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第四章 第19話:夢が広がる古代の魔石。

            ──あらすじ──


激戦を終えたルミナスたちは、予想外の形で新たな“可能性”と出会う。

魔王復活の気配が漂う中、

古代に封じられた禁断の魔石が未来の扉を開く鍵となるのか――?

ルミナスの野望(?)が今、密かに膨らみ始める。

──ザハール砂漠・西の砂原


魔族と化したバルネスを討ち倒し、砂漠の熱気の中で、ルミナスたちは束の間の休息を得ていた。


「じゃあ、もう大丈夫そうだよね?」


フェリスが小首をかしげながらルミナスを見やる。


「え? なにが?」


ルミナスは、軽く息を吐くと、神纏い状態を解除した。


──しゅうぅぅぅ……


純白の翼が音もなく消え、纏っていた神気のオーラが静かに消滅する。そして、その身体は徐々に小さくなっていった。


「はぁ……結局、元の姿に戻ったと思ったら、またこれか……」


スカートに結ばれた紐をセシリアに直してもらいながら、ルミナスはため息を漏らす。


セシリアはスカートの丈を整えながら、優しく言葉をかけた。


「ですが……この姿もとても可愛らしくて、私は好きですよ?」


「ん……ありがとう」


照れたように目を細めるルミナス。


「まぁ、いつもの力が少し弱くなるだけだし、問題はないんだけどさぁ……」


フェリスがそんなルミナスの頭をガシガシと撫でながら茶化すように言った。


「ま、次からは私たちから勝手に離れたりしないことね。攫われたら面倒なんだから!」


「ちょっ……フェリス〜……」


三人は笑い合いながら、その場を後にしようとした。


──キラッ……


「……ん? 今、何か光らなかった?」


ルミナスの視線が、崩れた隠れアジトの奥で一瞬だけ煌めいた光を捉えた。


「ちょっと待ってて」


瓦礫の中に足を踏み入れ、ルミナスは小さな水晶玉を拾い上げた。


「……これ、なんだ? 占いとかに使う玉……?」


セシリアとフェリスも興味を惹かれ、ルミナスの手元を覗き込む。


「それは……確か、バルネスが話しかけてた水晶ですね……」


「へぇ、何に使う水晶なんだろ……?」


すると、水晶の内部に紫色の光が渦を巻き始めた。


──ザザザ……


「おや? これはこれは……揃いも揃って」


「──ザリオスっ!?」


三人の声が重なった。


水晶に映し出されたのは、魔王軍の幹部・ザリオス。

椅子にゆったりと腰掛け、血のような赤い液体をワイングラスで優雅に傾けている。


「どうしてあなた達が……ああ、なるほど。バルネスとかいう玩具は壊れてしまったんですね。クク……」


「何こいつ、優雅ぶっちゃってさ」


「ふん、カッコつけたいだけでしょ」


ルミナスとフェリスの冷たい言葉に、水晶の向こうのザリオスが即座に反応した。


「聞こえてますよっ!? 失礼ですねぇ」


セシリアが前に出て、鋭い視線で言い放つ。


「バルネスと連絡を取っていたのはやはり貴様だったか……」


「おっと? これは精霊の死にぞこないではありませんか。ふふっ……」


視線をぶつけ合うセシリアとザリオス。


「ザリオス。精霊核を奪って、何をするつもりだ?」


「さぁ? そんなこと、あなた方には関係のないことですよ。クク……」


その時、水晶の中から別の声が響いた。


「ザリオス〜。ザル=ガナス様に精霊核、全部捧げ終わったよ〜。あともう少しで魔王様、復活できるって〜」


「──あ」


ザリオスが気まずそうに小さく呟いた。


そこに映ったのは、死んだはずのシェレーヌだった。

彼女の身体は蜘蛛のような脚と人の上半身が融合したような、不完全でおぞましい姿へと変貌していた。


「シェ、シェレーヌ!?!?」


「こ、こいつ……私がとどめを刺したはずなのに!? なんで生きてんのよ!!」


驚愕するルミナスとフェリス。

だがセシリアは、その姿よりも、シェレーヌの口にした言葉に耳を奪われていた。


「……魔王復活!? どういうことですか!?」


水晶に詰め寄ろうとするセシリア。

彼女の声は、緊張と不安を含みながら砂漠の空気を震わせた。


──ピシッ……!


「えっ!?」


──パリィンッ!!


