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第三章 第1話:訓練初日は決闘と共に。

              ──あらすじ──


王国の未来を託されたルミナスは、自らの経験と知識を活かし、

騎士団と討伐組合の強化に乗り出す。

だが、訓練場に集った人々の中には、思わぬ火種も混じっていた──。

──次の日の早朝。

朝食を済ませたルミナスとセシリアは、外出の支度を整えていた。


「そういえばこのままで帰ってきちゃったけど……服、ボロボロだったから捨てられちゃったんだよね……」


鏡の前で白いワンピース姿の自分を見ながら、ルミナスは小さく唸る。


「そちらのワンピースも可愛らしくて、よくお似合いですよ?」


セシリアは微笑みながら、少し首を傾げて言った。


「ま、まぁ可愛いからいいんだけどさぁ~……でもほら、どうせなら“冒険者!”って感じの服を着たいんだよね~」


ルミナスは両手を腰に当てて、得意げに言う。


「冒険者……ですか。組合員の方々が着ているような装いのことですね?」


「そう!それ!!」


ルミナスの目がきらきらと輝く。


「いいよねぇ~……鎧に小手にレザーブーツ、マントにポンチョ……!」


夢見心地で語るルミナスに、セシリアは少し目を細めた。


「ですが、ドレスや白衣の方が、ルミナス様の神々しいお姿には似合っているかと存じますが……」


「う〜ん……」


──結局、時間が迫り、とりあえずそのままのワンピース姿で、

二人は農場へと向かうことになった。


──王都・共同耕作地


6日ぶりに訪れた農場には、すでに多くの農民たちが集まっていた。

久々のルミナスの姿に、心配と感謝の声が交錯する。


「ルミナス様ぁぁ!お身体は大丈夫でございますか!?」


「本当に……ご無事で……」


人々のあたたかな声に包まれながら、グランツが涙を浮かべながら駆け寄ってきた。


「ルミナス様!よくぞ!よくぞご無事で!!このグランツ、肝を冷やしましたぞ!!」


グランツは、ルミナスが倒れた後も、崩壊したグブリンの巣や農場の瘴気の調査を続けていたという。


「心配かけました。でも、もう大丈夫!!元気いっぱいです!!」


そう言って笑うルミナスに、グランツは思い出したように懐から小さな物を取り出す。


「あ!そうそう、こちら。あのグブリンの巣で回収された瘴気を吸っていた魔石でございます」


ルミナスはそれを見て、はっと声を上げた。


「それ!!グブリンキングに付いてたやつだ!!グランツさん、どうしてそれを?」


「わたくし、魔石鑑定士の資格も持っておりまして、王宮にてこの魔石の性質を調べておりました」


「最初は瘴気を帯びているのでは、と疑っておりましたが──」


グランツは魔石を掲げ、顔を真剣にして語る。


「空っぽ。もぬけの殻でございました」


「確か、ザリオスがそれに瘴気を詰め込んだって言ってたような……」


その一言に、グランツの顔がぱっと輝く。


「!!そ、それです!!ルミナス様!!」


「う、うお……近い……!!」


思わず後ずさるルミナスを、セシリアが軽く制止する。


「グランツ様。落ち着いてください」


「こりゃ失敬! ですが!これはとんでもない発見なのです!この魔石……瘴気だけを吸収する特性があるとすれば──!」


グランツは鼻息を荒くし、身振り手振りで語る。


「これを解析・複製し、各所に配置すれば──」


「どこでも菜園が出来る……!?」


「そうですぞ!!これは革命であります!!このグランツ、この魔石をもって革命を起こしてまいりますぞおおぉぉぉ!!!」


叫びながら王宮方面へと走り去るグランツ。


「あはは……相変わらず元気な人だな」


ルミナスが苦笑する傍らで、セシリアが静かに耳打ちする。


「ルミナス様……そろそろお時間です」


「あっ、そうだった!《セイクリッド・シャワー》!」


白く淡い光を帯びた清浄な雨が、畑一面に降り注ぐ。

