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第三章 第3話:勝利のための一歩。

               ──あらすじ──


王都での合同訓練が本格的に始まり、

ルミナスは指導者として参加者たちの武器の適性を見極めていく。

模擬戦を通して一人ひとりに合わせたアドバイスを送り、

戦力強化を目指すルミナス。仲間たちとの交流が深まり、

新たな一歩が踏み出されていく中、

小さな誤解と心の距離にも少しずつ変化が生まれ始める──。

訓練初日。ようやく本格的な鍛錬が始まろうとしていた。


「さて、と。ようやく始められるね!」


陽光差し込む訓練場に、ルミナスの声が響く。

その周囲には、王国民間討伐組合の組合員たちと騎士団員、

そして第一皇女アレクシアの姿があった。


「まずは武器の話から始めようか。みんなが使ってる武器って、どんなのかな? 私はこういう直剣が得意なんだけど……」


そう言ってルミナスは手に持った訓練用の木剣を軽く掲げて見せる。

少し考え込んだ後、彼女は提案を口にした。


「うん、それじゃあまずは武器の種類ごとに分かれてみよう。直剣、短剣、大剣、斧、槌、弓──持っている武器の系統で動いてもらっていいかな?」


ルミナスの指示に従い、訓練場ではさっそく武器ごとのグループ分けが進んだ。

各自が自分の得意武器を手にし、

整然と並ぶ様子は、まるで小さな軍隊のようだった。


「よし、分かれたね。今日の訓練ではまず、みんなの“武器適性”を見ていこうと思うの。だからこれから順番に、私と模擬戦をしてもらいます!」


にっこりと笑うルミナスの宣言に、場がざわめく。


「ま、マジか……!?」「実力を見てもらえるチャンスだ!」

「ルミナス様と一対一!? ちょっとお腹痛くなってきた……」


──そんな声があちこちから飛び交う中、最初の模擬戦が始まった。


前に出てきたのは、二本の短剣──ダガーを持つ若い組合員だった。


「ル、ルミナス様!よろしくお願いします!」


緊張した面持ちで礼を述べた彼に、ルミナスも微笑みを返す。


「よろしくね。じゃあ、準備できたらどうぞ!」


「それでは──始め!」


セシリアの合図と共に、訓練の幕が上がった。


──ダッ!


組合員が勢いよく踏み込み、素早くダガーを振るう。


──スカッ! 

──スカッ! 

──スカッ!


しかし──


「え?」


連撃はすべて空を斬り、ルミナスには一度も届かなかった。

短剣のリーチがあまりにも短く、距離を詰める前に間合いを制されてしまう。


「ちょっと待った!」


ルミナスは手を上げて試合を中断する。


「多分、その武器は君には少し短すぎるかも。軽さはいいけど、間合いを詰めるのが難しいね」


「そ、そうなんですか? 軽くて使いやすいと思ったんですけど……」


「うん、じゃあ試しにこれを使ってみて」


そう言ってルミナスは訓練用の木剣の中から、

短めのショートソードを一本ずつ選び、手渡した。


「これなら間合いも少し長くなるし、重さも極端には変わらないから扱いやすいと思うよ」


「な、なるほど!ありがとうございます!」


「あと、さっきのダガーだけど──」


ルミナスは組合員が持っていたダガーをひょいと取り上げ、近くの木の的に向けて投げる。


──ヒュンッ!!


     ──ドスッ!!


「こうやって牽制用に投げることもできるから、捨てるにはもったいない。うまく使えば、立ち回りに幅が出るからね!」


「な、なるほど…!参考になります!!」


そして模擬戦は再開された。今度はショートソードを手にした組合員が再び踏み込む。


──ダダッ!!


──カンッ! 

──カカッ! 

──コンッ! 

──カッ!


鋭く、的確な連撃。それをルミナスは木剣で受け、時には弾きながら動きを見極める。


「そこまで!」


セシリアが終了の合図を出す。


「はぁ、はぁ……ルミナス様、ありがとうございました!」


「うん、攻撃がしっかり当たるようになったね。その調子で頑張って!」


ルミナスはそう言って笑顔で頷いた。


次の模擬戦の相手は、大きな盾とレイピアを装備した騎士団員だった。


「ルミナス様!よろしくお願いします!」


「よろしくね!」


互いに礼を交わし、模擬戦が始まる。


──静寂。


両者とも、すぐには動かなかった。


(なるほど、待ち構えるタイプか……)


──ダッ!!


ルミナスが素早く突っ込む。


──ズワッ!!


    ──ゴインッ!!


