第88話 仲間はずれ同士 芝浦山手の場合
城之崎は完全にムキになっていた。
「まず郷土博物館。ここではこの街の江戸から昭和の歴史を学べるだけでなく、昭和のこの街の街並みが再現されている。それは結構な規模で、もはや1つの街と言えるものだ!他にも江戸時代や明治時代にできた建物を見学できたり、更には歴史だけでなく大型ショッピングモール16スクリーンを持つ映画館だってある!」
まるでプレゼンでもするかのように、熱く語り始めた。
いやそのデカすぎるこの街への愛情はどっから湧いてくんだよ。
コイツもしかしてこの街出身だった?
それを聞いた能田ちゃんは、
「おぉ!歴史が学べるというのはいいですね、それは非常に興味深いです!」
と純粋に感心している。
ウソだろ……夢と魔法の国より歴史だと?
僕には考えられない。
「咲良」
城之崎が大庭に声をかける。
「え?な、なに?」
大庭がこんなに押されているのもめずらしいな。
「この夢と魔法の国のすぐそばにだって、大規模なプールや体育館、球技場などを備えた運動公園だってあるぞ!」
「……ごめん光哉、私は夢と魔法の国の方がいいかな」
まさか能田ちゃんより大庭の方がマトモだと思う日が来るとは思わなかったよ。
「……まぁ、そう言うなら仕方ない」
城之崎は不満そうだ。
「敷島」
次は敷島をターゲットにしたらしい。
「この市には県立図書館に匹敵する規模の市立図書館もある、蔵書量もかなりのものだ」
え?
敷島に図書館?
能田ちゃんじゃなくて?
敷島も、
「まぁ確かに、それはそれでオモロそー」
なんて興味を示し始めた。
マジかよ、敷島その見た目で本なんか読むなよサギじゃん。
……いやさすがに言い過ぎか。
と言うか敷島も城之崎と同じ大学、そして頭のいい生き物だと思い出した。
そんな敷島を見て、城之崎は嬉しそうに頷いた。
「そうだろう、そうだろう。それではお前たちにはもう少し詳しく話をしよう、それでは向こうで話すとしよう」
そう言って能田ちゃんと敷島を連れて、さっさと移動しようとする。
「え?ど、 どこ行くんだよ?」
僕がそう聞くと、城之崎はキッパリと言い放った。
「しばらく、別行動だ」
「「え!?」」
僕と大庭の声が、綺麗に重なる。
すると城之崎は、当然だとでもいうように言った。
「興味のない話に無理に付き合う必要はないだろう、お前らはお前らで仲良くしていろ」
そう言い残すと、本当に能田ちゃんと敷島だけを連れて行ってしまった。
残されたのは僕と、大庭。
気まずい沈黙が、僕たちの間に流れる。
「……大庭はどうする? どっか行きたいとことかある?」
僕がそう尋ねると、大庭はジッと僕の顔を見つめてきた。
「ねぇ?前から不思議だったんだけどさ」
大庭はいきなり、そう切り出した。
「芝浦くんって人のこと、下の名前とかあだ名で呼ばないよね?なんかキャラ的にはさ、すぐそういうので呼びそうなのに」
「まあ……」
確かに心当たりがありすぎる。
僕はちょっと言葉を選ぶ。
「僕自身が下の名前とかあだ名で呼ばれるのが、あんまり好きじゃないからかな」
「そうなの?」
「うん、『山手』って名前自体がそんなに好きじゃないし、あだ名も『山手』の方をもじられることが多いからね」
ヤマちゃんとかテッちゃんとか、思い出すだけで少しウンザリする。
「ふーん、でもなんでご両親は山手って名前にしたのかな?知ってるの?」
「さぁ、どうなんだろうね」
僕は曖昧に、そう返事をした。
少し沈黙が続く。
今度は僕の方から、少し気になっていたことを尋ねてみることにした。
「そういえば大庭、さっき城之崎とあの洋館のアトラクションに行ったんだけどさ」
「洋館?」
大庭が首をかしげる。
「あれだよ、999人の幽霊がいるっていう」
「え!? よく光哉がついて行ったね!」
大庭が心底、驚いたという顔をする。
「まあついて行ったというか、無理矢理引きずって連れてったんだけどね」
僕がそう言うと、大庭はため息をついた。
「やっぱり……でもいつもの光哉だったら、無理矢理でも連れて行けないと思うよ。私は光哉とはオバケ屋敷みたいな、幽霊系のとこに一緒に行ったことは一度もないんだ。光哉が絶対に、本気でイヤがるから。芝浦くんだからじゃない?もし同じことしたら私でも数日は口きいてくれないと思うよ?」
僕だけ特別ってこと?
ちょっと嬉しくなった、けどすぐに考えなおした。
「そうかな?でもさっきも相当イヤがってたよ?」
あの全力の理論武装での抵抗を思い出す、でも確かにさすがの僕も本気でムリだと思ったらあきらめていたとは思うけど……。
いや、とりあえずそれは置いておこう。
「それでアトラクションが終わった後さ、あいつ『なんか前にも、こんなことがあった気がするな』って言ったんだけど、何か知らない?」
その質問に、大庭は少しだけ考える素振りを見せた。
「いやごめん、大庭も一緒に行ったことないって言ってたもんね」
僕はそう言って話を終わらせようとした、でも大庭は何かを思い出したように言った。
「光哉がそういう場所に行ったのは私が知ってるかぎり1回だけ、それは中学生のとき……」
大庭は僕のほうに顔を向けて、続ける。
「鷲那くんと一緒に、そのときだけだよ」




