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第四章 第18話:その光、砂漠に満ちて。

──あらすじ──


ザハール砂漠に再び蠢く邪悪な気配。

変貌を遂げた因縁の敵に、ルミナスたちは全力で立ち向かう。

仲間と力を合わせ、“光”をもって砂漠の闇を裁く女神。

その剣が振るわれる時、希望は空へと昇る――。



──ザハール砂漠・西の砂原


巨大な“腕”が砂をかき分けながら地表へと這い上がってくる。

まるで大地を貪るように――その黒く脈打つ異形の腕は、確かな意思を持って地上を目指していた。


「ル、ルミナスっ!? な、何よこれ!!」


突然の光景にフェリスが声を上げる。


「バルネスだよ」


「……バルネス!? あの、バルネス・グロスヴァルト!?」


驚愕するフェリスに、セシリアが冷静に説明する。


「バルネスは“瘴果の実”という、魔族に変貌する禁忌の果実を食べて……あのような姿に」


「はあ!? そんな実が存在するの!?」


呆れるフェリスの隣で、ルミナスが指笛を鳴らす。


──ピィィィッ!!


「ワンッ!!」


その声に反応し、――ケルが砂丘を駆けて現れる。

ルミナスはその背から魔聖剣グレイスを引き抜いた。

小さな姿では扱えなかったため、あらかじめケルに預けていたのだ。


「ありがとっ、ケル! お前はミレイユさんたちを守ってあげて!」


「ワンッ!!」


ケルは一声吠えると、魔馬車へと駆け戻り、ミレイユたちを遠くの岩場へと避難させていく。


「さて……と」


──キィィィィン……


ルミナスの手の中で、魔聖剣グレイスが白く輝く。

その光は青白さを超え、まるで純白の神気そのもの。


そしてフェリスもまた、鞘から剣を抜き放つ。


「……まったく、こんなバケモノと戦うなんて……冗談じゃないわよっ!!」


そう言いながらも、彼女の瞳は敵を捉え、気迫を高めていた。


その傍ら――


「ルミナス様……申し訳ありません……私は……戦えません」


セシリアが唇を噛みしめて俯く。


「この“奴隷門”がある限り……私は、あの男に攻撃することができないのです……」


ルミナスは彼女にそっと歩み寄り、微笑んだ。


「大丈夫だよ、セシリア。今の私なら――そんな奴隷門、あっという間に消せるから」


そう言うと、ルミナスはセシリアの肩に顔を近づけ……


──ちゅっ。


「……っ!!??」


突然の口づけ。

それは、奴隷門の焼き印が刻まれた場所だった。


「ル……ルミナス様が!? わ、私に……キ、キ、キ……っ」


セシリアは全身を硬直させ、まるで思考が止まったかのように動かなくなる。


その様子を見ていたフェリスの顔が一気に真っ赤になり、目を見開いた。


「あ、あ、あ、あんたっ!! こ、こんな時に何やってんのよっ!!」


しかし、次の瞬間。


「……っ! ど、奴隷門が……!! 消えていく……!!」


セシリアの肩に刻まれていた紋様が、白い光に包まれてゆっくりと消滅していく。


「えっ……なにこれ……ほんとに……?」


奇跡のような光景に、フェリスも声を失う。


ルミナスは得意げにウィンクする。


「ふふん♪ 名付けて“女神の接吻”ってね!」


「……はぁっ!?」


「いやでもこれ、“神纏い”状態じゃないと使えないみたい。なんか“そうしろ”って感覚が降ってきたのよ。でも効いて良かった!」


肩をすくめて笑うルミナス。

そして彼女は魔聖剣グレイスを掲げ、膨れ上がる異形の影へと視線を向けた。


「さぁ……行くよ!」


そう言うと、ルミナスも魔聖剣グレイスを構え、バルネスに向き直る。


「セシリア! これで戦えるでしょ?」


「……はいっ! どこまでもお供いたします!!」


セシリアも水の刃を構え、巨体と化したバルネスを鋭く睨みつける。


「先ほどはよくもやってくれましたね……! ルミナス様に電流を流した件も合わせて、倍返しして差し上げますっ!!」


──ズゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


砂漠の地面を割って、ついにバルネスがその顔を現す。


だが、現れたのは上半身のみ。

下半身はまだ砂に埋もれており、自由に動くことができないようだった。


『うおぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!』


──ビリビリビリッ!!


