ハロ〜 Monday!!
曜日綴り間違ってた……恥ずかしい……
グッバイ〜Sunday!!
ハロ〜 Monday!!
瑠璃子、約二週間ぶりの登校。
白き天日、あぁ、眩し!
空は蒼く澄み、小鳥が歌う。
素晴らしき朝、麗しき風。
対する瑠璃子の顔は――青い!死体っ!
血の気のない顔で、可哀想に、彼女唇を噛み締めていた。
瑠璃子は学校に来ると決心したはものの、
実際に来ると怖くてたまらないのである。
瑠璃子の目の前に聳え立つは、由緒正しき豪奢な門。
石造りでどっしり構えられたそのお姿。
堂々たる格式を持ってして生徒を迎え打たんとす。
校門を前にして、
瑠璃子の足が止まった。
足を踏み入れようとすると、躊躇してしまうのだろう。
瑠璃子はずっと学校から逃げてきたのだ。
あの日、
ぽんたろうに敗北決してからずっと
ゲーム・オーバーのままコントローラーを投げ出したままだった。
それを今、再開しようとしている。
瑠璃子の脳内に画面が浮かび上がる。
〜Game Over〜
ゲームを再開しますか?
▶Continue
End
じんわり痛む頭の右側を撫でつけ、瑠璃子は深く深呼吸した。
「……もちろん、"Continue"だ。」
小声で呟く。
そうして校門にて、
瑠璃子は足を踏み入れた。
――テッテレー!!
〜Restart The Game〜
――地獄への門よ、
――ここからはもう引き換えすことはできない。
玄関で靴を上履きに履き替え、
瑠璃子は周囲を見渡す。
久しぶりの学校は瑠璃子にとって異界、
懐かしさも、喜ばしさも皆無。
瑠璃子はまるで知らない異国に、一人取り残されたような心細さを覚えた。
「ねぇ、さっきのコンテニューって?何言ってんの?」
おおっと、新たな同行者一名を忘れていた。
瑠璃子の行くとこ、どこにも、先にも、我慕う。
雲雀は瑠璃子の半径一メートルをふよふよと、
大きな蛾が蛍光灯に纏わりつくように彷徨っている。
生者瑠璃子の顔は以前青白いが、亡者雲雀の頰は明るい。
雲雀はめでたい男だ。
大変愉快なご様子。
瑠璃子は雲雀を横目に、
力なく応えた。
「……外では話しかけないでくれ。」
生徒達が友達とお喋りしながら瑠璃子の前を続々通り過ぎてゆく。
瑠璃子は廊下を歩きながら、目を鷹のようにして周りの生徒の動向を観察した。
(……良かった、みんな私を見てザワザワしてない。……してないよな?)
「るりちゃん、めっちゃ挙動不審だよ。不法侵入した人?」
ニヤニヤ茶化す雲雀。
何が面白いのか、
学校の中に入ってからずっと奴は笑っている。
瑠璃子は雲雀の様子に不審に思った。
「あんた、なんでそんなテンション高いの?」
「えっ……えぇ…!そう見える……?」
「うん。」
「……いや、高校ほぼ通ったことなかったから……ついテンション上がちゃって……」
雲雀は照れくさそうに頭をかいた。
瑠璃子はふっと溜息をついた。
「……良く見ておきな。今に楽しくなくなるからね。」
幸運!廊下にて誰も瑠璃子をチラチラ見ようとしない!
あぁ〜諸行無常の響きなり。
沙羅双樹の花の色〜
話題の移り変わりは早い。
瑠璃子の恥辱の体操記録動画「るり子ステップ」は一瞬の内にホットに燃え上がったが、瞬く間に消費され鎮火された。
もう既に、一般生徒は誰ひとり瑠璃子にも「るり子ステップ」にも興味を持っていなかった。
瑠璃子にとっては生死をわかつ重大問題も他人からしたらその程度の認識である。
瑠璃子はクラスメイトに会わないよう祈りながら、
時折スクール鞄で顔を隠しながら、
第一関門廊下を突破した。
そして、第二関門――教室。
瑠璃子は教室のドアを開けた。
中にいた生徒達の会話が止まる。
彼等の視線が、一瞬瑠璃子に集まる。
だが、すぐに瑠璃子から視線を逸らし各々の会話にもどっていく。
誰も瑠璃子に声をかけない。
瑠璃子も誰にも声をかけない。
瑠璃子は黙って自分の席に腰を降ろした。
「うっっわ、あいつ何か久々に見たんですけど〜」
「今こっち睨んでませんでしたか?こっっわ〜」
ぽんたろうとその一味、ぽんたろう七人衆だけは瑠璃子の様子を見てクスクスと笑っていた。
瑠璃子は机に突伏していた。
雲雀はぽんたろう達と瑠璃子を交互に見て、
時折口を開いて何か言おうとして閉じるのを繰り返していた。
そして、苦笑いを浮かべながら一言言った。
「るりちゃん……えっと、……僕とお母さんには当たり強いのに……外だと大人しいね!」
「……黙ってくれ。」
瑠璃子は雲雀を軽く睨んだ。
彼女の目が気のせいか濡れた。
雲雀の無神経と能天気は救いでもあり、
苛立ちでもある。
久方ぶりの講義。
休んでいる間、瑠璃子は何一つ勉強していなかったのだが――。
(……私の賢な脳フル稼働してるし。……多分いけるし。)
――いけなかった。
何も分からない。
幸いかな、教師も気を使っているのか瑠璃子を当てはしなかった。
こうして、午前中の授業が無事"終わった"。
来たる昼休み。
ようやく瑠璃子が動く時。
職員室にブツを持って、神谷瑠璃子参上!!
