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ビッグサイズは良い子の夢

――沈黙。それは恐怖。

 


(…気まずい)

瑠璃子は横目で隣に座る彼女を伺った。

さぁやの方は気にもせず、観光雑誌に見入っている。

どうやら、黄金峰のふもとの温泉に行くというのは本当らしい。


(やっぱ、断れば良かった)

黄金峰は瑠璃子にとって、今世への別れを告げるための最期の旅前の余暇である。


この世の未練をスパッと断ち切るために、超最高に羽を伸ばしたいっ!!


存分に気のおける同行者の存在はノイズのように感じられつつあった。




加えて瑠璃子には彼女が分からない。

本来――ギャルと瑠璃子は相容れないのだ。


アメリカの下層階級と中流階級が襲われなければ生涯関わらぬように、生きていて決して交わることのない存在。


(なぜ、誘ったのだろうか…)

瑠璃子には彼女の思考回路も分からない。

唯一の共通点は同じバスに乗り合わせた怠学の不良である点だけ。


その上、先程の瑠璃子はひとりでぶつぶつ話すアブナイ女。

常人なら到底関わりたくないだろう。



(ギャルとはそういう生き物なのだろうか…?)

さぁやへの不審感が拭いきれない。

しかし、実のところシンプルに優しくされて喜ぶ気持ちもあり、心中複雑だ。

雲雀の方から妙な視線を感じた。


「ふんふーん♪」

奴は呑気に乗客の上に重なり、一人幽体離脱ごっこを楽しんでいた。

「あっ…!」

不意に目が合う。


「いやぁ~友達できてよかったね!」

なんとなく嫌味にも聞こえる。

奴が話すことと言ったら先程からずっとそれだ。

最初はさぁやの存在にあんなにビビっていたくせに熱い掌返しである。

 

***

黄金峰につくまでの20分間は永遠のように長く感じられた。

バスの車内では特だって会話はなかった。

バスが停車した。

乗客達がぞろぞろ降りだす。


――黄金峰麓の温泉街「久遠ノ湯」

湯の花の腐った卵の香りが鼻をくすぐった。

軽やかな和太鼓のBGMがかすかに流れている。


「……。」

吸血鬼が家に招かれるまで踏み入れぬように、

話しかけられるまで話せないのだ、瑠璃子は。


チラッ、チラチラチラッ…!!

熱い視線だけは彼女に送る。


(そっちから誘ったんだからなっ!!まさか変な気まぐれで惑わせたんじゃないだろうな!)



(話しかけてくれてもいいんだぞ…!いや、誘ったんだから存分に私を構えよっ!!)

圧倒的上から目線。

不器用なバカ女。

人恋しいのだ、瑠璃子は。


「うわっ、瑠璃子ちゃんあれ見てみて!!」

さぁやが瑠璃子の腕をぐいっと、掴んで何かを指差す。


「へっ…!えっ…!?」



(気安く触りやがって、慣れなれしい。…あっ、あぁぁぁぁぁああ〜!!)

理性と感情が彼女を混乱させる。



彼女の雑念のまったくない笑顔が瑠璃子を浄化した。

ずっとお預けをくらっていたためその効力は凄まじい。 

だらしない犬のような、はたから見ても分かりすぎる喜びの顔をした。



「うひ〜、きんもちわるぅ…!!」

瑠璃子の様子に雲雀、一言。

悪辣な法にも裁けぬストーカーに言われる筋合いはない。


「ほら、見てよあっちにジャンボ火の宮ソフト売ってんじゃん!!」

キッチンカーで軽食と共にソフトクリームが販売されているらしい。




――超巨大、BIGMEGA SIZE!!そびえ立つは巨塔!!

雲をも貫けっ!!


(デッッッッカ!!)

何重もの層をなすソフトクリーム。

瑠璃子の顔より長い大きさのソフトクリームを

見知らぬ爺が店員から受け取った。  


「うち、エンスタであれ見てめっちゃ食べたかったの!!」


「食べよ!食べよ!!」

ワックワクなさぁや。

無邪気に笑う彼女の笑顔――

(かわいい。)


それ見てトキメキ瑠璃子。


(これは彼女の希望を叶えなければ…!!)

使命感を得る。



大きい物は何であれ心踊る。

幼い瑠璃子の夢は超巨大ピザやホールケーキを贅沢独り占めすることだった。


しかし、いつからか彼女の無垢な夢は消えさり、夢は

極力何もせずただひたすら惰眠を貪ることに変わり果てていった。


(今こそ、童心に還るときっ!!)



「わーお、これは食べるしかないね!!おじいちゃんに負けてられない!」


雲雀もけしかけてくる。

言われなくとも無論その気だ。


すかさず、値段をちらりと確認。

――3200円


「…!?たっっっ!?」

たかがアイスの分際でこの値段。

こちらの足元を見てくるようだ。


「うぅん…。強気な姿勢、嫌いじゃないわ…。」

一言、雲雀。

ご感想。



(そんなんだから過疎るんだよっ!!)

一言、瑠璃子。

ただの暴言。特に因果関係なし。


気分が急速に萎えるのを感じた。

「……私はその、遠慮しときます。」


夢とは儚い。呆気なく散る。

意志薄弱系ガール、瑠璃子。


「えぇ~まじ!?」

一瞬さぁやがションボリーノした。


「せっかく出し食べようよっ!!」

さぁやは瑠璃子の腕をブンブン振る。


「もしお金ないんなら、うちが奢ってあげようか…?」


「えっ…!?いや、それはダメです!」



「だいじょうぶ!こう見えてうちお金いっぱい持ってるし!!」


さぁやがプラダの財布を取りだして、ちらりと万札を覗かした。


「……!?」


(どこぞやのお嬢、ひょっとしてやんごとなき子女だったりするのか…?)

ますますさぁやの正体が掴めなくなった。


(とかく、奢られるのはダメだ。)

金銭による上下関係が生じるのだけは許容できない。

この大金、彼女にその気はなくても奢られば最期、対等では居られないだろう。


「だいじょうぶです。」

瑠璃子は強くキッパリと言った。

「私もお金持ってるんで。旅の思い出にしましょう!」


瑠璃子は財布から千円札3枚を取り出した。

瑠璃子には帰りの電車賃が要らないのである。

出し惜しみをする気もない。


「いいの?うちぜんぜん出すけど?」

引かないさぁや。


「だいじょうぶです。逆に自分でお金出した方がおいしくなる気がします!」


「まじ、!?なんで?」


「父と母の努力の味を感じます!!」


「へぇ~瑠璃子ちゃんっておもしろ〜笑」


「えへ、えへへ…」

突然の称賛に瑠璃子はニヤついた。


「へぇ~瑠璃子ちゃんて性格わる〜笑」


(お黙りッ!!)

雲雀を怒鳴りつけてやりたがったが飲みむ。 


「じゃあ、そうと決まれば並ぼっ!!」


瑠璃子はさぁやに腕を引かれて浮足立って列に並んだ。



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