贅沢は敵!贅沢は敵!贅沢は敵!
透明なトコロテンは汁の中でキラリ光る。
スプーンでひとすくい。
口の中にヒンヤリとした感覚。
つるりとした舌触り。
一瞬だけ、夏の幻のような味が広がる。
「るりちゃん、おいしいそうだね!」
雲雀は瑠璃子のお食事の様子に和んでいた。
(……不味い。)
瑠璃子の目は死んでいた。
熱々の白米にこってりバターを乗せて。
ジュワッと醤油をと垂らすと、香ばしさと背徳感が立ち昇る。
バターの清涼な香りと醤油の匂いを思い切り吸い込む。口いっぱいに頬張りたい。
三食トコロテン令は迅速に施行され、朝食の焼き鮭定食はトコロテンに姿を変えた。
器に盛られたトコロテン、きっかり百グラム。
(……なぁに、しっかり噛めば腹も膨れるさ。)
一口、一口を良く噛み締めた。
(戦時中…今はぽんたろうとの戦時中。贅沢は敵、贅沢は敵、贅沢は敵…)
食べることは生きることである。
最近の瑠璃子は食べるために生きているといっても過言ではなかった。
旨いものを食べている間だけはどんな苦悩も消え去る。
暴食の快楽――麻薬のように瑠璃子の心を一瞬満たしたのち、身体に甚大なる弊害をもたらす。
当然、太る太る太る!!
デブを見て笑った瑠璃子は他ならぬデブによりデブされたのだ。
***
味気ない朝食を食べ終わると力の入らない足で階段を上がり瑠璃子は自室に戻った。
今日の瑠璃子には仕事がある。気落ちしたままではいらない。
勉強机に向き合うとノートを広げ、ペンを持った。
雲雀も後ろから覗き込む。
"作戦を立てろ"
まずはどうにもこうにも作戦!!
自身という広大な領地を治める国家元帥である彼女は有望な参謀とともに会議を開いた。
「こほん、これより我の未来を憂いり、彼の人の悪逆に対抗するため今後の我のあり方の指針を決めよう。何ごとも遠慮なく申せ。」
重大な作戦を立てると思うと瑠璃子の心も躍り湧いてやる気になる。
雲雀が早急に返答いたす。
「閣下、ではお一つよろしいでしょうか?」
瑠璃子閣下は尊大にお応えになった。
「なんだ。」
「外では普通に話すんだよ。」
「………うん。」
瑠璃子は俯いた。
「まずは何よりも目的を決めるべきだと思う。るりちゃんは今何をしたいの?」
「……ぽんたろうに対抗したい。社会でやってけるようになりたい。」
「ぽんたろうっていうのは?」
「あっ、そっか。あんたぽんたろうもしかして分かんない?ちょっと待ってて――」
瑠璃子は無造作に置かれた、通学用リュックサックを引き寄せるとガサゴソと漁った。
「あれ?もしかして無い…?あっ、あった!あった!よし!よし!」
そうして、中から一枚ぐしゃぐしゃになったプリントを取り出す。
しわくちゃの紙を手で伸ばした。
「これ、これがぽんたろう!見てよ、ほら!」
しわくちゃの紙を雲雀に突きつけながら、目をギラつかせる瑠璃子。
学級日誌の四月号にデカデカと載せられた写真。
壇上のマイクに真剣な表情で向き合う男子生徒。
ぽんたろうは新入生代表だった。
ぽんたろうの憎たらしい顔を見て腹立たしい記憶が蘇る。
「いつ見てもきたないつらだねぇ!!」
それに対して雲雀は顔をしかめる。
「不快だよ。僕はどんな理由があろうと人の容姿を馬鹿にする奴は大嫌いだ。」
「どっちの味方なわけ!?黙って共感しときけばいいでしょっ!!」
瑠璃子の怒声が室内に響いた。