剣は盾に阻まれる。しかし騎士団員は即座にレイピアで反撃。


──シュッ!!


細身の剣が鋭く突き出されるが、ルミナスは剣で受け止めると素早く左側に回り込む。


──ガキンッ!!


だが相手は盾を巧みに扱い、即座に身体を守った。


(なるほど、攻防の切り替えが上手い)


再びレイピアの一撃が繰り出されるが──


「それはもう見たよ!」


ルミナスはタイミングを読み、体をひねって回避。そのまま相手の手を的確に叩く。


──バシッ!!


    ──カラン、カランッ……


「くっ……!」


「そこまで!」


セシリアが試合を止める。


「いやぁ、なかなか面白い戦術だったよ。でも、どうして槍じゃなくてレイピアなんだろう?」


「はい、槍の方がリーチはありますが、その分重さもあって、素早く動けなくなるんです。自分の体格に合わせて、軽いレイピアを選びました」


「なるほどね。あなたには確かにその組み合わせが合ってる。でも、大きな盾って攻防だけじゃなくて、突進や打撃にも使えるんだよね。ただ守るだけじゃもったいないかな。」


「なるほど……!その手があったか!」


ルミナスの言葉に、騎士団員は目を輝かせて頷いた。


その後も模擬戦は続き、ルミナスは参加者一人一人と対話しながら、その適性や戦術の幅を広げていった。


──そして数時間後。


「おいみんな!次はアレクシア皇女とルミナス様の模擬戦だぞ!!」


訓練場の一角にざわめきが走る。


ルミナスが汗をぬぐいながら深呼吸していると、

訓練場の中央にひときわ意気込んだ少女が現れた。

アレクシア皇女──いや、今は訓練生としての彼女が、

胸を張ってルミナスの前に立つ。


「ルミナス様! やっと順番が回ってきましたわ!」


フフンと自信満々に微笑む彼女に、ルミナスも嬉しそうに微笑み返す。


「さて、それじゃあアレクシアがどこまで戦えるか……どこからでもかかってきて!」


セシリアが手を上げ、合図を送った。


「それでは──始め!」


──ダッ!


アレクシアが勢いよく駆け出す。だが、まっすぐに突っ込むかと思いきや、直前で足を横に踏み込み、鋭くサイドステップ。そのままルミナスの側面へと回り込む。


「もらいましたわっ!」


──ブォンッ!


軽やかな回転と共に、鋭い斬撃を繰り出す。


「フェイント! やるね、アレクシア!」


ルミナスは刃先スレスレで跳躍し、攻撃をかわす。二人の間合いが開き、しばし静寂が流れる。


「じゃあこういうのはどうかな……?」


今度はルミナスが動く。アレクシアに向かって一直線に突進。


──ダッ!


(こちらに向かってきましたわ! ならば──)


アレクシアはルミナスが間合いに入った瞬間を見計らい、斬り込もうとする。


──カァンッ!!

     ──ガガガガガガッ!!!


ルミナスは両手で木剣を縦に構え、アレクシアの斬撃を正面から受け止める。そして、剣を滑らせながらそのまま懐に飛び込んだ。


(くっ……! 体勢が……っ!!)


──ヒュンッ!


ルミナスの足がアレクシアの足元を払う。体勢を崩したアレクシアが倒れかけた瞬間、ルミナスは手で彼女の後頭部を支え、木剣を首元にそっと添える。


「──一本。」


「ま、参りましたわ……!」


ルミナスは笑顔で手を差し出し、アレクシアをゆっくりと立ち上がらせた。


「ナイスファイト! アレクシア!」


「流石ですわ、ルミナス様……」


ふう、と小さく息をついた後、ルミナスはふと問いかける。


「ねえ、アレクシアって、もしかして前は大剣を使ってた?」


「な、なぜそのことを!? それは、内緒にしておりましたのに……」


「だって、わかるよ。剣を振るときの重心のかけ方。腕だけじゃなくて、体全体で剣を振ってたでしょ? あれは大剣使い特有の動きだよ」


「お見通しですわね……確かに以前は大剣を使っていましたが、重くて扱いきれず、今は軽い直剣に変えましたの」


ルミナスはアレクシアの小柄な体と、それでも滲む鍛錬の成果を見つめ、ふと思いついたように手を打つ。


「うーん……あ、そうだ! それならこんなのはどうかな?」


手を前に掲げ、詠唱を口にする。


(この世界風に詠唱するとこんな感じかな……?)


