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第四章 第1話:女神と使者

              ──あらすじ──


平穏な一日、庭で魔獣たちと遊ぶルミナスのもとに、ある国からの使者が訪れる。

思わぬ依頼と新たな出会い、そして彼女のために用意された“特別な贈り物”が、

次なる旅路の始まりを告げる――。

──神聖歴660年 下半期


──エルディナ王国・ルミナス邸:庭


ルミナスは、屋敷の庭でケルベロス部隊と遊んでいた。

今日は訓練の休養日。そんな日は、こうして魔獣たちとのんびり過ごすのが、彼女にとっての癒しの時間である。


「セシリア……ルミナスは何をしてるの?」

庭に呼ばれてやってきたフェリスが、セシリアに声をかける。


「フリスビー……という遊びのようですよ。円盤を飛ばして、それを拾ってくるそうです」

「ふーん……」


ルミナスはケルベロス三匹を整列させ、指導に余念がない。


「いい? 私がこれを投げるから、ちゃんと取ってくるんだよ?」

「ワンッ!!」×3


「それじゃあ、行くよぉ~……」

彼女が構えていたのは、木製の簡素なフリスビーだった。


「それーっ!!」

──スポォォォンッ!!


ルミナスが投げた円盤は、予想を遥かに超えて空を切り裂き、遥か彼方へと消えていく。


「ちょ、ちょっと!! あんた、どこに向かって投げてるのよ!?」

フェリスが思わず叫び、ルミナスの元へ駆け寄る。


「ふふん。まぁまぁ、フェリス。見ててよ~……?」


数分後──


ドドドドドドドッ!!


「……は、はぁ!?」

地響きを伴って現れたのは、フリスビーをしっかりとくわえた

ケル、ベロ、スー三匹。


「よーしよしよし!! 偉いぞぉ~君たち!!」

ルミナスは満面の笑みで三匹を撫でまわす。


フェリスは口をぽかんと開け、言葉を失っていた。


「まだまだこれからだよっ! セシリア、次お願いっ!」


「はい、かしこまりました」

セシリアがフリスビーに魔力を込め始める。


「え!? え!? 今度は何なのっ!?」


そのとき、ルミナスが突如叫ぶ。


「ケル! ベロ! スー! 合体!!」


その言葉を聞いた三匹のケル、ベロ、スーは一斉にうなりを上げ、ズズズッと身体を寄せ合って融合していく。


「ま、魔獣って……合体するの!?」


フェリスは顔を引きつらせ、じりじりと後ずさる。


「──魔獣合体! ケルベロス!!」


「ワオォォォォン!!」


──ビリビリビリ……!


三匹の身体が一つになり、頭が三つの巨大な魔獣がその場に現れる。

その大きさは、元のケル、ベロ、スーたちの三倍はある。


「いやいやいやいや!? そんなの聞いてないんだけどっ!!」


セシリアが冷静に解説を添える。


「以前、討伐したオルグ・フルネスの瘴気を魔石に蓄積し、再生能力の応用としてこの三匹に試してみたところ……合体しました」


合体後のケルベロスは、誇らしげに魔石付きの首輪をフェリスに見せつける。


フェリスは額を押さえ、ため息まじりに呟く。


「……もういいわ。で、今度はその状態で走らせるわけ?」


「そう!! 見ててフェリス!!」


ルミナスは合体したケルベロスの背に飛び乗った。


「では、いきます。──《アーク・キャ(投擲補助魔法)スト》」


──ズワァッ!!


──スポォォォォォン!!


