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第三章 第11話:女騎士の気持ち

             ──あらすじ──


戦いが終わり、安堵と静けさが戻る中、

少女はある想いに気づいていく。

語られる胸の内と、交わされる温かな言葉。

戦場を越えて繋がる、絆のかたち。

フェリスを背負いながら、ルミナスは急ぎ足で湿地帯へ向かっていた。

その頃、戦場では最後の戦いが終わりに近づいていた。


──南東・エルディア湿地帯・中域


「アレクシア様! あのオルグの群れが最後です!」


セシリアは鋭い眼差しで前方を見据え、キッチンナイフを次々と投げ放つ。


──ヒュン! ──ヒュン! ──ヒュン! ──ヒュン!


「わかりましたわ!」


アレクシアは魔石の色を確認する。淡い水色の光──まだ魔力は残っている。


(魔石は……水色……! まだいけるっ!)


「我が血に眠りし獣よ、今こそ目を覚ませ――

《アニマ=ヴォルテ(獣魂狂戦)クス》!!」


詠唱と同時に、アレクシアの周囲に赤い稲妻が奔る。


「いきますわよ!!」


       ──ダンッ!!


アレクシアは二匹のオルグへ向かって一気に突撃する。


「グオオオ!!」


       ──ブォン!!


オルグの棍棒が唸りを上げて振り下ろされる。


──ドガンッ!!


だがアレクシアは、それを利用するように棍棒を足場にし、真っ直ぐに駆け抜ける。


「はぁぁああっ!!」


       ──ズパンッ!!!


赤雷と共に振るわれた一撃が、オルグの首を吹き飛ばす。そのまま肩を蹴って空中に跳躍し、二体目へと向かう。


「次ですわっ!!」


       ──ガッ!!


次のオルグが拳を振りかざす。だが──


「甘いですわっ!!」


アレクシアは身体を捻り、空中で五連撃を叩き込む。


──ブンッ! ──ブンッ! ──ブンッ! ──ブンッ! ──ブンッ!!


「ギィグァアァア!!!」


──そして。


     ──ザァンッ!!


その刹那、オルグの首が宙を舞い、アレクシアはしなやかに地面へと着地した。


──スタッ。


「はぁ……っ、はぁ……」


彼女は荒い息を吐きながら、狂戦士化を解除し、大剣を地面へ突き立てた。そして視線を横に向ける。


──ザクッ! ──ザクッ! ──ザクッ! ──ザクッ!


セシリアの放ったナイフが、別のオルグを斬り刻む。しかし回復が早く、傷は浅い。


「なるほど。この程度の攻撃では再生が間に合いますか……」


セシリアは静かにナイフを自分の周囲に浮かべ、魔力を集中させる。


「……《フォーカス・エッジ・リインフォース》」


無数のキッチンナイフが青白く光を帯びる。指先に力を込め、念を飛ばす。


「行きなさい」


──ヒュン! ──ヒュン! ──ヒュン! ──ヒュン!


──ドスッ! ──ドスッ! ──ドスッ! ──ドスッ!


鋭く刺さったナイフはオルグの体内に食い込むが、それでも倒し切れない。怒り狂ったオルグがセシリアへと迫る。


「グオオオッ!!」


──ドシンッ! ──ドシンッ! ──ドシンッ!


だがセシリアは背を向けて、ゆっくりと歩き出す。


「《フォーカス・エッジ・リ(魔力解放)ベレイト》」


──キュィィィィン……!!


ナイフが一斉に光を放ち、共鳴したその瞬間。


「グゴガ……!?」


──バゴオォォオンッ!!!


体内で暴走した魔力がナイフを中心に炸裂し、オルグの巨体は粉々に砕け散った。


セシリアは静かに歩を進め、アレクシアのもとへ向かう。


「アレクシア様、ご無事ですか?」


「え……えぇ……!」


(こ、この方……半端ないですわ……)