水晶は音を立てて砕け散り、ザリオスたちの姿は掻き消えた。


「逃げられましたか……」

セシリアが悔しげに歯噛みする。


「魔王復活……か……」

ルミナスがぼそりと呟くと、フェリスがすかさず反応した。


「でも一度ルミナスが倒してるんでしょ?なら、復活してもどうってことないんじゃない?」


その言葉に、ルミナスはふっと笑って頷く。


「そうだね! 今なら神気も纏えるし、魔王の一体や二体、どんとこいだよ!」


「さ、さすがにそれは勘弁してほしいわ……」


三人は魔馬車のもとへと向かい、待機していたミレイユたちと、ついでにナリ兄弟も連れてザハールへと帰還するのだった。


──魔馬車・内部


奴隷輸送用に造られた魔馬車は、内装が意外なほど広く、座っても寝転んでも余裕があった。

その中で待っていたミレイユは、ルミナスの姿を見るや否や、勢いよく抱きついた。


「ルミナスちゃん! おかえりなさい!!」


──ぎゅっ!!


「おふっ……!! ミ、ミレイユさん……く、苦しい……っ」


「あら、ごめんなさい! ……って、あら?元に戻ってたのね?」


ミレイユはルミナスの小さくなった姿を見て、これが本来の状態だと勘違いしている。


「いや、違うんだよミレイユさん……さっきのが通常で、こっちが……」


「なんだっていいわっ!助かったのだものっ!!」


再び感極まったミレイユが、ルミナスをさらに強く抱きしめる。


──ぎゅぅぅぅぅ……!!


「う……く、るしっ……」


その様子を見ていたフェリスは、ため息混じりに呟いた。


「……あんた、子供のままでも十分やっていけるわよ、きっと」


一方、御者席に座ったセシリアは、手綱を握りながらケルベロス部隊に声をかける。


「ケル、ベロ、スー。ザハールまで戻ったら干し肉をあげますから、最後までお願いしますね」


「ワンッ!!」×3


そして魔馬車の荷物置き場では、しっかり縛られたナリ兄弟が肩を寄せ合っていた。


「兄貴……俺たち、ザハールに着いたらやっぱ豚箱行きなんすかねぇ……」


「仕方ねぇ……でもまぁ、死ぬよりはマシだ。生きて帰れるだけありがてぇってもんだ」


「た、確かに……」


──ガラガラガラガラ……!!


