第一章 第1話:滅亡する世界に光あれ。
――あらすじ――
それは神殿から始まった。
突如、光と共に現れた謎の少女。神々しい力を纏い、
現れた瞬間に魔族の軍勢を圧倒するその姿に、人々は畏れと希望を抱く。
彼女は何者なのか。なぜこの世界に現れたのか――答えはまだ語られない。
ただ一つ言えるのは、この異世界の“常識”は、少女の登場によって音を立てて崩れ始めたということだ。
——神聖歴六六〇年 エルディナ王国「封神殿:鎖の門前」
東の砦から、腹の底を震わせるような不吉な轟音が響き渡った。
「ドォォ……ン」
「……今の、聞こえたか?」
警備兵の一人が顔をこわばらせて問いかける。
「ああ……間違いない、東の砦の方角だ」
もう一人が唾を飲み込む。その目は明らかな恐怖に染まっていた。
「……もうここまで来ちまったのか……」
神殿の前。数百年の時を越えても一度も開かなかった“封神殿”の鎖を見上げながら、二人の兵は沈黙に包まれる。
「俺たちも……ただ、食われるだけかもな……」
諦めたように腰を下ろしたその瞬間——
カタカタカタ……
「っ!?」
鎖が微かに揺れ始める。鋼の軋む音が、次第に高まり、やがて激しい震動へと変わる。
「おい……おい……まさか……!」
兵たちが慌てて距離を取った刹那——
「バァンッッ!!」
雷鳴のような金属音とともに、封印の鎖が弾け飛び、神殿の扉がゆっくりと、だが確かに開いていく。
吹き込む風が砂埃を巻き上げ、その奥に、静かに立つ一人の少女の影が現れた。
白銀の長髪、滑らかな白肌。神秘を纏ったその姿に、兵士たちは言葉を失った。
「……っ、誰か……いる……!」
ゆっくりと開かれた瞼。夜空の星を映したような光を湛える瞳が、静かに戦場を見据える。
「……女神……?」
呟いたその瞬間、少女は風のような速さで走り出した。裸足のまま、荒れた大地を踏みしめ、東の砦へ。
*
戦場は、魔族の咆哮と人間の悲鳴が交差する地獄と化していた。
少女の前に立ちはだかったのは、緑褐色の肌に湾曲した爪、獰猛な牙を持つ魔族たち。人間の神話に出てくる“ゴブリン”によく似ていたが、その身体は人間の数倍の筋力を誇り、鉱石の混ざった皮膚は矢も通さぬほど硬い。
——が。
少女は、怯むことなく突っ込んでいった。
拳が唸りを上げて振り抜かれる。魔族の頭蓋が砕け、返す掌底で二体を吹き飛ばす。蹴り上げた脚が、跳躍の勢いのまま魔族の首を捻じ切った。
——武器?そんなものは不要だった。
だが、倒れた魔族の傍らに転がっていた一本の剣に、彼女の目が止まる。
黒く錆びた、大振りな大剣。それは、まるでRPGゲームによく登場する“グレートソード”を思わせるフォルムだった。
少女はそれを片手で持ち上げると、まるで玩具のように軽々と振るい、一振りで三体の魔族を薙ぎ払った。
その後も、武器を次々に拾い替えながら暴れ回る。太い戦斧、片刃の鉈、大鎌。まるで武器が踊っているかのような圧倒的な流麗さ。
やがて戦場に、新たな魔族が現れる。
真紅の紋章を体に刻み、雷光を帯びた魔法を詠唱する中位の魔族、“雷紋のデュラス”。
彼が放った雷撃魔法を、少女は身体を滑らせるように回避。指先に青白い魔力を込めて呟く。
「返すよ」
——《ソウル・スナイプ》
青白い閃光が、デュラスの額に正確に突き刺さり、その巨体が崩れ落ちた。
だが、次の瞬間、異様な気配が少女の足を止める。
「……いた」
戦場の奥に、漆黒の鎧を纏った存在がいた。魔族の王——魔王。
その存在感は別格だった。まるで周囲の空間すら屈服しているかのような圧倒的な“支配”。
少女は、ゆっくりと彼の前に立ち止まる。
「オマエハ……何者ダ?」
重々しい声。魔王の問いに、少女は静かに笑って答えた。
「神様の知り合いだよ」
次の瞬間——
大剣が空を裂いた。
魔王の身体が、まるで紙のように斬り裂かれ、何の抵抗もなく崩れ落ちた。
*
戦場に、ようやく静寂が訪れる。
やがて、それを破るように兵士たちの歓声が響き渡った。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
「女神だぁぁ!!」
「神の御使い様だ!!」
「なんと……なんとお美しい……!!」
だが少女は歓声には応えず、ただ空を見上げた。
雲間に一瞬だけ、巨大な『目』が現れ、彼女をじっと見つめていた。
(……見てるの?)
それは何かを確認するように一瞥をくれた後、ゆっくりと消えた。
兵士たちが震える中、一人の騎士が駆け寄ってきて、膝をついた。
「お、お美しい御使様! ぜひ、我がエルディナ王国の王宮にて、国王陛下との謁見を——!」
*
——王宮、謁見の間。
「ほう、そなたが神殿の封印を解いたという少女か。これはまた……なんと神々しい……」
老王は玉座の上から、まるで聖像を見るような目で少女を見つめた。
「このたびは、我が王都を救ってくれたこと、まことに感謝の言葉も尽きぬ。望みがあれば申してみよ。できる限りの褒美を——」
少女は、ほんの少しだけ顔をしかめ、ぼそりと呟いた。
「……へった……」
「……なんと?」
「お腹、へった……」
……兵士も貴族も王も、時が止まったように目を丸くした。
神殿から現れ、魔王を討ち倒した神秘の少女——
その少女が今、素直に告げたのは、
“空腹”だった。
その瞬間、彼女はただの「神」ではなく、紛れもなく「少女」だった。
——彼女の名は、ルミナス・デイヴァイン。
この日より、世界は大きく動き始める。
初見です。
どうも、小説版です。(ニバンです)
いつもは動画作ったり配信したりしてますが、
こういうお話を考えて文章にするのは初めての経験。
この物語は最終章まで既に構成はあるので、
付き合ってもらえると幸いです。