こうして、二人は長き戦いに終止符を打ち、部隊は勝利を収めた。


そして彼女たちは、ルミナスとフェリスの帰還を静かに待ち続ける――。


──約20分後。


アレクシアはそっと視線を落とし、不安げな声を漏らした。


「ルミナス様……大丈夫でしょうか。フェリスは……」


その言葉に、隣のセシリアが前を真っ直ぐと見据えたまま答える。


「アレクシア様。ルミナス様なら大丈夫です。必ずフェリスを連れて帰ると、そうおっしゃいました。だから、きっと、戻ってきます」


アレクシアはその言葉に静かにうなずき、胸に手を当てた。


そして、信じるように空を見上げた。


──そして。


遠く霧の向こうから、手を振る一つの影が現れる。


「おぉーーーいっ!!」


戦場に響くその声に、皆が振り返る。セシリアは静かに微笑みながら呟いた。


「──ルミナス様」


「セ、セシリア! ルミナス様ですわ!! 帰ってきましたわ!!」


アレクシアは目を潤ませながら、ルミナスの背に眠るフェリスの姿を見つける。


「……フェ…フェリス……!」


彼女は堪えきれず走り出し、ルミナスのもとへ駆け寄る。


「ルミナス様っ……! フェリスは……フェリスは大丈夫ですの……?」


ルミナスは疲れた顔ながら、微笑んで答える。


「うん。今は疲れて眠ってるだけ。魔馬車に乗せて、ゆっくり休ませてあげよう」


「……はいっ!」


アレクシアは笑顔で頷き、フェリスを優しく魔馬車に寝かせた。


その様子を静かに見守っていたセシリアが、ふとルミナスに歩み寄り、そっと抱き寄せる。


「……? セシリア?」


「ルミナス様……ご無理をなさってますね?」


その言葉に、ルミナスは照れ笑いを浮かべる。


「あ、あちゃー……バレた?」


「はい、バレバレです。どうかご安心ください。今はゆっくりお休みください。あとは私たちにお任せを」


「うん…セシリア……ありがと……少し……少しだけ……眠る……ね……」


そう呟いて、ルミナスはセシリアの胸の中でそっと眠りに落ちた。


「ル、ルミナス様!? セシリア!? ルミナス様は……また長期間眠ってしまうのですか!?」


アレクシアの慌てた声に、セシリアは首を横に振る。


「いえ、おそらく今回は軽度なものかと。大丈夫です」


アレクシアとセシリアは、ルミナスとフェリスを魔馬車に乗せ、湿地帯を後にした。


──魔馬車の中


「ん……」


やがて、フェリスがゆっくりと目を開ける。


「あれ……ここは……?」


「フェリス! 起きましたのね!?」


アレクシアが嬉しそうに顔を覗き込む。


「ア、アレクシア様……!? なぜここに……」


アレクシアは目を潤ませながら、状況を語る。


「レイヴォルクに連れ去られた後、ルミナス様があなたを助けに行ってくださいましたわ」


「そ、そうだ……! ルミナスは!?」


フェリスはハッとして起き上がる。


その声に応え、セシリアがそっと視線を落とす。


「こちらです」


セシリアの膝の上で静かに眠るルミナスの姿があった。


「ルミナスっ……!」


フェリスは彼女の手をそっと握る。


「ルミナス様は、おそらく魔力の使いすぎで、いまは休まれているのです」


セシリアは優しい声で語りかける。そして、少し表情を引き締めて問いかけた。


「フェリス。あなたが連れ去られた後、いったい何があったのですか?」


フェリスは眉間に皺を寄せながら、ゆっくりと語り始めた。


レイヴォルクに連れ去られた後、なんとか逃げ出したこと。

その先で、フルネス化したオルグ・フルネスと遭遇してしまったこと。

そして、ルミナスが現れ、命を救ってくれたこと――。


「オ……オルグ・フルネス……!? ですって……!?」


アレクシアが驚きの声を上げる。


「はい……私は、ただ逃げることしかできませんでした……」


「……なるほどですわね。今回の魔族の異常な動きは、それが原因かもしれませんわ」


フェリスは静かに頷く。


「でも……その時、ルミナスが……私を助けに来てくれて……」


フェリスはルミナスの寝顔を見つめ、少しだけ微笑む。


「不思議なのは、その後です。あの時私は、オルグ・フルネスに握り潰されて、地面に叩きつけられたはずなのに……傷ひとつなかったんです」


セシリアが頷き、静かに推測を語る。


「……なるほど。それで、すべてが繋がりました」


「おそらく瀕死のあなたを救うために、ルミナス様は膨大な魔力を消費する魔法を行使したのだと思われます。その反動で、今は眠っておられるのでしょう」


フェリスはルミナスの手を両手で包み込み、目を潤ませる。


「っ……私の……ために……」


セシリアは優しい声で、そっと語りかけた。


「大丈夫よ、フェリス。きっとルミナス様はすぐに目を覚ますわ。その時まで、そばにいてあげて」


「……うんっ……!」


──そして。


一同は王都へと戻り、王宮にて国王とレオナールへ事の顛末を報告。

その後、ルミナスたちはそれぞれの屋敷へと帰還したのだった。


──ルミナス邸


セシリアはルミナスを寝室まで運び、ベッドにそっと寝かせた。


「フェリス、客間を使わなくていいの?」


セシリアの問いに、フェリスは静かに首を横に振る。


「うん。ルミナスが起きるまで、ここにいるよ……」


「そう……」


──ガチャン……


セシリアが静かに部屋を後にすると、フェリスは一人、ルミナスの傍で座り込む。


「きっと、今ここにいられるのは……ルミナス、あなたのおかげ……だよね」


フェリスはルミナスの手を握り、人形のように眠る横顔を見つめる。


「私……あなたのことを……」


その言葉の続きを呑み込むように、フェリスはそっと目を閉じた。


──そして朝


──ルミナスの寝室にて


「……んん……」


眩しい朝の日差しに、ルミナスがゆっくりと目を覚ます。


(……ここ、私の家? そっか……セシリアが運んでくれたのか)


ぼんやりとした頭で、昨日の出来事を思い返す。


(湿地帯で……フェリスを助けたあと……そのまま眠っちゃったんだっけ)


(フェリス、大丈夫だったかな……あとで訓練場に顔出さなきゃ……)


そう考えながら、寝返りを打とうとした瞬間──


「……ん?」


何か、すぐ隣に温もりを感じる。


(……誰かいる?)


