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第三章 第5話:女神と魔石

               ──あらすじ──


武器に魔力を込める訓練が続く中、

それぞれの課題に向き合いながら成長していく。

試行錯誤の末に辿り着いた新たな魔法の可能性と、

心を繋ぐひとつの首飾り。

小さな発見が、大きな未来を切り開くきっかけになる。

ルミナスはフェリスにある提案をする。

「フェリス、今度は私も一緒にサポートするから、もう一度やってみてくれる?」


訓練場にて、ルミナスは真剣なまなざしでフェリスに提案した。

彼女はフェリスが武器付与魔法を使う様子を黙って観察している。


「あなたのサポートなんて、必要ありません!」


フェリスは強い口調でそう言い放つと、詠唱を始め、剣に魔力を注ぎ込んだ。


しかし――


カタカタカタ……。


剣は不安定に震え、先ほどと同じように、魔力の流れが不安定になっている。


「なるほど、ね」


ルミナスは即座に原因を見抜くと、そっとフェリスに近づいた。


「いいかな? フェリス」


そう言いながら、彼女はフェリスの手を取り、しっかりと包み込む。


「……!? な、なにを……!」


「集中して……」


フェリスの魔力が乱れているのを感じたルミナスは、そっと呼吸を合わせるように魔力の流れを安定させる。


「この魔法はね、剣の“内側”に込めるんじゃなくて、“外側”を覆うように使う魔法なんだ。」


そう言いながら、彼女はフェリスの魔力を導き、剣の外側を覆うように調整する。


「剣に魔力を込めること自体は出来るけど、その分コントロールが難しいんだ」


その言葉にフェリスはハッとする。


(……今まで、コントロールができてなかったのは……)


「じゃあ……私は、間違っていたということ……?」


「いいや、間違いじゃないよ。今やっているのは“武器付与魔法”。フェリスがやっていたのは“武器強化魔法”なんだ。」


「付与より強化の方が、魔力の制御が難しいからね。上手くいかないのは当然なんだ」


フェリスは、めずらしく静かにルミナスの言葉を聞き入れる。


「じゃあ、私がやっていたのは……強化魔法だった……?」


「そう、ほら、見てごらん?」


ルミナスに促され視線を落とすと、フェリスの持つ剣はぴたりと安定し、魔法がしっかりと付与されていた。


「……!」


思わず口元が綻ぶフェリス。少しだけ、誇らしげに剣を眺めている。


「この感覚を忘れなければ、詠唱しなくても使いこなせるようになるよ。覚えておいてね。」


「うんっ……!」


素直に返事をしてしまい、フェリスはハッとして口元を押さえる。


「あ……!」


「べ、べべべ、別に! あんたに言われなくても、そのうち出来てたしっ!!」


「っていうか、いつまで手を握ってるつもり!? も、もう離しなさいよっ!」


フェリスは恥ずかしそうに手を振り払う。


「ごめんごめん!」


ルミナスは笑いながら一歩下がる。


「じゃあ、また何かあったら教えてね!」


「じ、自分でなんとかするから……結構よっ!」


そして去っていくルミナスの背中を見つめながら、フェリスはぽつりと呟いた。


「……」


「……ありがと……」


──一時間後


途中から合流してきたアレクシアが訓練に加わっていた。ルミナスは、彼女の“筋力強化魔法”の成果を見守る。


「この身に宿るは、創り手より授かりし器──今、解き放たれよ……《マギア・フォルティス》!」


アレクシアは大剣を構え、魔力を放出する体勢を維持したまま集中を続ける。


(詠唱から発動まではスムーズ……あとは、)


「……ぐぬぬ……!」


──カラン、カランッ!


五分間、気力で耐えたが、限界が来た。魔力が尽き、彼女はその場に尻餅をついた。


「ぷはっ……」


「アレクシア、なかなか良い感じだったよ!」


「ええ、でも……やはり問題は持久力ですわ」


この魔法は魔力の消費が激しく、魔力量がまだ少ないアレクシアにとっては五分が限界だった。


「そうだねぇ……。なにか、良い方法があれば……」


そう呟いたルミナスの顔に、ひとつの閃きが脳裏をよぎった。


「あ! もしかしたら……。アレクシア、ちょっと待ってて!」


そう言い残し、ルミナスは訓練場を飛び出し、王宮の保管庫へと向かった。


──王宮・保管庫


──バァン!