土はしっとりと潤い、作物たちが生き生きと葉を揺らした。


「よし、水やり完了っ!」


満足げに頷くと、ルミナスはスカートの裾をひらりと翻し、セシリアとともに王宮の訓練演習場へと足早に向かった。


──王宮・訓練演習場


すでに演習場には、討伐組合の面々と騎士団が揃っていた。


討伐組合員たちはやや自由な雰囲気で談笑している一方、騎士団員たちは整然と整列し、凛とした空気を保っている。


その中に、レオナールとリゼットの姿もあった。


「これは、セシリア殿。お一人ですか?」


レオナールが声をかける。隣にはリゼットもいた。

二人は組合の代表として参加していた。


「あれ? ルミナス様はまだいらっしゃらないのですか?」


「はい。今、訓練用の木剣を探しに倉庫へ向かわれました」


──王宮・訓練場、武具倉庫


訓練開始の準備のため、ルミナスは倉庫を訪れていた。


「セシリアを先に行かせなきゃよかったな……どれ使ったらいいんだ…?」


倉庫内にはさまざまな武器や防具が整然と並び、まるで展示室のような光景が広がっている。


「お、めっちゃキレイなレイピア……あ、これは騎士団の鎧かぁ。へぇ〜……」


物珍しそうに棚を見て回るルミナス。彼女の瞳は興味津々でキラキラと輝いている。

そして奥に進み、あるものに気がついたルミナスは思わず叫んだ。


「……ん? こ、これは……!!」


──王宮・訓練演習場


ルミナスを待つ一同。


「ルミナス様なかなか来ませんね…」


リゼットが話す隣でレオナールが口を開いた。


「確かこの後、ルミナス様からの挨拶があると聞いていますよ。」


「はい、レオナール様のおっしゃるとおり、この後ルミナス様からのご挨拶が──」


と、そこへ──


──バァン!!


勢いよく開かれた扉の奥から、ルミナスが颯爽と登場した。


「みんな、おっはよー!!」


その姿を目にした瞬間、場が静まり返った。


「ル、ルミナス様……!? その格好は……!? 一体……!」


ルミナスの装いは、上半身は金属の装飾があしらわれた軽鎧。

下は深紅のミニスカートに黒のガーターストッキング、そしてロングブーツ。頭には真紅のリボンを飾り、どこか祭礼の巫女のような神秘性も感じさせた。


驚愕するレオナールの横で、リゼットのメガネが怪しく光る。


「なるほど……これは、騎士団と組合員の戦闘服を掛け合わせたハイブリッドスタイル。

そして……ふむ、ミニスカートから覗くガーターが少女という枠を超え、“戦う女神”としての凛々しさを──良い!!」


「リ、リゼット……?」


そんな彼女を見て、セシリアが顔を引きつらせながら駆け寄る。


「ルミナス様っ! だ、ダメです! こんな短いスカートなど……っ! 一体、どこにこんな服が……!」


「え? 倉庫に置いてあったよ?」


すると、列の中にいた騎士団の一人が突然、震えだした。


(ま、まさか……ルミナス様が着たら似合いそうな服を……こっそり倉庫に置いたのに……まさかご本人が本当に着てくれるとは……!!)


「──尊い……!」


──ガシャンッ!


その騎士団員は、感情が高ぶりすぎて耐え切れず、その場に崩れ落ちた。


「お、おい! しっかりしろ!!」


「気持ちはわかるが、ここは耐えるんだ!!」


「傷は浅いぞ! まだ助かる!!」


周囲の騎士団員たちが慌てて駆け寄るなか、セシリアは深いため息をつき、ルミナスを更衣室へと促した。


「……ルミナス様、こちらへ」


そして、彼女のミニスカートをホットパンツへと素早く着替えさせた。


「……あまり変わりませんが、あれでは集中できる者も集中できませんので……」


「そ、そう……?」


その後、ルミナスは改めて訓練台の上に立ち、静まり返る演習場を見渡す。


そして、凛とした声で言った。


「みんな、おはよう! これから私の知っている戦闘技術を、できる限り教えていくよ! 魔族や魔獣に勝てるように、全員で強くなろう! そして──最終的には、私に一撃でも与えられるように、頑張って!」