「うっるさっ!!」


あまりの轟音に、フェリスが耳を塞ぐ。

上半身だけで優に八メートルはあるバルネスの咆哮は、空気を震わせるほどだった。


そして三人が攻撃の構えを取った、まさにその瞬間。


『ぐおぉぉぉぉあぁぁぁぁっ!!!!』


バルネスが腕をブンブンと振り回し、暴れ始める。


「こ、これは……!」


その姿を見たセシリアが、目を丸くして呟く。


ルミナスは苦悶の表情を浮かべるバルネスを見据えながら、冷静に状況を分析した。


「今、あいつの魂は《原罪の荊(げんざいのいばら)》によって攻撃されてる。魔族になってどれだけ大きくなっても、その本質は変わらない……。

冷静さも理性も失った今のあいつは、きっとここから動けない……。

けど──万が一、ここから這い出してザハールに入ったら、取り返しのつかないことになる……」


三人は目を合わせ、無言で頷いた。


「んじゃ──やってやりますかっ!!」


「いつでも準備はできております!」


「ふんっ! 最後まで付き合ってあげるわよっ!!」


ルミナスがニコッと笑みを浮かべた瞬間──三人は一斉に走り出す。


フェリスは左へ、セシリアは右へ。

そしてルミナスは正面からバルネスへ突進する。


「ほらっ!! こっちよ、このデカブツ!!」


フェリスが挑発するように叫ぶと、バルネスの視線が彼女に向けられる。


『ぐおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!』


──バチバチバチッ!!


「一点集中! 狙うは左腕っ!! 《紅蓮剣・灼葬》!!」


──ボッ!!


燃え上がる紅蓮の炎が、フェリスの剣にまとわりつく。

次の瞬間、バルネスの左腕が巨大な影となって振り下ろされた。


──ひゅうぅぅぅぅっ……


  ──ドゴォォォォォォォンッ!!!


おっそ! ふんっ! 遅すぎてあくびが出ちゃうわよっ!!」


拳に飛び乗ったフェリスは、刃を突き立て、そのまま腕の内側を駆け上がるようにして切り裂いていく。


──タッタッタッタッ!!


 ──ズバァァァァァァァァッ!!


『ぐあおぉぉぉぉぉぉっ!!!!』


第二関節まで一気に切り裂いたフェリスは、勢いそのままに砂の上へと軽やかに着地する。


「弾けろっ……!! 紅蓮剣っ!!」


──キュイィィィィィィン……!!


  ──ドガガガガガガガガッ!!!!


斬撃の軌跡をなぞるように、バルネスの左腕が連続して爆発を起こす。


『ぐぎあぁぁぁぁぁっ!!!!』


「……あら? 痛かった? ま、こんなの序の口でしょ?」


そしてそれを見ながら走っていたセシリアは、ふっと笑みを浮かべて手を掲げた。


「フェリスに負けていられませんね……っ!」


──ごぽぽぽぽぽっ……!!


「この水の量じゃ顔全体は覆えない……ならば!」


──ギュンギュンギュンギュンッ!!


空中に浮かんだ水球が扁平な円盤へと変化し、目にも止まらぬ速さで高速回転を始める。


──ヴィィィィィィィンッ!!!


「水精の流点、刃となりて舞い踊れ……銀月に捧ぐ断罪の円舞──

セレーネ・リッパー(舞い踊る月刃)》!!」


刹那、回転を極めた水の月刃が唸りを上げてバルネスの首を目がけて飛翔する。


──シュイィィィィィンッ!!!


