手を握ってくる。


(ち、近い……)


「ですが……その種は、どれも貴重なもの……。陛下の許可がなければ、持ち出すことも育てることもできません……」


しょんぼりと肩を落とすが、次の瞬間グワッと顔を上げる。


「ですが今!! 今こそ、ルミナス様がこの奇跡を陛下にお伝えくだされば!! 必ずや許可を賜れるかと!!」


(……つまり、私が国王に直談判しろってこと?)


「いかがでしょうっ!? 食料が増えるのは悪い話ではないはずですっ!!」


鼻息の荒いグランツを前に、ルミナスは苦笑しながらも頷いた。


「ま、でも……確かに食べ物が増えるのはいいことよね。わかった、行きましょうか!」


農民たちに感謝を伝え、「また来るね」と言い残して、ルミナスは王宮へと向かった。


──王宮・謁見の間


「なんと……! やはり、あの畑はルミナス殿の手によるものだったのか!」


国王は玉座から身を乗り出し、驚きと感嘆の声を上げた。


「またしてもこの国を救ってくださったのですね……。なんとお礼を申したらよいか……!」


「そのことなんですが……」


ルミナスがチラリとグランツを見ると、待ってましたと言わんばかり前に出る。


「はい! 陛下! 現在、畑は完全に瘴気が浄化されております! さらに土壌の活力も戻っており、私が保管している古の種が育つ可能性が極めて高いと見ております!」


「なるほど……! つまり、瘴気がなくなったことで、長年眠っていた作物の種が再び育てられると……!」


国王は立ち上がり、即座に頷いた。


「そのような貴重な機会を逃す手はないな! よかろう、種の使用を許可する!」


ルミナスが口を挟む暇もなく、話はスムーズに進み──貴重な作物の種の使用が正式に認められた。


──王宮・保管庫


保管庫の扉が開かれると、そこには50を超える種の箱が、魔術付きの鉱石を埋め込んだガラス容器に整然と並んでいた。


「こちらが、種の保管庫でございます!!」


グランツが胸を張って説明する。


「うわっ……すごい数だね。これ全部管理してるの?」


「はい! 代々の記録とともに受け継いでおります。すべて防腐魔法が施されており、長年鮮度を保っております!」


その中に、ルミナスは見覚えのある種を発見する。


「……!? こ、これ……!」


「スイカの種……!?」


日本にあったものと酷似した黒い種。ルミナスの瞳が輝く。


「おぉ、ルミナス様、その種に興味を!? それはですねぇ……」


本をパラパラとめくりながら、グランツが解説を始める。


「はいっ! “レッドメロウ”の種でございます! 暑い季節に最も甘くなる果実で、植えるなら今がまさに最適な時期かと!」


「レッドメロウ……赤いメロン……いや、スイカだ……」


ルミナスのテンションが跳ね上がる。


「これ!! これにしよう!!」


そう言って種を抱きかかえたルミナスの視線が、次の段の箱に止まる。


「ま、まさか……この種は……!」


「とうもろこし……!?」


膝をついて見入るその種は、彼女の記憶にあるものとまったく同じだった。


「それは、“クゥクゥモロコ”の種ですね! それもレッドメロウと同じ時期に植えられる品種です!」


「スイカ……とうもろこし……夏祭り……!」


「ル、ルミナス様……??」


ルミナスは静かに立ち上がり、キリッとした顔で言い放った。


「グランツさん!! 私、この種たちを絶対に育てます!!」


こうして、ルミナスの農業計画がいよいよ本格的に動き始めた。


――王都・南西の共同耕作地


畑に戻ったルミナスは、上機嫌で農民たちに声をかけられる。


「お、ルミナス様! ずいぶん嬉しそうじゃねぇか!」


「んふふ〜♪ まぁね〜♪」


ルミナスは種のことを農民たちに話し、畑を一部使わせてくれないかお願いした。


「畑が必要なら、遠慮せず使ってくれ!」


「なんなら“ルミナス様専用の畑”を作ったって構わんぞ!」


「……専用……!」


その言葉に、ルミナスの頬がほころぶ。


こうして、畑の一区画を借り受け、初めての“本格農業”に挑むこととなった──


しかし、


「わからん……!」


鍬を手にしたルミナスは、最初の一歩でつまずいていた。


(私の知識なんて、昔ちょっとだけ見た『鉄◯DASH』の再放送レベルだぞ!?)


