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本当に大事なものは  作者: 城井龍馬
高校生編
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第8話 客観視 芝浦山手の場合

人混みを強引にかき分け、早足で鷲那の後ろ姿に追いつく。


祭りの喧騒に負けないように、少し声を張り上げた。


「鷲那!」


声をかけると彼は隣の女の子と顔を見合わせた後、少し驚いたようにこちらを振り返った。


「あ、芝浦先輩! こんばんは!」


僕からの急な声かけに少し戸惑いつつも、人懐っこい笑顔は変わらない。


「…僕のこと、知ってるの?」


思わずそう聞き返してしまった。


まさかこの学園の人気者、女子人気圧倒的No.1である鷲那に、名前まで覚えられているとは思わなかった。


鷲那はきょとんとした顔で、しかしすぐに満面の笑みで答えた。


「もちろん知ってますよ! 女子にも男子にもモテモテの、あの芝浦先輩ですよね?」


うわ、なんかすごいストレートな言われ方したけど…。


鷲那に言われると皮肉にも聞こえる。


でもさすがに面と向かって言われると、ちょっと気恥ずかしい。


「先輩こそ、僕のこと知ってるんですか?」


今度は鷲那が、不思議そうに小首を傾げる。


僕は頷き、彼の背後に迫るであろう人物を念頭に置きながら答えた。


「ああ。城之崎と仲が良いだろ?」


その名前を出すと鷲那の表情が、ああなるほどという納得の色に変わった。


どうやら彼の中で、僕は城之崎先輩の知り合いとしてもインプットされたらしい。


よし、これで会話の糸口はできた。


僕は努めて軽い口調で、鷲那の隣にいる女の子にちらりと視線を送りながら言った。


「そっちはデート? 楽しそうだなーと思って。」


探るような僕の言葉に、鷲那はぱっと顔を輝かせた。


「え、そう見えます? ねえだってさ、僕たち恋人同士に見えるんだって。」


鷲那が隣の女の子に嬉しそうに話しかける。


女の子は頬を赤らめながら、ぶんぶんと首を横に振った。


「ち、違います! 私が無理言って、鷲那くんに付き合ってもらったんです!」


「そんな、無理なんてしてないよ? 僕は嬉しかったんだ、誘ってもらえて。」


そう囁いた鷲那は、女の子の顔を覗き込むようにとろけるような甘い笑顔を向ける。


あーーーーこいつやってるわ、と言うか完全にヤる気だわ。


このナチュラルボーンな人たらしめ。


というかこいつ、絶対この子お持ち帰りしようとしてるやん。


女の子の方も、完全に目がハートになっちゃってるし。


…ってあれ?


もしかして僕も女の子とか男の子とか口説いてる時、周りから見たらこんな感じに見えてんのかな…。


だとしたらちょっと引くかも…。


一瞬、自分の普段の行動を省みてしまった。


まあ、今はそんなこと考えてる場合じゃない。


というか、僕の存在忘れてないよね?


ねぇ、ここにいるからね?


先輩、空気読んで一旦消えるとかしないから!


心の中で必死に存在をアピールするが、効果はなさそうだ。


その時だった。


視界の端、雑踏の向こうに、見覚えのある二つの浴衣姿が見えた。


大庭に腕を引かれ、やや不機嫌そうな顔でこちらに向かってくる城之崎。


距離はまだあるが、時間の問題だ。


まずい、まずい、まずい!!


頭の中で警報が激しく鳴り響く。


城之崎に、この鷲那と女の子の甘ったるい光景を見せるわけにはいかない!


僕は鷲那が手に持っている、大量の食べ物に目を付けた。


焼きそばと、お好み焼きがぎっしり詰まったビニール袋。おまけにアメリカンドッグまで。


…うわ、見事な炭水化物祭り。


育ち盛りかよ。


運動部所属で体格の良い鷲那ならこれでもいいだろうが、隣の女の子はもっとこう、可愛いものを食べたいんじゃないか?


僕は咄嗟に、鷲那に向かって声を張った。


「なあ鷲那! さっきあっちの角で売ってたリンゴ飴、もう食べたか? 皮がパリッパリで、中のリンゴがジューシーでさ、めっちゃ美味しかったぞ!」


僕は、城之崎たちが来る方向とは真逆の方向を、これでもかと大げさに指差しながら言った。


頼む、こっちに食いついてくれ…!


僕の読み通り、女の子がぱっと顔を輝かせた。


「わぁ! 私、リンゴ飴食べたーいな!」


よし、かかった!


内心で、勝利のガッツポーズを決める。


鷲那は僕の顔をみて一瞬だけ怪訝な顔をした。


だがすぐに女の子に向き直り、いつもの爽やかな笑顔を向けた。


「そっか、じゃあ行こっか。芝浦先輩、情報ありがとうございます!」


「お、おう。楽しめよー。」


鷲那は女の子の腰に手を回すと、僕が指した方向へと歩き出した。


恐ろしい男だよ、あいつは。


僕は二人の後ろ姿が、早く早くと念じながら人混みに消えていくのを、息を詰めて見送った。


…ふぅ、なんとか、なった…。


どっと疲れが押し寄せる。


全身の力が抜けるようだ。


なんとか、城之崎と鷲那の鉢合わせは回避できた。


僕が大きく安堵のため息をついた、まさにその時。


「――芝浦。」


静かだが、有無を言わせぬ響きを持つ声が、背後からかけられた。


びくりと肩を震わせて振り返ると、そこには眉間に僅かな皺を寄せた城之崎が立っていた。


隣にはなぜか、少し満足げな顔をしている大庭。


じろり、と温度のない視線が突き刺さる。


「…どこに行っていた、探したぞ。」


低い声にははっきりとした苛立ちと、わずかな疲労の色が滲んでいた。


隣の大庭に振り回されていたのは想像に難くない。


その労力の一部は、僕を探す手間だったのだろう。


「わ、悪い悪い。ちょっと人混みではぐれちゃってさ…。」


しどろもどろに言い訳をする僕を、城之崎はまだ疑いの目で見ていた。


しかし大きく息をつくと、それ以上追及する気はないようだった。


むしろやっと僕を捕まえて、これ以上大庭に好き勝手させずに済むという安堵の方が強いのかもしれない。


ともあれ、鷲那との遭遇は回避した。


僕は完全に一仕事終えた気になっていた。

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