勢いよく扉を開けて入ってきたルミナスに、グランツが驚いた表情を向けた。


「グランツさん、いる!?」


「おや、ルミナス様。あれ?この時間は合同訓練では……?」


応じたのは王宮魔道士、グランツだった。


「あのね、グブリンの巣で見つけた魔石。あれの複製って、もう終わってる?」


「ああ、あれですね!もちろんですとも! 性能は若干劣りますが、同様の性質を持つ魔石が何個か複製できておりますぞ!」


「それって、一つもらえないかな?」


「ええ、喜んで! 今、研究室に保管してありますので少々お待ちを!」


──五分後。


「お待たせしました! こちらが複製された魔石でございます」


グランツはオーバルカットされた透明な魔石を手渡す。


「して、ルミナス様そちらの魔石を何に使うかお伺いしても?」


「もしかしてなんだけど、これ瘴気以外にも魔力を溜めておくことが出来るんじゃないかと思ったの。」


グランツはハッとして魔石の方を見る。


「な、なるほど!!瘴気を吸うことばかりに気を取られていましたが、瘴気もいわば魔力の一種。理論上は可能かもしれませんな……!」


そう言って、ルミナスは魔石をしっかり握りしめ、魔力を注ぎ込む。


──ピシッ……!


「……え?」


──パリンッ!!


魔石がひび割れ、粉々に砕けてしまった。


「わわっ! ごめんなさい、グランツさん! ちょっと込めすぎたかも……!」


「いえいえ、素晴らしい発見ですぞ! 割れたということは……魔力が溢れた証! つまり……」


二人は顔を見合わせて、同時に口を開く。


──魔力を、溜められるってことね……!ですぞ……!