『──!!』


『ぐおああああああっ!!』


しかしバルネスは反射的に右腕をかざし、咄嗟にその一撃を防ぐ。


──ズ……パッ!!!

 

  ──ドスンッ……!!


バルネスの右腕は肘から先ごと、あまりにも鮮やかに断ち落とされ、砂上にどすんと落下した。


『ぐあぁぁぁぁぁぁっ!!!』


「ちっ……外しましたか」


両腕を失ったバルネスは、上体を仰け反らせながらもがき苦しむ。


『ああああああああああっ!!!!』


その巨躯がうねる度に、大地が悲鳴をあげるように揺れる。


そして、空へと舞い上がったルミナスが、その巨体を見下ろしながら口を開いた。


「バルネス……初めてセシリアからお前の話を聞いた時は、ただの“クソ貴族”だと思った。けど、実際に会ってみて“クソ貴族”は訂正するよ──」


ルミナスは空に向かって魔聖剣グレイスを掲げる。


──キィィィィィンッ!!!


神気が剣へと集中し、魔聖剣グレイスは純白の閃光を放つ。


「《セレスティアル・ブレ(天上の刃)イド》……!!」


その瞬間、ルミナスは一直線にバルネスへと急降下していく。


──ひゅうぅぅぅぅぅ……!!


バルネスもまた、光を見据えて口を大きく開け、赤黒い光線を吐き出す。


『ぐおおおおおっ……!!』


──キュイイイイイッ!!!


  ──ズワァァァァッ!!


上空からその様子を見ていたセシリアとフェリスが叫ぶ。


「ルミナス様っ!!」「ルミナスっ!!」


だが次の瞬間──


ルミナスは神気を纏った剣で、その禍々しい光線をあっさりと弾き飛ばした。


──スパンッ!!!


  ──ギュインッ……!!


    ──ドガアァァァァァン……


爆発が上空で咲き乱れる。


それでもなお、バルネスは次々と光線を吐き出していく。


──キュイイッ!!!

  ──ズワァァッ!!!

     ──キュイイッ!!!

        ──ズワァァッ!!!

        ──キュイイッ!!!

     ──ズワァァッ!!!

  ──キュイイッ!!!

──ズワァァッ!!!


だがその全てを、ルミナスは寸分違わず、完璧に打ち返してみせた。


──スパンッ!!!──スパンッ!!!──スパンッ!!!──スパンッ!!!


──ドドドドドドドドドドォォォォン………


炸裂音が夕暮れの空を割る中、ルミナスは静かに言葉を紡ぐ。


「訂正するよ、バルネス・グロスヴァルト──」


──キュイイイイイィィィン!!!!


魔聖剣グレイスの刀身がさらに強く、純粋な神気を帯びて白く輝き出す。


その光は日が落ちると同時にザハール砂漠全体を照らすほどに強く、どこまでも純粋で、どこまでも清らかだった。


「バルネス……お前は人を信じず、傷つけることでしか満たされなかった。だからこそ──」


ルミナスは剣を高く掲げ、声を張り上げる。


「お前は、ただのクソじゃない……“最低のクズ貴族”だってね!!!!」


「バルネス……お前は人を信じれず人を傷つけることしかできない魔族と同じ──最低なクズ貴族だってね!!!」


──ズワァァァァァァァァァッ!!


ルミナスがさらに神気を注ぎ込むと、魔聖剣グレイスの刀身が眩い光を放ちながら天空へと伸びていく。

その神々しい光を、地上のセシリアとフェリスが見上げながら目を輝かせる。


「こ、これは……女神の……梯子……」

「なんて……綺麗なの……砂漠全体が光に包まれてる……」


その光景を見ていたのは、ふたりだけではなかった。


──ザハール自由連邦国・玉座の間──


「グラン王!! 大変です!! 外が!!」


玉座の間の扉が激しく開かれ、ハキームが駆け込んでくる。


「何事だ、ハキーム!!」


「外から……眩い光が溢れております!!」


「──なんだとっ!?」


グラン王とハキームは顔を見合わせ、急いで2階のバルコニーへと駆け出した。


──ダッダッダッダッ!!


