没落(2)
没落次回で終わりです!
(ざけんなっ!!!)
ブチギレ、怒り心頭。
思わず受け取った紙を破り捨てそうになった。
古代メソポタミア文明の楔形文字のような――棒人間が、幾多も紙の上でステップを踏んでいる。
(こんなん見せられてどうすればいいんだよっ!!)
周りをぐるりと見渡す。
他の生徒は早くも紙の内容を理解したのか、男女ともに友達と動きを照らし合わせさながら体操を覚えはじめている。
(…柏木さん!)
小百合の方に熱烈な視線を送る。
しかし、小百合は瑠璃子のアプローチに知ってか、知らずか、すでに他の近くの女子と練習し始めている。
その中に瑠璃子が混じることはないだろう。
狂暴さの中に臆病で警戒心がある――それが瑠璃子だ。
慣れない存在には決して自らから近づこうとしない。
――小百合。最初は盛んに話しかけてきて煩わしくも思っていた。
しかし、誰一人として知り合いがいない地で瑠璃子とて不安を感じる。
瑠璃子のことを気にかけてくれる。
それに、笑うとかわいい。
――気づけば好きになってしまった。
小百合は孤独の中に差し込んだ、一筋の光りだった。
けれど、悲しいかな、小百合には他に友達がいる。
小百合は高校の近くの私立中学の出身で、
クラスに顔なじみがたくさんいる。
今、小百合が話しかけてくれるのは、たまたま
席が近いからに過ぎない。
明るく、誰とでも話したがる性格。
別に瑠璃子が特別なわけではないのだ。
だから、瑠璃子は基本的に一匹オオカミだ。
別に好きで一人でいるわけではない。
積極的一匹オオカミではなく、受動的一匹オオカミ。
本当は瑠璃子だってれっきとした群れの一員になりたいのだ。
(…弱った。)
瑠璃子は呆然と紙を見つめ、棒立ちになっていた。
瑠璃子の通う高校――県立凌雲高等学校にはある伝統がある。
何十年も前に一人の生徒が考案したことから始まった、高校独自のオリジナル体操。
その名を雲雲体操。
考案当初から代々受け継がれている。
(なんで、こんな複雑なんだ!?普通の準備体操でいいだろ!!)
後の後輩への嫌がらせとしか思えない。
一度だけ体育教師が最初から最後までトータルで見せたが、
あとは「各自友達と練習しろ」という丸投げスタイル。
(アイパッドがあるんだから、それに配信しろよ!!)
いったい県がどれだけの金をかけて生徒一人一人にiPadを配布したというのか。
今でこそ、有効活用すべきじゃないのか。
しかも、次の時間から全員の前でテストがあり、不合格なら何度でも再テストという鬼畜。
(教師は吊るしあげでもしたいのか!?)
瑠璃子には「見て真似する」という動作が猛烈に苦手だ。
瑠璃子が一つの動作をできるようになるためにはスリーステップいる。
まず、動きをおおまかで目に捉える。
次に自分の中で動作を細かく分解し、既に知っている動きに置き替えて再構築。
最後に実際に動いてみて微調整を加える。
一度見ただけの体操など覚えているわけがなかろう。
しかもこのプリント、ただの図解ではない。
動きを表す棒人間達がまるで解読を待つ、楔形文字だ。
これを理解するだけで一苦労なのに、その先にスリーステップが待っている。
友達もいない。
部活にも入っていない。
頼れる先輩もいない。
されど、無情にも時は進む。
次の体育はやってくる。
早くも、死刑執行を言い渡された囚人のような気分。
絶望に沈む。
――ゾクリ、急に背筋に身震いが走った。
誰かから見られているような気配がしたが、
周りの女子にそれらしい様子はない。
ふと、視線を遠くの男子に向けると――
小太りの小男がこちらを凝視しているではないか。
(…誰だ、あいつは)
どうやら同じクラスのようだが、名前も顔も記憶になかった。
話したことすらないし、見られる理由もない。
あるいは忘れているだけかもしれないが。
瑠璃子は不審に思いながらも、すぐに視線を反らした。
(不気味なやっちゃ…)
***
その頃――亀田はほくそ笑んだ。
どうやら、あの女には頼るべき友がいない。
これは、好都合ではないか。
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