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山岡の乱前夜(17)最終

山岡の乱前夜最終!ようやく夜が明けます!

雲雀は職員室を訪ねた。


(ほんとうは音楽室で待っててくれたら良かったけど……)

しかし、瑠璃子は付いてきてしまった。

瑠璃子にして見れば周囲の嘲笑と憐憫の目に晒された、あの忌々しい場所に一人取り残されるのは耐えられなかったのだろう。


(阿久津先生、神谷さんを見て暴れなければいいけど………)


阿久津の荒ぶった神経が既に治まってるとは、雲雀にはどうも思えなかった。


仕方なしに、雲雀は瑠璃子を扉の前に待機させた。


職員室には怒りが抜け切らない阿久津がいた。

鼻を膨らませ、額をピクピクさせていた。

雲雀が阿久津に戻るよう要請すると、応じてくれた。


阿久津は瑠璃子の存在に気づくと忌々しげに睨んだだけで後は見ようとはしなかった。


瑠璃子は萎縮してしまい、ずっと雲雀の袖口を掴んでいた。


音楽室への道すがら、阿久津が何やら雲雀に聞き取れぬ声でブツブツと呟いていた。


それは瑠璃子や雲雀といった生徒達への呪詛なのか自らの人生への諦念なのか、雲雀には分からなかった。


雲雀は廊下を歩く最中ひたすら肝を潰した。


音楽室に戻ってきた時、雲雀はホッと一息ついた。


(水嶋さん上手くやってくれたんだ……!!)

生徒達は元の位置に礼節正しくきちんと並び収まっていた。


気の所為か、雲雀は生徒達に僅かに異様な気配を感じた。


みな、頰がどことなく蒸気している。

特に男子、目がランランと野性的な光を放つ。

しかし、雲雀にはそんなことはそれほど気にならなかった。


マリアの仕事ぶりへの敬意の念で頭がいっぱいだったのだ。


(ありがとう……!!)