その言葉に、討伐組合員と騎士団たちが一斉にざわめき出す。


「マジか……ルミナス様に、一撃って……」


「やれるのか……」「逆に一撃で倒されそうだ……」


その中で、ひときわ鋭い視線がルミナスに向けられていた。


ある騎士団員が、歯噛みするように名を呟く。


「──ルミナス・デイヴァイン……!」


その眼差しに込められたのは、ただの憧れや敬意ではない。

過去に何か因縁を持つ者だけが宿す、決意と嫉妬の入り混じった色だった──


「ルミナス・デイヴァイン!!」


鋭い声が空気を裂き、場に緊張が走る。

その声と共に、ひとりの少女が勢いよく前に出てきた。


コーラルピンク色のミディアムヘアが陽光を弾き、エメラルドのように澄んだ緑の瞳がルミナスを真っ直ぐに射抜く。

訓練用の軽装鎧を纏ったその少女は、ただならぬ気迫を身にまとい、一直線にルミナスの前へと立ちはだかった。


「私は、ヴァルグレイス家の次女──フェリス・ヴァルグレイス。ルミナス・デイヴァイン! 貴様に決闘を申し込む!!」


彼女は手にした手袋を勢いよく地面へと投げつける。

その動作に周囲の空気が張り詰め、騎士団員や組合員たちがざわついた。


「ほぇ……?」


突然の展開に、ルミナスは呆けた顔で間の抜けた声を漏らす。

その隣で、レオナールがそっと耳打ちした。


「……ヴァルグレイス家は、剣士の名門でして。かつての英雄、人類神アルヴィリス様に認められることを家訓とし、代々剣の鍛錬に心血を注いでいる家柄なのです。彼女は、その家の次女にして若きエースだと……」


「え、でも……私、恨まれるようなことしたっけ……?」


戸惑いを隠しきれないルミナスに、フェリスは言葉を続けた。


「私は……! 神アルヴィリス様に認めていただくため、ずっと剣の修行に励んできました! 血の滲むような努力を、毎日、何年も……!」


拳を握り、唇を噛みながら叫ぶように言葉を吐く。


「なのに……! どうして私じゃないのですか!? なぜ、私ではなく、あなたが選ばれたのですか……!!」


「い、いやぁ〜……そう言われても……」


困惑した笑みを浮かべるルミナス。だがその横で、セシリアが一歩前に出る。


「では、その努力の全てを……ルミナス様にぶつけてごらんなさい」


「──セシリア!?」


驚くルミナスをよそに、セシリアは毅然とした口調で続ける。


「きっと、その答えがわかります。なぜあなたが選ばれなかったのか。そして、なぜルミナス様がこの地に降り立ったのかを……」


「ふっ……いい訓練になります。ルミナス様、ここは一つ」


「やれやれ……」

ルミナスは苦笑を浮かべながらも、観念したように頷いた。


「……わかったよ。受けて立ちます。」


フェリスは剣を構え、ルールを告げる。


「ふんっ! それでは決闘の条件はこうです。一対一、真剣勝負! 武器を落とすか、降参、または気絶した時点で決着とする!」


「えっと……私はこの木剣でお願いできるかな? 真剣だと、大怪我させちゃったら大変だし……」


その一言が、フェリスの怒りに火をつけた。


「っ……!! な、なんですって!? 私のこと、馬鹿にしてるの!? 本気で戦わなきゃ、後悔することになりますよ!!」


顔を真っ赤にしてルミナスを睨みつけるフェリスに、セシリアが再び進み出て、両者の間に立った。


「それでは両者、向かい合って。──決闘に際し、何を賭け、何を望むのかを宣言してください」


フェリスが鋭く言い放つ。


「私が勝った暁には、ルミナス・デイヴァイン! この場から、いえ──この王都から消え去りなさい!

そして私が負けたら……ふんっ、あなたの下僕でも何でもなってあげるわ!」


ルミナスは戸惑いながらセシリアの方へ顔を向けた。


「え、これって……言わなきゃダメなの……?」


「ええ、一応しきたりですので」


「はぁ……わかったよ」


ルミナスは小さくため息をつくと、静かに宣言した。


「じゃあ、私が勝ったら──お友達になってよ。……で、私が負けたら、その条件を飲みます」


「……お友達に!?」


フェリスは顔を更に真っ赤にし、怒気を孕んだ瞳でルミナスを睨んだ。


「あなた、どこまで私を馬鹿にするのよっ!!」


セシリアは静かに手を上げ、空気を切るように言い放つ。


「それでは──決闘を開始します!」


「──始めっ!!」


その瞬間、訓練場の空気が一変した。

少女たちの戦いが、今ここに始まろうとしていた──

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