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山岡の乱(3)過去編終

瑠璃子が歌った。

それも大きな声で。

練習の時はいつもみんなの声に紛れるようにぼそぼそと歌っていたのに。


やはり瑠璃子は音痴だった。

(ほら、見ろ。山岡の手下達に笑われてるよ。)

聴くに絶えない、馬鹿だな、雲雀はそう思った。

だが、雲雀の目の奥がジンと熱を持った。



(でも、最高にかっこいいよ……!)


音楽室で阿久津に公開処刑された時のような、惨めさは全くない。


気づけば、雲雀は加勢していた。

雲雀だけではない、最初は笑っていたもの達まで続々と歌に加わっていく。


次第にれっきとした合唱としての形を成してきた。




――あかりだけ ぼんやり ゆれていて


――だれかが てを ふっていた


――こたえちゃ いけないよ


――よるの かくれんぼ。


最後の歌詞を歌い切ると、雲雀はハァハァと息をした。


瑠璃子、マリアの二人は額からはやりきった後に流れる爽やかな汗がこぼれ落ちる。


竹筒や和紙を使った即席の蝋燭ランタンが灯りを灯した。


審査員席にいたよしこは生徒達の勇士を讃え拍手を送った。

観客席からも拍手が聞こえた。


豚や火尾烏もいつの間にやら捕まえられていた。




山岡の計画は失敗に終わったのである。


山岡はこれから受けるであろう罰には興味がないのか、丘の上から、軽く口元を横にクイッと広げて笑っただけだった。



丘を降りていく、山岡の背中を高橋は追った。


一方で缶バッチ星二つ組の山岡の側近+村中の四名は祭の入口付近で顔を青くして固まっていた。


こうして、一年生の合唱は無事に終わりを迎えた。


幸い、家畜による怪我人は軽傷で済んだ。


一年生以降の学年も時間は押したが、

執り行なわれ、

無事全学年歌い終わり例年通り六年生が優勝した。


「……予定通りではないこともありましたがねぇ。

特に最初の一年生は……よく最後まで歌いきりましたよ。」

審査員のよしこが最後にコメントを残した。





事件の後、雲雀は缶バッチをつけた生徒と今回の事件を結びつけて教師に詰問すべきと早々に密告した。


実行犯ではない缶バッチ一つ組は実行犯ではないため証拠不十分お咎めはなかった。


監視カメラに家畜解放の映像が残っていたため、星二つ組とその主人の山岡は有罪となった。


こうして、山岡と缶バッチ星二つは大人達個別で一人一人詰められた。


缶バッチ二つ組は最初は主人への忠誠を守ろうとしていたがよしこが登場すると泣いて計画についてバラしてしまった。


山岡は最後まで無表情でだんまりを決めこんでいた。


悪童達は一ヶ月間のトイレ掃除と、

地域への奉仕活動としてゴミ拾いを大人の監視付きですることを命じられた。


瑠璃子がよしこに約束された、

産まれてくる妹への命名権は一月もすればすっかり忘れていた。


よしこの方も本気でなかったのか、

呆けてたのか、

言い出さなかった。


妹は無事にこの世に生を受けて、

両親があらかじめ考えていた名前を付けられた。




瑠璃子は祭の後、疲れ切って直ぐに布団に横になった。


ベッドサイドのランタンの灯りが瑠璃子の顔に重なる。


その光景が現在の――9年後の部屋の照明とシンクロする。


***

場面移りて、現代。


「――それで、るりちゃん、くっそ音痴なのに率先して歌ったんだよ。いや~あの時ほんと、感動した!!」


雲雀の声には段々と熱が入ってきて、身振り手振りも加わっていた。


聞いていた瑠璃子は、恥ずかしい記憶を思い出してクッションに顔を埋めたりして海老のように暴れていたが、最後には感慨深そうにウンウン頷いていた。


「るりちゃん!」


「何?」


「山岡にすら買ったんだ。大丈夫、君ならそのぽんたろうとか言うのにも勝てる!!」


「山岡より凶悪な奴なんてなかなかいないだろ!!」

雲雀は手の拳をぎゅっと握って、瑠璃子の周りをヒュウヒュウ飛び回った。


「…………」

瑠璃子は、ぽんたろうによりクラスラインに投稿された瑠璃子の恥辱の姿のかぎりを映した忌々しい動画の再生ボタンを押した。


画面の中の瑠璃子の、溺れもがくような下手くそな体操姿と邪悪な笑い声が記録されていた。


瑠璃子は顔を伏せた。


その時――。

「お父さん帰ってきたよ〜!!」

階下から母の呼び声が聞こえた。


「嘘でしょ……まだ夜じゃないじゃん」

瑠璃子が弱々しい声を上げる。


「時が来たんだよ。ほら、お父さんにちゃんと説明しないと。自殺未遂のこと。自分の言葉でね。」


瑠璃子は頭の中に、あの9年前の合唱コンクールでの自分の姿を思い浮かべた。


(……できる……かも?)

本当は父親に真っ向から話すのが、

怖くて仕方がない。


だが、あの合唱コンクールで歌った時に比べれば造作もないことに思われる。


そうして俯いた顔を上げて、

雲雀に対して頷いた。


「…………うん。」

瑠璃子は部屋の扉に向かった。

その足は力強く前を向いていた。





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