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本当に大事なものは  作者: 城井龍馬
高校生編
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第36話 家族のあり方 芝浦山手の場合

街はクリスマスのイルミネーションがキラキラ輝き始めて、誰でも浮かれた気分にさせられると思う。


僕の心はと言えば晴れたり曇ったり雨だったりと、とにかくせわしない。


原因はもちろん、城之崎光哉だ。


能田ちゃんと『冬休みコウヤマ作戦』なるものを実施して、その一環……なのかはわかんないけど、僕の家で城之崎たちとクリスマスパーティーを開くというとんでもないチャンスが転がり込んできた。


能田ちゃんが城之崎をサイセリアに呼び出して、そこに僕が偶然を装って合流するという作戦。


しかしそこに大庭と鷲那まで出てくるっていう、ある意味奇跡的な流れ。


作戦が功を奏した……のかはとっても疑問だ。


結果的には、夏祭りの時と一緒だ。


結局アイツとは2人きりにはなれない運命なのかな、なんて少しだけ肩を落としたのも事実だ。


……いやでもよく考えたら、修学旅行のときは割と2人きりになれたか。


『大鷲の間』での出来事や、観覧車でアイツの肩にもたれて眠ってしまった後のこと。


アイツの真っ赤だった耳を思い出すと思わずニヤけてしまう。


いやいや、ニヤニヤしてる場合じゃないって!


現実に引き戻される。


クリスマスパーティーを、僕の家でやる。


大見得を切ったのはいいけど、そこには大きな問題が横たわっていた。


我が芝浦家では、毎年クリスマスは家族全員でパーティーをするのが鉄の掟。


いや、お母さん発案の楽しい慣例なんだ。


まず友達を呼んでパーティーをすること自体の許可を得なければならない。


これはまぁ、うちの親ならなんとかなるだろう。


問題はその後、家族をどうするかだ。


色々考えたけど、どう考えてもパーティーの時間に家族を家から出す方法が思いつかない。


……まぁ、ウダウダ考えてても仕方ないよね!


「ただいまー」


サイセリアから家に着いて、僕はいつもより少しだけ神妙な面持ちでリビングのドアを開けた。


「お、山手おかえり。早かったな」


ソファでテレビを見ていたお父さんが、チラリとこっちを見る。


「山手、お帰りなさい」


キッチンからは夕食の準備をするお母さんの声と、いい匂いが漂ってきた。


「あのさ、ちょっと相談があるんだけど」


僕がそう切り出すと、お母さんも手を止めてお父さんもテレビの音量を下げた。


意を決して、クリスマスの日に友達を呼んでパーティーをしたい旨を伝える。


「あら、いいじゃない! 楽しそうね!」


お母さんは、拍子抜けするほどあっさりと快諾してくれた。


「お友達何人くらい来るの? お料理、腕によりをかけて作っちゃうわよー!」


「えー……あ、うん。ありがとう。たぶん、4人……かな?」


まぁ、ここまでは想定内だ。


安堵したのも束の間、リビングの隣の和室からドタドタと足音が聞こえてきた。


「兄ちゃん! ズルい! 僕も友達呼んでいい!?」


「私も! 私も呼びたいー!」


案の定聞き耳を立てていたらしい弟の拓人と妹の瑠夏が、目をキラキラさせながら詰め寄ってきた。


うわー、やっぱりこうなるよな。


ただでさえ鷲那や大庭まで来るのに、これ以上カオスな状況になるのは避けたい。


でもここで弟と妹の頼みを無下に断ると、後々面倒なことになるのは目に見えている。


「でもお前らまで呼んだら、家の中ぐちゃぐちゃになるだろ?」


なんとか穏便に断る理由を探すが、2人には通用しない。


「大丈夫! 自分たちでちゃんとお片付けするから!」


「ねーお母さん、いいでしょ?」


2人の勢いにお母さんも、


「別にいいんじゃない? みんなでワイワイやるのも楽しいわよ」


なんて、どこまでも楽観的だ。


どうしたものかと頭を抱えていると、お父さんがニヤニヤしながら口を挟んできた。


「まぁなぁ、山手だけ友達呼んで良くて拓人と瑠夏はダメってわけにもいかないよなー。何か特別な理由でもあれば話は別だけどなー?」


その言い方、その表情。


この人、絶対薄々勘付いてる。


お父さんはいつも妙に鋭い。


僕の普段の行動や時折見せる上の空な態度から、何かを察しているのかもしれない。


もうこうなったら、僕は観念して一度大きく息を吸い込んだ。


「実はその……パーティーに来る友達の中に、好きな人がいるんだ。だから、あんまり人数増やしてごちゃぐちゃさせたくないっていうか」


正直に告げると、リビングが一瞬だけ静まり返った。


そして次の瞬間、母さんが嬉しそうにパァッと顔を輝かせた。


「まぁ! やだ、山手!そうなの!? で、で?今度は男の子? 女の子?」


その食いつきっぷりは、もはや恒例行事だ。


「……男」


僕がボソリと言うと、


「あら、いいわね! 素敵じゃない! お母さん、応援するわよ!」


そう満面の笑みで力強く頷いた。


ちなみに僕が女の子を好きになった時でも、母さんのこのリアクションは変わらない。


うちの家族はこんな感じ、僕にとって最強の理解者だ。


「なるほどなあ、そういうことなら話は別だ」


お父さんが、したり顔で頷く。


「それじゃあお父さんたちは、邪魔にならないように拓人と瑠夏を連れてどこか遊びにでも行こうか。そうだ、新しくできた遊園地でも行くか!」


「「やったー!!」」


拓人と瑠夏は、一瞬で不満顔から大喜びの表情に変わる。


よかった、単純で。


でもここでお母さんが、


「あら、私は残るわよ?」


そうきょとんとした顔で言った。


「だって山手のお友達が来るんでしょう? お料理作ったり、色々おもてなししないと!」


その言葉にお父さんも拓人も瑠夏も、『まあ、お母さんはそう言うだろうと思ったよ。』とでも言いたげな、納得の表情を浮かべている。


お母さんの魂胆はわかっている。


僕の好きな人を見たいだけ、絶対そう。


お母さんのキラキラした目が、そう物語っている。


たぶんこれが、我が家にとっての最善の落とし所なのだろう。


「分かったよ、じゃあそういうことで」


僕がため息混じりに言うとお母さんは、


「任せといて!」


と張り切っている。


こうしてクリスマスパーティー計画は、僕の切実な願いと家族それぞれの思惑が入り混じりながらも、なんとか形になり始めた。


パーティーまではあと数週間。


期待と不安が、胸の中でぐるぐると渦巻いていた。

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