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深夜徘徊

評価してくれた人も好き!ありがとうございます!

――バチン!!

胸ぐらを掴まれ、壁に思いっきり押し倒された

次の瞬間――右頬に衝撃が走った。

「あんたって!!ホントっ…!!どうしようもないバカなんだからっ!!」

「……」

母は泣いていた。

瑠璃子は黙ってその痛みを受けた。


「…お母さん、落ちついてください!!」

まだ新任と見られる若い女性警官が間に入ってなだめようとする。


瑠璃子は崖から救助されて保護されるとすぐに事情聴取を受けた。


天国崖は自殺の名所として自殺者が近年何件も出ていること、遅い時間に一人できて痛みこと、そして警察宛に送ったメールが何よりも証拠となった。


瑠璃子自身隠す気もなかった。

正直に自殺しようとしていたが今は生きる気だと伝えた。

しかし、大人はそれでは納得しない。


未成年ということもあり保護者が呼ばれ、

仕事終わりでクタクタだった母は車で二時間ほどで駆けつけた。

 

涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった母ね顔。

改めて自分はとんでもないことをしでかそうとしていたことに瑠璃子は気がついた。


(お母さん、泣いてるよ…)

瑠璃子は母が泣いているのを見たのはこれで二度目である。一度目はよしこ婆が死んだ時であった。


「お母さん。」

瑠璃子は母の目をまっすぐ見た。


「心配かけてごめんね。でも私気が変わったんだ。今まで適当に死なないから生きてきただけだけど、これからは真摯に生きるよ」


「だから、お願い…安心して!!」


「…えっ」

母は掴んでいた胸ぐらを離した。


瑠璃子はそのまま、母の背に手を回した。

震える母の背はとてもとても小さかった。


***

家に帰ると時刻は23時を回っていた。

帰りの車では母は一言も発しなかった。


自室のベッドに倒れ込むとどっと疲れが押し寄せてきた。



(私は生きるんだ、生きなければならない。)


問題は解決したわけではないのだ。

父からは家につくとすぐに電話がなった。


電話越しでは特に何も聞かれず明日出張から帰ってくるからその時にじっくり話そうとだけ言われた。


普段通りの声色だったが心なしか父の声は震えていた。


母から学校から連絡があったと伝えられた。

あと一週間休むともう留年が決定してしまうらしい。


今日が金曜日であることだけが瑠璃子の救いであった。


手の平の傷がジンジンと熱をもっていたんだ。

警察署で軽く手当てをして包帯をしてもらったが痛みはそう簡単に消えない。


だが、痛みに気が紛れるため瑠璃子の憂いもほんの少し柔らんだ。 


精神の痛みはどうあったって身体の痛みに勝ることはないのだ。


ベッドの中で目を瞑った。

疲れているはずなのに頭は冴え渡り眠れそうにない。

時計に目をやると、時刻は深夜2時。


「……雲雀、分かってんだよ。出てきな。」

雲雀はベッドから離れた部屋の扉の前に立っていた。


「あんたのせいでとんだ大怪我。見てよこれ。」

瑠璃子は扉の方に手を広げて向けた。

殺されそうになったのに特段、怒りは湧いてこない。


「……」

雲雀の表情は暗がりで分からない。


瑠璃子はひょいっとベッドから飛び起きた。

扉の前まで進む。


「外行くからついてきな。」


ここまでくれば顔は分かる。

雲雀は何も言わず口を大きく開けた。


***

静かな夜だった。

街は眠りに包まれる。

白い月が高く昇っている。

ド田舎の住宅街にナンナン虫の鈴のような澄んだ演奏が奏でられる。


どの家も明かりがついていない。

ぽつりぽつりある街灯の光だけが頼りだった。


シンと静まりかえった街に瑠璃子の足音が鮮明に聞こえる。


「不良だな。」

深夜に未成年が出歩くなど警察のお世話になってもおかしくはない。

一日に二度もお世話になるなどまた母を泣かせてしまう。  


しかし、眠れずもんもんとあの狭い自室に居れば気が変になりそうであった。


それに、最近は以前より格段と治安も良いので夜の警察の見回りも減っているのではないかと、

すこぶる自身に都合の良い希望的観測を理由に瑠璃子は外に出た。



雲雀は2メートルほど距離をとって瑠璃子の後ろをついてきた。


これじゃ出会った頃に逆戻りではないか。


「横に並べ。私の背後をとるな。」

振りかえって瑠璃子が言うが雲雀は無言で近づこうとしない。やはりやましい気持ちがあるのだろうか。

雲雀は横にこようとはしなかった。  


目的もなく、ただふらふらと歩くとまるで瑠璃子自身も亡霊になったかのような気分だった。


深夜の街は昼間とは違う顔をする。

火ノ宮の街のときのように、まるで異世界に来たかのような錯覚を起こした。



「……るりちゃん」

背後から声が聞こえる。


「なんだ、喋れるじゃん。」


「うしろ。」


「は?」

言われて後ろを振り向く。

ナンナンの鳴き声が突如として止まった。


カタ…カタ…カタ…カタ…

突然、暗闇から下駄の音が聞こえた。

小さな音がだんだんと大きくなり近づいてくる。


音の聞こえる方向にある唯一の街灯は瑠璃子から三メートルほどの距離がある。


カタ…カタ…カタ…カタ…カタ…カタ…カタ…


音の主は着実にその街灯まで近づいてきていた。


人はやはり死の恐怖に直面した時にこそはじめて生を実感するのだろう。


瑠璃子の身体はまるで石のように動かない。

口の中が急速に乾いていく。


ついにその正体が街灯に照らされた。

猿のような顔が浮かび上がる。

小さな腰の曲がった老婆。


いつの時代か分からないボロボロのモンペ。

白髪頭に玉のついたかんざしをジャラジャラ付けている。


アンモニアの香りが鼻をつく。

よん婆――言わずと知れたこの街のようかい。

よん婆は瑠璃子を見て、黄ばんだ歯をニィっと見せた。

眼は三白眼を超え四白眼になっていた。





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