「この身に宿るは、創り手より授かりし器──今、解き放たれよ……《マギア・フォルティス》!」


詠唱が終わると同時に、ルミナスの体から青白い光が迸り、筋肉に力が宿ったように輝き始める。そして、近くに置かれた訓練用のジャイアントハンマーを片手で軽々と持ち上げてみせた。


「これなら、アレクシアでも大剣を扱えそうじゃない?」


「す、すごいですわ……!! それなら、わたくしでも──!」


アレクシアの顔に笑顔が咲いた。嬉しさを隠しきれず、頬を赤らめながら声を弾ませる。


「これが使えれば、また大剣で戦えますわ!!」


「うん。ただしね、これは魔力を消費する呪文だから、使い続けるには魔力の総量を増やす必要がある。だけど、アレクシアならきっとできる。訓練を続ければ、きっと誰よりも強くなれるよ」


(多分──この場の誰よりも、ね)


ルミナスはそう思いながら、未来の女騎士に微笑みを向けた。


訓練を終えた頃、ルミナスのお腹は限界を迎えつつあった。


──ぐうぅぅぅぅ~……


「……あ~……お腹へったぁ……」


思わず情けない声が漏れると、すぐ横にいたセシリアが穏やかに声をかける。


「ルミナス様、食堂にて昼食がご用意されているそうですよ」


「ほんと!? 行こう行こう!!」


目を輝かせたルミナスは、一気に元気を取り戻し、訓練場に残るレオナールたちへ休憩を取るよう声をかける。一方、アレクシアは国王と共に昼食をとるため、ここで別れることになった。


訓練は一時中断。昼休憩の時間となり、ルミナスとセシリアは食堂へと向かう。


途中、人気のない通路を通りかかると、視界の端にぽつんと座る小さな人影が見えた。


「あれは……」


膝を抱えて静かに座るフェリスの姿だった。髪は乱れ、肩はかすかに震えている。


「まさか……何時間もここにいたの……!?」


ルミナスは歩み寄り、優しく声をかける。


「フェリスさん……?」


呼びかけに、フェリスの肩がビクリと震える。しかし彼女は顔を上げることなく、か細い声で答えた。


「な、何よ……ほっといてよ……」


その背中に、ルミナスはそっと言葉を重ねる。


「放っておけないよ。だって──私に勝つんでしょ?」


その言葉に、フェリスは顔を伏せたまま、ぷいとそっぽを向いて答えた。


「ふ、ふん! 当たり前でしょっ!」


だが、ルミナスが微笑んで続ける。


「それに……決闘で友だちになるって、約束したでしょ?」


その一言に、フェリスの肩がピクリと動く。思い出したように顔を赤く染め、小さく呟く。


「くっ……なんで勝った時の賭けが、友だちなのよ……!」


ルミナスは静かに手を差し出した。


「ね、これから昼食を食べに行くんだ。一緒に行こうよ」


フェリスはその手を見つめたまま、しばらく黙り込む。


「……」


ゆっくりと、伸ばしかけた手。しかし──


──ベシッ!


「ふ、ふん! 一人で立てるわよ!!」


顔を真っ赤に染めたフェリスは、差し伸べられた手を払いのけ、自力で立ち上がる。


そしてくるりと背を向けると、食堂の方へ歩き始めた。


「……あらら、断られちゃった」


「なかなか素直になれない方のようですね」


ルミナスは苦笑しつつ、肩をすくめた。


だが、数歩先を歩くフェリスがぴたりと足を止め、ツンとした声を投げかける。


「は、早く来なさいよっ!!」


「……なんだ、やっぱり一緒に行きたかったんじゃん」


ニコっと笑うルミナス。その横で、セシリアも柔らかく微笑む。


「う、うるさいっ!!」


照れ隠しをするように、フェリスは前を向いたまま早足で歩いていく。


こうして三人は連れ立って食堂へ向かい、ようやくの昼食を共に取るのだった。


食堂ではにぎやかな声が飛び交い、温かな香りが食欲をそそっていた。


「……あ、そうだ。友達なんだから“さん付け”って堅苦しいよね」


「──フェリスは、何食べるの?」


何気ない一言に、フェリスは驚いたように顔を上げる。そしてすぐに顔を真っ赤に染め、睨みつけるように言い返す。


「な、なんなの!? いきなり呼び捨てにするなんて、距離感おかしいでしょっ!?」


「え~、ダメなの~??」


ルミナスは悪びれる様子もなく笑って見せる。その様子に、フェリスは言葉に詰まり、小さく俯いた。


「くっ……す、好きにすればっ……!」


口調は素っ気なかったが、その頬には確かな赤みが差していた。


こうしてルミナスとフェリスは、少しだけ──ほんの少しだけ、距離を縮めることができたのだった。

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