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山岡の乱(2)

闇夜を照らすぼんぼりの灯りが一瞬で全て消えた。


それは、暗闇と大乱をもたらす合図であった。


「なんだ!?なんだ!?何が起きた!?」

観客席の原っぱは大混乱である。


その時、鼻につく硫黄と糞尿の匂いを雲雀は捕らえた。


ついで、バサバサと羽ばたく音。

大地を轟く怪物が歩いているかのような地響き。





「きぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

畜生の鳴き声と人々の悲鳴が混ざり合う。


豚は噛みつき、火尾烏は突いて、人々に襲いかかった。




今宵、家畜小屋が全て解放させられた。

人間どもへの支配から、彼らは逃れんとする。


それをしたのは他ならぬ山岡とその一味である。


山岡は祭のぼんぼりの電線コードをハサミでちょん切った。


山岡の一味が祭に人々がいって、人通りが少なくなる時間帯を狙って近隣の家畜小屋を解放したのだ。



家畜を飼料などで祭の河川敷まで誘導し、持ってきたネギやニンニクなどを腐らせた生ごみで豚や火尾烏といった家畜のパニックを誘発させた。


パニックを起こした家畜は人々に襲いかかる。


もちろん、主犯格は山岡、実行犯は缶バッチ星二つの手下達、後の缶バッチ星一つの者達は計画が上手くいかなかった場合の保険、彼らがただ歌わないだけでも合唱を破壊することくらいは可能だ。



高橋は山岡の傍ら安全な丘の上パニックの人々を背景に鍵盤ハーモニカを奏でていた。


山岡は闇夜から聞こえる悲鳴と高橋のハーモニカの音をニンマリとした顔で聞いていた。


(瑠璃子の奴どんな顔してるか……それとババアも……暗闇で見えないのが残念だ。)

山岡の頭には顔面蒼白の瑠璃子が浮かぶ。

この夏祭りの運営の一人に携わっているのは、よしこである。 


よしこがこの祭の采配をしたといっても過言ではない。


山岡にとっては、よしここそ憎むべき旧体制の亡霊なのだ。


山岡家が如何にこの街で迫害されてきたか。


山岡家は山岡のその父により街の風紀を乱す者として白羽の矢を向けられてきた。


神谷家はそんな山岡家とも唯一交流がある。


しかし、山岡は知っていた。

表で仲良くしていても今の山岡父の没落の原因は他ならぬよしこの責任である。


山岡家は街の外より来たりし者であった。

山岡家が越して来たのは今から三年前。


山岡父は個人経営の賭博場を経営していた。


この街の数少ない娯楽施設として、重宝されいつも人々の笑顔と涙が絶えない場所であった。 


しかし、この街の有力者に目をつけられてしまい、あれをあらやと賭博場は騒音や子供への悪影響から圧力をかけられて潰されてしまった。


山岡はずっと一家の怨みを晴らすべくこの機械を待っていたのだ。


山岡は満足気に、暗闇から雲雀達の居る仮設舞台の方に目線をやると、ケッケッと同じみの引き笑いをした。


――一方仮設舞台でも笑い声に溢れていた。


雲雀は暗闇の中笑っていた。

耳からは人々の悲鳴、逃げ惑う足音。

合唱なんかよりよっぽど彼には面白い演奏だ。

山岡の配下に下った奴らもクスクス笑っている。


(まさか、こんなことになるなんて………ふふっ………)


初めから雲行きは怪しかったのだ。

しかし、こうも盛大にめちゃくちゃになるとは思ってもみなかった。


怒りや呆れを通り越して、もはや変な笑いが出てくる。


雲雀はこの狂乱を見て、愉快な劇でも見ているかのような楽しい気持ちになった。


(まぁ……準備なかなか楽しかったし、いっか。)


これも後々良い笑い話になる、そんなことさえ考えていた。


だが、一人の泣き声が雲雀の薄ら笑いを沈痛な表情に変えた。

一人の涙が、これは笑い話なんかでは到底ないことを雲雀に思い出させた。

彼女は誰よりもこの合唱の成功を祈っていたのだった。


マリアは暗闇の中で泣いていた。

もう既に合唱は始まってすらいないのにめちゃくちゃだ。

せっかくのこれまでの苦労が全て泡に消えた。

彼女の細い指はまだピアノを弾こうとした余韻か、弱く震えていた。


(こんな馬鹿みたいなことってある……?)

マリアは悲しみから急に変にふつふつと怒りが湧いて出てきた。


慌てふためく大人達に対して、ステージにいる缶バッチ付きの生徒達は笑っているではないか。


小奴らこうなることが全て分かっていたのだ。

雲雀や瑠璃子含むその他の六名の生徒はどうすれば良いのか分からず木偶の坊のように突っ立っている。



(このまま、何もせずこいつらの思い通りになんてさせたくない……!!)


マリアは、今自分にできることを考えた。

それは一つしかなかった。





マリアは鍵盤を弾いた。

高い高音が響いた。

ステージの子供達の笑い声が一瞬止まった。

「よるのかくれんぼ」の伴奏を始める。

もはや誰も観客は彼女の演奏など聞いていないだろう。


ステージの下劣な山岡の従僕はまた笑い出した。

それでもマリアは弾き続けた。


雲雀は何もできずにマリアの演奏を聞いていた。

マリアの演奏は酷いものだ。

音を間違えたり、同じところを何度も弾いたり。

いつもならしないようなミスを連発する。


雲雀はただ、浴衣の裾をぎゅっと握りしめていた。




瑠璃子はマリアの意図を察した。


瑠璃子は一瞬思案した。

(歌いたい……けど……音痴の私だけが歌っても………)


だが、先程のマリアへの宣言が直ぐに思い出された。


――マリアちゃんが一人でピアノ弾くことにはさせない。


約束を守るのだ。

瑠璃子は覚悟を決めた。


胸を張り、大きく口を開いた。





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