瑠璃子は担任と学年主任の二方に早速、
証拠動画を見せた。
本当は朝早く来て動くべきだったが、
瑠璃子が門になかなか踏み込めなかったばかりにこの時間帯。
もっとも、父親が電話で学校に伝えようとも言ってくれたが、やはり自分の口でぽんたろうへの憎しみを熱く語りたかった。
(おまぬけッ!ぽんたろう!!クラスラインに証拠残すなんてな!!)
瑠璃子は己の不名誉を他人に晒すことに耐えようと、
自分を鼓舞しながら、
例の動画の再生ボタンを押した。
雲雀は職員室のデスクの中に隠れていた。
「……あわや……」
もう二度と動画を見ようとはせず。
彼は「るり子ステップ」を娯楽として、消費するには道徳心がありすぎた。
担任の竹中、学年主任の田沼はどちらも渋い顔をしていた。
「先生!彼をどうにかしてください!!私がここ暫く学校にこれなかったのは偏に彼の責任です!!」
鼻の穴を広げながら語った。
瑠璃子は熱弁を振るいながら、身振り手振りも交えて、ぽんたろうが如何に陰険で下劣で卑怯な精神の持ち主か訴えた。
教師二名は顔を見合わせる。
瑠璃子がどうやら、
とても興奮しているらしいことは伝わったたらしい。
「……分かりました。今教えてくれた亀田君とその友達には個別で話を聞いて、……今神谷さんが教えてくれたことが事実か確認してみます。」
竹中先生が沈痛な声で言った。
「まぁ……神谷、あれな、……よく勇気を出して教えてくれたわ。この動画の件は学年集会を開いてみんなに話をするからな。」
田沼先生は瑠璃子を労るように笑いかけた。
「……はい。」
急に意気消沈。
瑠璃子の顔は曇った。
職員室を去り瑠璃子はトボトボ、雲雀はふよふよ廊下を進む。
「先生全く役に立たないね!!ぽんたろう達に聞いたって認めるわけないのに!!」
雲雀は髪を逆立てキリキリ憤慨した。
瑠璃子は肩をがっくり落として呆然。
もはや、心をどこかに置き忘れたらしい。
「……るりちゃん?」
雲雀の問いかけにも瑠璃子は反応しない。
少し間を置いてようやく応えた。
「……あぁ、まぁ……仕方ない。」
「……私が馬鹿だったんだ。もっとも先生にできることなんてそれくらいだよ……私の言い分だけ信じたって不公平だしな……それに、出来て注意くらいか……」
瑠璃子は情けのない薄笑いを作って泣きそうになるのを堪える。
雲雀もその様子に胸が痛んだ。
「……体育科の先生のとこ行くよ、体操の紙失くしちゃったから。」
瑠璃子は弱々しく呟いた。
(もうやんなっちゃう……私ってなんも上手くいかないね……)
(……これは!?いつもの死にたくなるやつ!!)
(……ダメだ、ダメだ…!小学生の私に笑われるぞ……!それに、よん婆と闘った時、火ノ宮での出来事を思い出せ!!大丈夫私は強いだ……!最強だ……!)
瑠璃子はどうにか気持ちを取り直した。
(今度は完璧に体操してやる……!!また、笑い者になってやるもんか……!!)
ぽんたろうを成敗することだけが、使命ではない。
瑠璃子は体操を覚えなければならない。
そうしてまた、みんなの前で発表するのだ。
「るり子ステップ」第二弾が録画されることだけはなんとしても避けなければならない。
瑠璃子は身体の熱を少しだけ取り戻したような感覚になった。
その時――目の前をなびく、長い茶髪。
横切った顔から覗いた大きなタレ目。
瑠璃子はその女子生徒に見覚えがあった。
(あっ……!)
瑠璃子が声を出すより先に、
雲雀が叫んだ。
「あきちゃん!?」