「こ…これはっ!?!?」


広がる砂漠の向こう、空へと真っすぐに伸びる光の柱。

ザハールの民衆も気づき、ざわめき始める。


──ざわ、ざわ、ざわ、ざわ……


「な、なんて優しくて力強い光なんだ……」


「なんだか気分が良くなってきた……」「なんて心地いいんだ……」


「ああ……神よ……」「きっと神様が祝福をもたらしたんじゃ……」


「ママ〜!! 見て〜!! すっごく綺麗!!」

「ええ、そうね。きっと神様が見守ってくださっているのよ……」


人々は皆、自然と膝をつき、その光に向かって手を合わせ祈りを捧げる。


「グ、グラン王……! これは一体……!!」


光を見つめながら、グラン王は静かに微笑んだ。


「はっはっは。ハキームよ……大丈夫だ。きっとルミナス殿だろう。それにしても、心地よい光だ……」


「な、なるほど……! 彼女なら、確かに……!」


ふたりは、遠く輝く空を見つめ、静かに手を合わせた。

それは心の闇すらも払う、穏やかで神聖な光だった。


──ザハール砂漠・西の岩陰──


岩陰に身を潜めていたナリ兄弟も、光を見上げてぽつりと口を開く。


「兄貴……なんていうか……心地いいっすねぇ〜……」

「あぁ……こんなに晴れ晴れした気分は初めてだ……」


光の柱はルミナスを中心に空へと伸び、世界を照らす。


だが、その光を直視したバルネスは、苦悶の咆哮を上げ暴れだした。


『ぐ……ぐおあぁぁぁぁっ!!! ぐうぅぅおぉぉぉぉっ!!!』


──キィィィィィィィィィィン……!!


「これが……天の裁き。女神の一撃!!──

《ディヴァイン・リミ(光の解放)ット》!!!」


ルミナスが神気を込めたまま、魔聖剣グレイスを振り下ろすと、光の柱が砂漠に倒れ、バルネスを直撃する。


バルネスは咄嗟にまだ動く左腕を掲げて防ごうとするが……


──ジュワアァァァァァッ!!!!


触れた瞬間、その巨大な左腕は蒸発して消え去った。


『ぐあぁぁぁぁっ!!! ぎゃあぁぁぁぁぁっっ!!!!』


さらに光の柱は、頭部から腰にかけてバルネスの身体を焼き払っていく。


──ジュウゥゥゥゥゥゥゥッ!!!


『ぐぎぎっ……ごぐぐっ……!!』


やがて光の柱は静かに砂の地に沈み、その輝きは粒子となって散っていく。


──ドパアァァァァァァンッ……!!


  ──キラキラキラキラ……


巨大な体躯を保っていたバルネスは、己の罪ごと溶け崩れ、跡形もなく消滅していった。


──スタッ……


ルミナスは静かに地に降り立ち、消えゆくバルネスに目を落とす。


「転生したら──もっとマシな人間に生まれ変われるといいね……」


そう呟くと、粉々に砕けた魔聖剣グレイスを鞘に収める。


すると遠くから声が届く。


「ご無事ですか!! ルミナス様!!」

「やったわね!! ルミナス!!」


その声にルミナスはにっこりと笑い、元気よく応える。


「よしっ!! 帰ったらみんなで美味しいご飯食べに行こっ!! 動いたらお腹空いちゃった!!」


──こうして、ザハールで蠢いていたすべての悪意は、女神の光によって裁かれ、終焉を迎えたのだった。

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