セシリアが魔法で強化されたフリスビーを空高く放つ。


「行けっ!! ケルベロス!!」


「ワオンッ!!!」


砂煙を巻き上げながら、巨大なケルベロスとそれに乗ったルミナスは、稲妻のような速さで遠くへと駆け抜けていった。


フェリスはもう、ツッコむ気力すらなくしていた──。


──数分後


「おぉーい!!」


砂煙を巻き上げ、ルミナスがケルベロスに乗って戻ってくる。その速度は先ほどよりも明らかに早い。


「は、はやっ!!もう見つけたの!?……ん?」


だが、ルミナスの手にはフリスビーはなく、代わりに――見知らぬ男が振り落とされそうになりながら、背中にしがみついていた。


「ル、ルミナス様ぁぁぁ!!止めてくださっ……!ああああっー!!」


庭に到着するなり、男は転がるように降り、荒く息を吐いた。


「はぁ…はぁ…し、死ぬかと思いました……」


そんな彼に、セシリアが静かに尋ねる。


「王宮の者ですね?それで?ご用件は?」


使者は立て直しながらも、急ぎ口を開く。


「は、はい……王宮にて、国王陛下が緊急のご用とのことです……!」


──王宮・謁見の間


ルミナスが謁見の間に入ると、そこには見知った二人の姿があった。


「あ、ルミナス様ぁ~!!お久しぶりですぅ~!!」


ブンブンと手を振るミーナ。その隣には、腕を組みながらニヤリと笑うバルゴ。


「おう、元気そうじゃねぇか、女神様よ」


「えっ!?二人とも、どうしてここに?」


返答を聞くより先に、国王が厳かに声を上げる。


「ルミナス殿、よいですかな……?」


その隣に立つのは、ゆったりとした白い服に白いターバンを巻いた異国風の男だった。


「こちらは、ザハール自由連邦国の使者、ハキーム殿です。ハキーム殿、こちらが神アルヴィリス様の御使――ルミナス殿でございます」


男は恭しく一礼する。


「こ、これはこれは……お初にお目にかかります。ザハール自由連邦国より参りました、ハキームと申します。いやはや……噂には聞いておりましたが、これほどまでに美しい方とは……まさに噂以上ですな……」


「えっと……よろしくね?」


ルミナスは照れながらも挨拶を返し、首をかしげた。


「ザハール自由連邦国……? エルディナ王国とは別の国なの?」


隣にいたセシリアがそっと説明を添える。


「はい。エルディナ王国の南西、砂漠と渓谷に広がる国です。かつては奴隷制度が根付いていましたが、反乱により共和制へと移行しました」


(……奴隷。セシリアもそうだったんだよね……大丈夫だとは思うけど)


「それで……ハキームさんが、どうしてここに?」


ルミナスの問いに、ハキームは深く頭を下げ、静かに語り始める。


「まずは、感謝を。私は、このエルディナ王国へ向かうために、遺書を書き、死を覚悟して国を発ちました」


「ですが……不思議なことに、魔族の襲撃は一度もありませんでした。そして到着して、王ヴェルクス殿から話を伺ったのです」


「ルミナス様が率いる討伐隊や組合員たちが、魔族を撃退していると……。そのおかげで、私は命を落とすことなく、ここへ辿り着けました。本当に……心より感謝申し上げます」


その言葉に、ルミナスは胸の奥から喜びがこみ上げるのを感じる。


「……よかった。私たちのやってきたことが、ちゃんと届いてるんだね」


セシリアとフェリスも静かに微笑む。


しかし――続く言葉は、重く沈んだものだった。


「……そして、本題になります。ザハールは、現在壊滅の危機に瀕しております」


ルミナスの表情が一変する。


「それって……どういうこと?」


「はい……ザハールの命である“オアシス”から湧く水が、腐りはじめたのです。その水を飲んだ者たちは病に倒れ、原因を調査しに向かった者は、誰一人戻ってきませんでした……」


