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本当に大事なものは  作者: 城井龍馬
社会人・大学生編
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第48話 追試 芝浦山手の場合

「……え、どなた?」


城之崎と能田ちゃんの後ろから、ヒョコリと顔を覗かせたもう1人。


金髪に、耳にはいくつものピアス。


派手なメイクに、流行りのオーバーサイズのストリート系ファッション。


いかにも今時の、遊び慣れていそうな雰囲気。


「あーし敷島優雅ー、よろー」


彼女は片手をヒラヒラとさせて、ふざけた口調で挨拶をしてきた。


それからジロジロ遠慮のない視線を僕に向ける。


「てかキノもイケメンだけどアンタもイケメンじゃーん、可愛い系?」


いきなり馴れ馴れしい。


次に彼女の視線は隣にいた大庭へと移り、ぱぁっと顔を輝かせた。


「うわ、こっちもめっちゃキレー! モデルさん?」


「えー、まぁ一応ね」


何が一応だよ、確かに綺麗だけど。


……あれ?


もしかして本当に読モとかやってたりするの?


大庭も褒められて、満更でもない様子だ。


僕と大庭が呆気に取られていると、能田ちゃんが慌てて補足を入れた。


「ちょっと優雅! こちらは芝浦くんで、こっちが大庭さん。……すみません、優雅は私の中学の時の同級生なんです」


「あぁ、俺と同じ大学でもある」


城之崎がさらに付け加える。


聞けば大学で偶然、能田ちゃんと敷島さんが一緒にいるところに遭遇したとのこと。


それからまさに今日が能田ちゃんの誕生日だと聞いて、せっかくだからと僕たちのいるこの部屋に呼んだらしい。


「え、能田ちゃん今日誕生日なの!? おめでとー!」


「能田さん、誕生日おめでとう! てことは今日で二十歳?」


「えへへ、ありがとうございます。今日で、やっとお酒が飲めます。」


とはにかむ能田ちゃん。


そんな和やかなやり取りをしている間、城之崎は何かを思い立ったらしい。


「すぐ戻る」


とだけ言い残して、一人で部屋を出て行った。


自由なやつだな。


能田ちゃんが、


「お二人は今日はどうされたんですか?」


と尋ねてきた。


たまたま遊びに来たと言う大庭。


僕は部屋が大変なことになって避難してきたと話すと、敷島は腹を抱えて笑ってる。


……僕、この人嫌いかも。


ちなみに能田ちゃんは明らかに興奮している。


僕と城之崎が一緒にいるのを久しぶりに見て、色々捗ってるみたいだ。


……ブレないな、元気そうで何より。


すると玄関の方からガチャリと音がした。


城之崎が戻ってきたのか。


そう思ってドアの方に視線を向けた次の瞬間。


僕は自分の目を疑った。


部屋のドアが開かれ、そこに立っていたのは城之崎と――もう一人。


見慣れた、人懐っこい笑顔。


鷲那豊樹だった。


「「えっ!?」」


僕と能田ちゃんの声が重なる。


「ヤバ!マジでイケメンすぎない!?てか未来の友達顔面偏差値高すぎん!?」


敷島は最高にテンションが上がっている。


「ありがとうございます」


そう言って微笑む鷲那は、相変わらず王子様みたいだった。


そしてなぜかちょっと誇らしげな城之崎。


……あー、なんかモヤッとするな。


大庭はあからさまに顔をしかめ、不満を隠そうともしない。


僕が、


「なんでここに!?」


と尋ねると、鷲那は涼しい顔で言った。


「先輩に呼ばれて。僕の大学『偶然』この近くで、家も『偶然』同じマンションなんですよ」


いやいや。


……いやいやいや。


「そんな『偶然』あるか?」


僕が首を傾げても、鷲那はニコニコと笑ってとぼけるだけだ。


城之崎はそれを知ってか知らずか、


「せっかくだから」


と言ってスマホでバーウーイーツやピザバットを頼むと言い出した。


こうして唐突に能田ちゃんの誕生日パーティーが、このカオスなメンバーで開催されることになった。


……3年前のクリスマスパーティーを思い出すなぁ。


そう思った瞬間。


ふと、ずっと気になっていたことが頭をよぎった。


あのクリスマスパーティーの夜、鷲那が城之崎にこっそり渡していたあのプレゼント。


あれは一体、何だったんだろうか。


僕はタイミングを見計らって、少し離れた場所でスマホをいじってる鷲那にこっそりと近づいた。


「なぁ、鷲那」


「はい?」


「3年前のクリスマスのこと覚えてるか? あの時、お前が城之崎に渡してたプレゼント、あれって結局何だったんだよ?」


僕がそう尋ねると、鷲那は心底呆れたという顔で深いため息をついた。


「……まだ根に持ってるんですか?」


「根に持ってるよ、当たり前だろ」


内心今まで忘れてしまっていたことは棚に上げて、僕はキッパリと言い切った。


鷲那はやれやれと肩をすくめると小さな声で、しかしハッキリと答えた。


「腕時計ですよ」


「腕時計?」


「そうですよ、懐かしいな」


腕時計。


僕はその言葉を聞いて、ピザを片手に談笑している城之崎の左腕に無意識に視線を送った。


彼の腕には、確かにシンプルなデザインの腕時計が巻かれていた。


「もしかして、あれ?」


僕が指差すと鷲那は僕の視線を追って、そして満足そうに微笑んだ。


「えぇ、大事にしてくれていて何よりですよ」


詳しくはないけど、高校生がプレゼントするにはちょっと分不相応にも見える良さげな品だ。


僕はあのクリスマスパーティーの夜、プレゼントを渡した鷲那を問い詰めた時のことを思い出す。




『問題あるに決まってんだろ! どういうつもりなんだよ。まさか、本気で城之崎のこと……。』


僕がそう言いかけた瞬間鷲那は呆れたように、はぁ、と大きなため息をついた。


『あーめんどくさ』


その言葉に、僕は唖然とする。


『自分がそうやから言うて、相手もそうやろうって思うのはどないなんでしょうねぇ』


彼は静かに、しかし明確な棘を含んだ言葉で続けた。


グッと言葉に詰まる。


『もし誰もが全部同じに感じられるんやったらそらある意味、幸せなんかもしれませんけどね。』


鷲那はそうボソリと呟く。




あの時の意味深な言葉。


こいつは一体、何を考えているんだろう。


僕がそうだからと言って、鷲那もそうだとは限らない?


僕が城之崎を好きだからと言って、鷲那も城之崎を好きだと限らない?


でも好きでもないのに。


高校生が何万もするような腕時計をプレゼントするのはなんで?


好きでもないのに。


進学後わざわざ同じマンションに住むのはなんで?


わからない。


……わからない。


あの時から、そして今も。


僕にはコイツの考えていることが、全く分からない。


ただ、城之崎の腕で時を刻むあの腕時計だけ。


それだけが僕たちの間にあるどうしようもない距離の差を静かに、そして残酷に示しているように思えた。

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