農民たちから耕し方を教わったものの、どれほど深く耕せばいいのか、どのくらいの力加減が適切なのか、自信が持てない。


「そうだ、グランツさん! 種のことが書いてあった本に、何かヒントはないかな?」


呼びかけられたグランツは、持参していた分厚い資料本をぱらぱらとめくりながら答える。


「そうですねぇ〜……あっ、ありました! レッドメロウとクゥクゥモロコは、高さ15〜30セルほどの(うね)に1セルほどの深さに植えるのが良いようです!」


「セル……? たぶんセンチのことかな。よし、じゃあ種の数も考えて耕してみるか!」


意気込んだルミナスは、鍬をギュッと握りしめ、力強く振り下ろした。


「ボゴォッ!!!!」


「……へっ!?!?」


土が盛大に抉れ、周囲の農民やグランツが目を見開いて絶句する。


「う、嘘でしょ!? そんなに力入れてないのに……!」


「さ、さすがはルミナス様……お力まで女神級でございます!!」


(いやいや、グランツさん、それフォローになってないからね!?)


慌てて皆で崩れた土を戻し、改めて力加減を調整しながら耕し直す。


「よし……今度は軽く、慎重に──」


「ザクッ! ザクッ! ザクッ!」


ルミナスは丁寧に畝を作り、種を蒔く準備を整えていく。農民たちとグランツが温かく見守る中、彼女はふぅっとひと息ついた。


「お上手です、ルミナス様! それでは、こちら。レッドメロウの種を1メル間隔で植えていきましょう!」


「あれ、グランツさん。肥料とかはいらないの?」


「そこに気づくとは……さすがです、ルミナス様!!」


身を乗り出してくるグランツのテンションに、ルミナスはわずかに引きながらも耳を傾ける。


「本来は、種を蒔く際に“基肥(もとごえ)”として肥料を混ぜ込むのですが──!」


「──ですが?」


「今朝、土を調べたところ……なんと! ルミナス様の浄化魔法のおかげで、肥料が必要ないほどの理想的な土壌となっておりました!!」


(声がデカいな……)


「じゃあ、肥料の心配はいらないってこと?」


「ええ。ただし、魔法の効果がどれほど続くかは未知数ですので、定期的に浄化魔法をかけていただければ万全かと!」


(あの、眠気でぶっ倒れるやつね……。でも、スイカととうもろこしのためなら……!)


ルミナスはそっとレッドメロウの種を取り、深さ1センチほどの穴に3〜4粒ずつ、等間隔で入れ、優しく土で覆う。


(よし……次は、とうもろこし!)


レッドメロウの根が干渉しないよう少し離れた位置を選び、同じように丁寧にクゥクゥモロウの種を蒔いていく。


「ルミナス様、クゥクゥモロコは30セル間隔で蒔くと良いそうです!」


「了解〜!」


すべての種を蒔き終えたルミナスは、最後に手を合わせて目を閉じ、祈りを込めて呪文を唱えた。


「元気に育てぇ〜……! セイクリッド・シャワー!!」


キラキラと輝く祝福の水が、種を植えたばかりの土を優しく潤す。魔法による清らかな雨が、生命の鼓動を呼び起こすように、大地を濡らしていった。


「よし! あとはどうすればいいの?」


「さすがルミナス様! 次は発芽を待つのみですので、本日はここまでとなります!」


自分専用の畑ができたこと。そして、遠く離れた懐かしい味――スイカととうもろこしが、ここで育つかもしれないという希望。


ルミナスは期待と満足の笑みを浮かべながら、陽光に背を押され、屋敷へと帰っていった。


第一章 第五話:完

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