雲雀は感謝の念を込めてマリアに笑いかけたが、なぜか目を逸らされてしまった。


そこからは雲雀にとってまさしく悪夢であった。


突然、ある生徒が立ち上がった。

「我々と阿久津先生双方へのもっとも合理的な道を模索した結果、合唱コンクールへの練習は不要と判断しました。」


「自らの自主的な意思により我々は合唱コンクールへの参加を拒否します。」


これを言ったのは、なんと学級委員村中である。


山岡は村中の隣で満足気に頷いていた。


日々教師に立てつくことのない、優等生の代表たる彼すら山岡の軍門に下ってしまった。


阿久津は歯を剥き出しにして、見開きすぎだ目はデメキンのようである。



「じゃあ、先生、俺達これからもっと有意義なことしてくるから。」

山岡が立ち上がって言うと、座っていた生徒達はぞろぞろと立ち上がった。




「あなた達何を言ってるの!!授業を抜け出すなんて許される訳ないでしょ!!」

阿久津が唾を飛ばし、髪を逆立てながら怒鳴る。


「でも、先生だってさっき俺達を残して教室を飛び出したじゃないですか?」

山岡の口調はあくまで淡々としていた。


「黙りなさい!!大人をコケにしないで!!」


「では、失礼します。」

そう言って山岡はニヤリと笑うと、男子連中と一部やんちゃな女子を率いて音楽室を駆け出してしまった。


教室に残されたたのは、もう既におかしな熱から冷めた女子連中と、雲雀、瑠璃子、マリア、そして阿久津の総勢11名。


勇敢な(あるいは運の悪い)11名により練習が再開されたが――。


阿久津はもはや瑠璃子を異分子として歌わせようとはしなかった。

瑠璃子はみんなが歌ってる中しょんぼりと壁から練習を見つめていた。


むしろ瑠璃子は幸運だったかもしれない。


阿久津は究極に機嫌が悪く、

ちょっとのミスにブチギレ発狂した。


普段、怒られることのない大人しい子はみんな泣いた。雲雀も勿論泣いた。

瑠璃子が音痴過ぎて忘れられていたが彼もなかなかの音痴なのである。


瑠璃子が排除されは今、一番の音痴となり阿久津から音痴の罪を糾弾された。


「……よるのかくれんぼ…」

雲雀はボソボソ呟いた。


「違う!!」

阿久津怒り。


「よるのかくれんぼ!!」

雲雀もムキになる。


「違う゛!!!」

阿久津の怒りがチャージされた。


「よ゛る゛か゛く゛れ゛ん゛ほ゛!!!!」

威嚇。


「ち゛か゛う゛ぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」

絶叫。


音楽室の窓から見える校庭では、授業を抜け出した生徒達が楽しげに走り回っていた。


音楽室は、阿久津の怒声と、生徒達の泣き声で阿鼻叫喚としていた。



雲雀は授業を終えると、すぐにマリアに何があったのか聞きにいった。


「いや、それが山岡君がなんか凄そうなこと話てて……高橋が勝手にピアノ引き始めて……そしたら……みんななんか載せられちゃって……」


悲しいことにマリアでは、その後山岡が言った恐るべき計画の具体的な詳細まで理解することができなかったのだ。


マリアがもし山岡の話を理解していたならば、後の最悪の悲劇は避けられたかもしれない。


マリアは混乱していて、彼女の話は要領を得なかったが、雲雀は山岡が原因であるということだけは理解した。



「山岡!?サイテー!!赦せないね!!」

雲雀は壁にゴンと拳をぶつけた。

彼の中での山岡への激しい憤怒が吹きこぼれる。

自分がせっかく苦労して阿久津を連れ戻したのに、骨折り損ではないかと憤る。


「……う、うん。」

マリアは小さく頷いた。



一時間目が終わっても、地獄は続く。

当然、放課後の練習にも一時間目を抜け出した生徒達は参加しない。 


放課後ともなると、一時間目に参加していた女子も数を減らした。




様子を見に来た上級生はカンカンに怒っていたが、かといって雲雀にもどうすることができない。


そもそも阿久津が、ちゃんと放課後どう練習すれば良いか指示を出さなかったため、何の指示を出せば良いか分からない。


マリアが鍵盤ハーモニカで弾いた音のに合わせてみんなが合わせて最後まで通して歌うのをひたすら繰り返していた。


瑠璃子と雲雀は時折それを聞いて評価した。


「みんな、なんかさっきより楽しそう。」


「うーん、音に感情が出てきた気がする。」


しかし、審査員が音痴なので何も信用がない。

二人ともずっと分かっているか分からない顔をしていた。


音楽の授業では、やはり練習を拒否した生徒達の多くは戻っては来なかった。


それでも、罪悪感から戻ってきた生徒は数名いたが、阿久津の狂乱ぶりを見るとすぐに踵を返した。


音楽の授業はずっと地獄で、音楽のある日は授業を休んだり保健室にいく生徒も出て来て、

最期には参加する生徒達は僅か6人になっていた。

   

終に問題になったのか、阿久津は姿を消した。


代わりに校長ウシガエ門が登場し、温厚なウシガエ門の指導の元穏やかに、緩やかに、味気なく、授業が執り行われるようになった為、音楽の授業での苦痛は無くなったのは生徒達にとって幸いである。



放課後の合唱の練習が終わっても、瑠璃子、雲雀、マリアの三人はまだ教室に残っていた。



窓から吹き込む生暖かくて、甘い風が教室の中を通り抜けた。


「雲雀君これ切って。」

マリアが雲雀に色紙とハサミを手渡す。


「うん。」

雲雀はそれを受け取ると、星型に切った。

瑠璃子は地面に寝そべりながら、厚紙にカラーのマジックペンで合唱をする生徒達を黙々と描いていた。


三人が合唱コンクールの宣伝の為のポスターを作っていたのだ。


実行委員でないマリアも助太刀してくれていた。



「……僕実はおやつ持って来ちゃった。」

雲雀がランドセルを弄り、ぱりんこ焼きの袋を取り出した。



「うっわ。いけないんだ。」

マリアが言った。



「いんだよ。これくらい許して貰えないとやってらんないね。」

雲雀はぱりんこ焼きの袋を開けた。



「私も実はヤクルト3本持ってきた。」


「みんなでおやつパーティーしよ。」

瑠璃子も床に放り投げていたランドセルを掴むとゴソゴソとヤクルトを3つ取り出して床においた。



「…………」

マリアは二人の様子をぼんやりと見ていた。



「ほら、水嶋さんも食べて」

雲雀がマリアに袋を差し出した。


「……ありがとう。」

そう言ってマリアは雲雀からひとつぱりんこ焼きを受け取った。



帰り道三人は歌いながら、歩く。

田んぼのあぜ道に三人が通りかかった時、

田んぼで雑草を刈っていた老人は作業を止めた。


「まぁ、合唱コンクールの練習かい、頑張ってねぇ〜」

道行くお年寄り達は三人を微笑ましい気持ちで見ていた。


今では、外よりきたりし街の異分子雲雀一家もいつの間にやら受け入れられている。


雲雀の母親はここいらでもっぱら悪評の山岡の父について、息子から聞いた彼の醜態を話したことで、近所の奥様方とめっきり仲良くなっていた。


こうして、合唱コンクールへの日々は着々と進んでいき、終に恐れられていた時がやってくる。

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