こうして魔馬車は、無事にザハール自由連邦国へと向かっていった。


──ザハール自由連邦国・城門前


ザハールの城門に到着すると、ミレイユたちを解放するため、ルミナスは馬車から降りて門番に事情を説明する。


「ルミナスちゃん……本当にありがとう……!この恩はいつか、絶対に返すからね!絶対よ!」


ミレイユはルミナスの小さな手を握りしめ、涙を浮かべながら感謝を告げる。


「うん、また困ったことがあったらすぐ言ってね!」


そう言って笑顔で手を振るルミナスに、他の女性たちも深く頭を下げ、晴れやかな表情で街へと戻っていった。


「きっと、まだ他にも……こういう風に奴隷にされてる人たちって、たくさんいるんだろうなぁ……」


彼女たちの背を見送るルミナスが、ぽつりと呟く。


「でも、今回バルネスという頭が潰れました。今後はこういった集団も、統率を失い減っていくでしょう」


隣で立っていたセシリアが、優しく語りかける。


「そうだね……そうだといいなぁ」


ルミナスは微笑んで頷き、再び魔馬車に乗り込む。


「それじゃ、グラン王に報告して、宿に戻って美味しいご飯食べて休もう!」


「はい、もしよろしければ、私が厨房を借りて何かお作りします」


「いいわね、それ! じゃあ早く報告終わらせて、晩ごはんタイムにしちゃいましょ!」


こうしてルミナスたちは、ザハール宮殿を目指して再び歩き出した。


──ザハール自由連邦国・宮殿前


ルミナスたちが宮殿の前に到着すると、すでにグラン王とハキームが正門前で立って待っていた。


「おお! お待ちしておりましたぞ、ルミナス殿!」


その隣に立つハキームも、満面の笑みを浮かべて声をかける。


「ルミナス様! お帰りをお待ちしておりました!」


門をくぐりながら手を振るルミナスは、二人に近づいて話しかけた。


「あれ? 二人とも外で待ってたの?」


「ええ、先ほどの光……あれはルミナス様のものでしょう? 光の柱が消えたので、そろそろ戻られる頃かと見計らっておりました」


「……あ、やっぱり見えてた感じですか……」


ルミナスは照れくさそうに頭の後ろで手を回し、頬を赤らめる。


「ええ、それはもう。民全員が目撃しておりましたぞ」


「えぇっ!? み、みんな見てたの!?……」


驚くルミナスの横で、フェリスが肩をすくめる。


「そりゃ、あんだけ光ってりゃ誰でも気づくでしょ」


セシリアも、どこか誇らしげに続ける。


「あの輝きは、ルミナス様の神性そのもの。注目されるのも当然です」


ルミナスは恥ずかしさに顔を手で覆う。


「ささ、立ち話もなんですから、中へ参りましょう」


そう言って、グラン王の誘導で一同は謁見の間へと入っていった。


──ザハール自由連邦国・宮殿 謁見の間


謁見の間で、ルミナスは誘拐事件の全容を報告した。バルネス・グロスヴァルトという貴族が魔王幹部ザリオスと繋がっていたこと。

瘴果の実という、人を魔族化させる果実の存在。そしてザリオスたちが魔王復活を企んでいるという事実まで、余すことなく伝えた。


「まさか、ザハールの地でそのような陰謀が進んでいたとは……それに、魔王復活とは……」


深刻な表情でつぶやくグラン王に、ルミナスは真剣な面持ちで頷く。


「うん。まだ復活はしてないみたいだけど、兆しがあったらエルディナ王国からすぐに知らせるよ」


「そうしてもらえるとありがたい限りです」


ルミナスからの報告が終わるとグラン王は従者に目配せしながら、ルミナスへ言葉を続ける。


「ルミナス殿。此度のご活躍に対して、ささやかではございますが謝礼を用意いたしました。どうかお納めください」


従者が持ってきたのは、赤い小さな宝箱だった。


「これは……?」


ルミナスが箱を開けると、中には何重にも布で包まれた砂色の石がちらりと見えた。


「それは『縛魂(ばくこん)の魔石』。ザハール建国以前に作られた、古代の魔石でございます」


「古代の魔石!?」


「はい。当時の記録によれば、人の思考や感情を制御し、服従させるために作られた禁断の遺物。

首輪や手枷に組み込むと、命令に逆らった者に激痛を与えるそうです。ザハールでは“忌むべき遺産”として封印しておりました」


その言葉を聞き、ルミナスの脳裏には誘拐時につけられた黒い首輪の記憶がよみがえる。


「えっ、それって……電流がビリビリ走るやつ!?」


グラン王は首を横に振り、落ち着いた口調で説明する。


「いえ、それは恐らくこの魔石を模して作られた粗悪な偽物でしょう。こちらの魔石は、痛みだけでなく精神そのものを服従させる真の“縛魂(ばくこん)”。桁が違います。

過去にはこの魔石に近づけようと刻印魔法を用いた複製品も存在したようですが、本物はこれが最後の一つ」


説明を聞いたセシリアが、バルネスの持っていた魔石を思い出し思わず自分の肩に手を当てる。


「……これが最後の一つ、ですか」


「いかにも、この“縛魂の魔石”は、現在そちらにあるものが最後の一つと記録されています。他はすでに粉砕され、

破棄されたと文献に記されておりました。仮に似たような魔石が存在したとしても、それらはすべて模造品ということになります」


グラン王の説明を受けたルミナスは、小さく眉をひそめて箱を見つめる。


「うーん……でも、こんな物をもらっても……」


扱いに困る様子のルミナスに、グラン王は朗らかに笑ってみせた。


「はっはっは。ルミナス殿ならば、そうお悩みになると思っておりましたよ。この魔石については、

宮殿付きの魔石鑑定士にも調べさせたのですが……人間だけでなく、魔獣のような本能で動く種にも効果が及ぶ可能性があるとのことでした」


「えっ、それって本当!?」


目を丸くするルミナスに、グラン王は頷いて続ける。


「ええ。使い方さえ誤らなければ、例えばルミナス殿に懐いているあの三頭の魔獣たちのように、

共生の関係を築くことも可能かと。私は、ルミナス殿ならば正しい用い方をされると信じております」


その言葉にルミナスの脳裏へ、ビビビと雷のような閃きが走る。


「それってつまり……家畜化できるってこと!?」


彼女の目がキラリと輝く。凶暴な魔獣たちが人と共に暮らす未来。人々の生活は劇的に変わるかもしれない。が、次の瞬間、ルミナスの脳内を埋め尽くしたのは——


「チーズ……バター……アイスクリーム……!!」


呪文のように唱えながら、頬を緩ませるルミナス。そのあまりの没入ぶりに、セシリアとフェリス、さらにはグラン王までもが、揃って小首を傾げた。


「ただし、注意点がございます」


グラン王は声を戻し、改めて魔石について補足する。


「この魔石の効果については、あくまで“人間に作用する”と記されたものが原典です。

魔獣に関しては鑑定の結果、効果範囲に入る可能性が高いとされましたが、実際に使用された記録は残っておりません。そこはご了承くださいませ」


「ふむふむ、なるほど……」


ルミナスは神妙な顔つきで頷くと、縛魂の魔石が収められた箱をしっかりと抱え込む。


「それでも十分すぎる品物です!ありがとうございます、グラン王!」


(むふふ~……王国に戻ったら、すぐにグランツさんに渡して解析してもらお~っと!)


嬉しそうにニヤつくルミナスを、セシリアとフェリスは少し距離を取りつつ静かに見守っていた。


こうしてザハールでの一連の報告を終えたルミナスたちは、宿へと足を向けていくのだった。

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