恐る恐る振り返ると、そこには見知った顔が。


「えっ!? うぇっ!?」


驚きの声を上げる。


「フェ……フェリスっ!?」


その声に、隣で眠っていたフェリスも目を覚ます。


「んあ……?」


「な、なんで私のベッドにフェリスが……!?」


フェリスはガバッと跳ね起きて、ベッドから飛び出した。


「ち、ちがっ……! これは違くてっ!!」


顔を真っ赤にし、手をぶんぶん振るフェリス。


「ち、違うって……?」


「あ、あなたが全然起きないから……その……私も眠くなっちゃって……つい……」


モジモジと手をいじり、目を逸らすフェリス。


そして、沈黙が流れた後、フェリスが口を開く。


「あ……あの……ルミナス……いえ……な、なんでもないわ……!」


ぷいっと顔を背けてしまうフェリスを見て、ルミナスはくすっと笑う。


「ふふっ」


「な、なによ……」


「ううん、フェリスが無事で本当によかった」


穏やかな笑顔が、フェリスをまっすぐに見つめる。


「──……!」


フェリスは目を丸くし、唇がかすかに震える。


(ああ……わかっちゃった……なんでルミナスが神に選ばれたのか)


(自分ではなく他者のために戦って、力の代償も恐れずに差し出す……こんなの……)


堪えきれなくなったフェリスは、ルミナスの前に跪き、頭を下げた。


「え……!? フェ、フェリス!?」


「ルミナス……今から言うことは、私の本当の気持ちだから……」


「……うん、聞くよ」


静かに耳を傾けるルミナス。


「私はあの時……死を悟ったの。ここで終わって、誰にも会えなくなるって……」


「でも……あなたが来て、私を救ってくれた」


「だけど、それが……悔しかった」


「また、あなたに助けられた自分が情けなかった。アレクシア様を守れず、あなたにまで負担をかけて……」


「でも……それ以上に後悔したことがあるの」


フェリスは静かに涙を流しながら続ける。


「もう……あなたに会えなくなるかもしれないって……」


「あなたと過ごす日々が楽しくて……訓練で言い合ったり、負けて悔しがったり……」


「全部、全部……本当に大切な時間だったの……!」


「でも、終わってしまうと思った時……怖かった」


「あなたの手の温かさに……私は救われたの」


「だから……これは、私の本当の気持ち……」


「ルミナス……助けてくれてありがとう。もう一度みんなと会わせてくれて、ありがとう……」


その言葉を聞いて、ルミナスはベッドを降り、フェリスを優しく抱きしめる。


「何度でも助けるよ。だって、誓ったでしょ?」


フェリスはギュッとルミナスを抱き返す。


「私たちは友達だって。友達がピンチなら、助けるのが当たり前だよ?」


「うっ……ぐ……ひっぐ……うんっ……!」


涙をこぼすフェリスの背を、ルミナスは優しく撫で続けた。


──数分後


フェリスはようやく落ち着き、涙を拭って立ち上がる。


「ごめんなさい……こんなみっともない姿……」


「ううん、いいんだよ。泣きたくなったら、いつでもおいで?」


その言葉に、フェリスは再び顔を赤らめる。


「い、いえ……もういいわ……恥ずかしいから……!」


すると、ルミナスがふざけた口調で話しかける。


「おぉ~よちよち~。ママの胸においで~」


「誰があんたのママよっ!!」


ツッコミを入れるフェリスに、ルミナスは満足げに笑う。


──コンッ コンッ


ドアをノックする音が聞こえた。


「どうぞー!」


扉の向こうから、セシリアが顔を覗かせる。


「ルミナス様。お目覚めになられたのですね」


「うん! 心配かけたね。もうバッチリだよ!」


セシリアは穏やかに微笑む。


「朝食の準備ができております」


ルミナスはフェリスに視線を向けて尋ねる。


「フェリスも一緒に朝ごはん食べていこうよ!」


すると、フェリスは頬を膨らませながらも、ニッと笑って答える。


「ふんっ! そうね。仕方ないから一緒に食べてあげるわっ!」


──こうして、ルミナス、セシリア、フェリスは仲良く朝食を囲んだ。


どこか穏やかで、あたたかな朝が、静かに始まった。

次回、第四章:砂漠の国

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