ルミナスは、地球で見たオアシスのイメージを思い浮かべる。


「オアシスって……砂漠に自然に湧く泉、みたいなものでしょ?」


だが、セシリアがそっと補足する。


「いえ、ザハールのオアシスは人工の水源です。正式名称は《リーネの涙》

古代の技術によって築かれたもので、通称“オアシス”と呼ばれています」


ハキームが頷く。


「恐らく、その地下にこそ、原因があると思われます」


それを聞いたフェリスが、眉をひそめる。


「地下? 一度父上と共にザハールを訪れたことがあるけど……そんな話、聞いたことないわよ?」


「……それは、ザハールの中でも極めて限られた者だけが知る秘密なのです」


そう言うとハキームは、首から提げた小さな鍵を取り出した。金属でできた細長い鍵には、淡く魔力の光が宿っている。


「これが……その地下へ続く扉を開く“最後の鍵”です」


“最後”という言葉の意味に、誰も触れなかった。


セシリアが静かに要点をまとめる。


「つまり、オアシスの水が腐った原因は地下にある。そして、それは長らく秘密にされていた。ザハールを救うには、その場所へ向かうしかない……」


ハキームは、ただ深くうなずいた。


「はい……まさにその通りでございます……」


そして彼は、深く頭を垂れる。


「ルミナス様……どうか……どうかザハールを救ってはいただけないでしょうか……」


ルミナスは、そっとセシリアとフェリスの顔を見る。


「みんな、いいよね?」


セシリアは力強くうなずき、優しく答えた。


「ええ。どこまでも、お供します」


その隣で、フェリスも腕を組み、不敵な笑みを浮かべる。


「ふんっ!当然でしょ?行かないわけないじゃない!」


それを聞いたルミナスは、にこっと笑ってハキームに向き直る。


「ハキームさん。わかりました、そのお話、引き受けます!」


場に安堵の空気が流れ、早くもザハール行きの準備が始まろうとしていた――そのとき。


「ところで……バルゴさんとミーナは、どうしてここに?」


ルミナスの視線が二人に向けられると、バルゴが口を開きかける。


「お、話は済んだか? 今日来たのはな、女神様の──」


その言葉を、勢いよくミーナが遮った。


「ルミナス様専用の武器を持ってきたんですよぉ〜!!」


「……話の途中だったんだがな」と、むすっとするバルゴ。


「ま、そういうこった」


「ええー!? 私の専用武器!?ど、どんなの!?今ある!?」


ルミナスの目が輝く。ミーナは「ふふふ〜ん」と得意げに背中の布を手前に引き寄せ、丁寧に包みを解いて差し出した。


布をはらったその瞬間、ルミナスの瞳に映ったのは――


「こ、これって……!!」


宝石をそのまま細く削り出したかのような、美しい剣だった。

刃の中心には淡い光の脈が通い、ルミナスがそっと手を触れると、その光は彼女の鼓動に呼応して、静かに点滅しはじめる。


魔石の“心臓”が、持ち主の魔力に応えているように――。


「気づいたか?」


バルゴが得意げに笑い、解説を始める。


「そいつは、お前さんが倒したグブリンキングの魔石に、オルグ・フルネスの特性を組み合わせて鍛え上げた特別製の一本だ。“魔聖剣グレイス”って名前でな」


「王宮魔道士のグランツと、共同で作り上げた最高傑作だぜ」


続けてミーナが嬉しそうに補足する。


「ルミナス様、いつも武器が壊れるってお聞きしてたのでぇ〜、なんとなんと!この剣、魔力を込めると自己修復できちゃうんですぅ〜!!」


「な、なんですって……!?」


衝撃が走る。

(今まで武器の方が耐えきれなくて、結局いつも素手で戦ってたけど……もう、それに悩まされなくて済む!?)


バルゴはさらに続ける。


「しかもな、この剣は魔力を“溜める”ことができる。魔石に魔力を蓄積すれば、少ない出力でも剣自ら強化されていくんだ。」


ルミナスの瞳がさらにキラキラと輝く。


「つまり……アレクシアの首飾りと同じような性質もあるってこと!?

……要するに、これって“充電式の剣”ってことだよね!?」


まるで新作ゲームを手に入れた子どものように、ルミナスは国王に向かって両手を上げて叫んだ。


「試し斬りしてもいい!?王様!!今すぐっ!!」


国王は豪快に笑い、頷く。


「はっはっは。よろしいとも!すぐに裏手の訓練場を用意させましょうぞ!」


ルミナスの目がますます輝く。


こうして、一行は“魔聖剣グレイス”の初陣を試すべく、王宮の裏庭へと向かっていった。

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