にやりと笑い合うふたり。


「ルミナス様! 複製された魔石はまだございます。すぐに別のものを!」


そう言って、グランツは研究室へと急いで戻っていった。


──数分後。


「お待たせしました! 今度は、複製された中でも高品質なものを!」


差し出されたのは、トリリアンカットの美しい魔石だった。


「よし、今度は慎重にね……」


ルミナスは深く呼吸をして、ゆっくりと魔力を注ぎ込んでいく。


──キィィィン……


魔石が青白く光り始め、徐々に濃い藍色へと変化していく。


「できた……!」


「す、すごい……! 透明だった魔石が、濃い青に変わっておりますぞ!」


グランツは感嘆の声を上げながら眼鏡をかけ直す。


「ほんとだ……タンザナイトみたいで綺麗……」


ルミナスは魔石を見つめながら尋ねた。


「これって、アクセサリーみたいに首から下げたりできる?」


「ええ、もちろん! 宝石と同じ扱いですので、型にはめればすぐにご用意できます!」


「ありがとう、グランツさん! じゃあ、それでお願い!」


「かしこまりました!出来上がりましたら、 訓練場へお持ちしますぞ!」


──王宮・訓練演習場


訓練場に戻ったルミナスは、アレクシアに手を振る。


「お待たせ、アレクシア!」


「ルミナス様、一体どちらへ……?」


「まぁまぁ、それは後のお楽しみってことで!」


そう言って微笑むルミナス。アレクシアは首をかしげながらも、大人しく待つことにした。


──二十分後。


グランツが息を切らして現れた。


「ルミナス様! 出来ましたぞーっ!!」


「あら?グランツではありませんこと?」


アレクシアはグランツの声に気づく。


「これはこれは!アレクシア王女殿下!!」


駆け込んできたグランツが手にしていたのは、陽光を反射してきらめく首飾り。


「まぁ! なんて綺麗な……!」


アレクシアの目が輝いた。


「ふっふーん♪ アレクシア、これ、つけてみて!」


ルミナスは優しく首飾りをアレクシアの首にかけてあげる。


「アレクシア様、とてもお似合いですぞ!」


「うん、すごく似合ってるよ!」


「そ、そんなに言われると……恥ずかしいですわ……」


アレクシアは照れ笑いを浮かべる。


「それで、ルミナス様。この首飾りには、何か意味があるのですか?」


ルミナスはこくりと頷く。


「うん。実はね――この宝石、魔石なんだ」


「魔石、ですの?」


「うん。そして、その中には私の魔力を込めてあるの」


アレクシアは驚きながらも、魔石をじっと見つめた。


「つまり……これで、わたくしの魔力不足を補えるということですね?」


「おそらくね。ただ、どういう形で作用するかは、まだ確かめてないんだ」


「ならば、試してみましょう!」


アレクシアは深呼吸をし、大剣を構える。


「この身に宿るは、創り手より授かりし器──今、解き放たれよ……《マギア・フォルティス》!」


魔力がアレクシアの全身に巡ると、首飾りの魔石が淡く光り始めた。


「どう? アレクシア?」


「すごい……! ルミナス様、魔力が首飾りから流れ込んでくるのを感じますわ!」


「やったね!」


アレクシアは木製のダミー人形に向かって踏み込む。


──ダッ!!


(軽い……! まるで、大剣が自分の身体の一部みたい……!)


──シュンッ!!!


      ──ズバァァァッ!!!


ダミー人形は、一閃で真っ二つに切断された。


彼女の斬撃は、先ほどよりも鋭く、速く──そして力強かった。


魔法を解除しながらアレクシアはルミナスとグランツの元へと戻る。


「ルミナス様! グランツ! 本当にありがとうございますわ!」


「これで魔力切れの心配も少なくなりますな!」


しかし、ふとルミナスが首飾りの色に気づく。


「あれ? 魔石の色が少し薄くなってる……」


魔石は少し青が抜け、アクアマリンのような淡い色へと変化していた。


「本当ですわ。私はこの色も好きですけれど……」


グランツが顎に指を当て、真剣な表情で考察する。


「つまり……魔力を消費すると、魔石の色が戻るということですな」


「そうみたいだね。それなら、これを使って魔力訓練をしてみようか」


ルミナスはアレクシアに向き直って提案する。


「毎日魔石に魔力を注いで、濃い青色まで満たす。そしてその魔力を使って筋力強化魔法を使う。

これを繰り返して基礎魔力量を上げていければ、将来的にその魔石なしでも十分戦えるようになるはずだよ!」


「わかりましたわ! でも、ルミナス様からいただいたこの首飾りを外す気はありませんけどねっ!」


アレクシアはにっこり笑いながら、魔石に魔力を注ぎ始めた。


「ルミナス様、今後は瘴気を吸う魔石と、魔力を溜める魔石。この二種を複製するということでよろしいですね?」


「うん。どっちも今後の戦いで、絶対に役に立つはずだから」


そう言ってルミナスが頷くと、グランツは嬉しそうに研究室へと戻っていった。


──少し後、休憩中


ルミナスがセシリアの元へ戻ると、彼女はそっと呟いた。


「……首飾り、ですか……」


「うん。魔石をアクセサリーにして、魔力補助に使ったんだ」


セシリアは少し俯きながら、ぽつりと言った。


「……羨ましいですね」


その小さな声を、ルミナスは聞き逃さなかった。


「……! セシリアも、欲しいならグランツさんに頼もうか?」


「あ……い、いえ! 私にはもったいないです……」


セシリアは貴重な魔石を自分のために使うことに、ためらいがあるようだった。


ルミナスはそんな彼女を見つめ、ふっと微笑む。


「じゃあさ、今度一緒に中心街に行って、おそろいのアクセサリー買おうよ。魔石じゃなくてもいい、特別なやつ!」


セシリアは驚いたあと、ゆっくりと笑顔を浮かべる。


「ふふっ……それなら、いいですね」


「じゃあ、決まり!」


こうしてルミナスはセシリアと“おそろい”の約束を交わした。


訓練は順調に進み、次のステージへと向かっていく。

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