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山岡の乱前夜(14)瑠璃子処刑

歌が始まる。

引き金を引いたのだ。


課題曲「よるのかくれんぼ」

をこんなにも辱め愚劣したものは未だ嘗ていないだろう。

75年前に没した作詞作曲家の月村ほのか氏も、

墓場から這い上がって憤激させる歌声だ。


だが、瑠璃子の歌声が聴くに堪えないと言っても、

瑠璃子が歌えば地が引き裂かれ、雷鳴轟き、

天から恐怖の大王が君臨するわけもなし。


「………がぇ……りィイ〜…み゛チぃ………」

――かえりみ


聞けば不快な気分にはなるが、健康を害するようなこともなく、

大声でもなければ、耳を軽く塞いだら聴こえなくなるようなか細い歌声。


それが逆に悲惨さを増した。


「ひど……りィ……で……あ゛るィぐ……?」

――ひとりで あるいていた


いや、瑠璃子の歌は間違いなく一介の善良な音楽教師を生徒達にとって恐怖の大王たらしめた。教室は地獄に変化した。


「くもが〜?……ぞらを……孥っで……ィ…た」

――くもが そらを ぬっていた


生徒達の反応は大きく三通りである。

 

一、大げさに笑う者。

二、クスクス笑う者。

三、直視を避ける者。


一は山岡、盛大に手を叩いて笑った。

いやらしいところがまるでない。

純粋に面白いものを見たといった様子で、

それはそれはカラリとした爽やかな笑顔であった。


二は山岡の手下三名。

彼らはこそこそ笑いながら、

「かわいとー」

「きもちわりぃ」

「はずかちぃ」

といった工合に小声で囃していた。


三はその他大勢。

彼らは見たらいけないものを見たといった感じで、気まずそうに顔をそらすしていた。


雲雀もその中にいた。

(もう、殺してくれ……)

雲雀は顔を真っ赤にし、ほとんど泣いていた。


肝心の阿久津恵先生はその3パターンにも当てはまらなかった。


盛んにまつ毛をバタバタさせ、頭を掻きむしって激しく揺らし映像美を付け足し、


足をコツコツ鳴らして瑠璃子の歌にリズムを加える。


瑠璃子は阿久津の狂乱にパニックに陥ったのか、声が大きくなり怒鳴りつけるような叫び声になった。


極めつけは――。


「ヨ゙ル゛ノうガグれんぼうお!?????」

――よるの かくれんぼ


「はあ゛ぁぁぁぁああああああああ!???」


阿久津と瑠璃子の夢の共演。

阿久津は、獣の雄叫びを上げてラスサビを掻っ攫った。


音楽のプロフェッショナルの彼女は、エンディングも忘れない。


――コツコツコツコツコツコツ!!

床を踏み鳴らす音。


――バダン!!

ついで、音楽室のドアを乱暴に開ける音。


〜Finale〜


余韻に浸れる素晴らしい演奏。

生徒達の呼吸が一瞬止まる。

観客はあまりの感動に拍手も忘れて唖然としていた。


阿久津女史は教室を出て言った。


瑠璃子の肩は小さく震えていた。

頰には一筋の涙がキラリとした。

阿久津女史を追うんがごとく、それからすぐに瑠璃子も教室をかけ出していった。


二人の音楽家は会場を退席した。

後に残された生徒達は戸惑い、ただ地べたに座っていた。


ただ一人を除いて。


「神谷さんッ!!!!」


雲雀は瑠璃子を追いかけるべく、教室から飛び出した。





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