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最初に納豆食べた英雄

飯テロです。



ピータン、納豆、チョマゴリツクナ――

世界には、「最初に食べた奴の正気を疑う」と言われる料理が幾つも存在する。


チョッピもその内のひとつに数えられるであろう。


(圧倒的グロテスク…!!)

瑠璃子が最初に見て思った感想はそれだ。


「わぉ!!」

雲雀も驚きの声を洩らす。

挿絵(By みてみん)


細いミミズが絡み合ったような触手。

大きな一本の本体から放射状に茂るように伸びていた。

白いヌメリとした濡れた体が光っている。


大きな丼いっぱいに盛られた"それ"がチョッピだった。


チョッピの上には天かすと青ネギが振りかけられていた。


(マグロ丼のようなノリなのか…?)


付け合わせには味噌汁とたくあんがつけられていた。


(付け合わせの方が美味しそう。)

(…さてどうやって、食べるか?)


考えあぐねていると、年配の女性―-女将さんが口を開いた。


「いやぁ~びっくりしちゃった!けんな若い子がチョッピ頼むなんて、」 


「余所から来て食べる人みんな固まっちまうけど、次くるときゃぁ、決まってまた頼むんさぁ。」


「ささっ、醤油かけてみんさい。」


そう促され、素直に従うと――ビチビチッビチビチッ!!


「なっ!??」


「動いたっ!?」

瑠璃子と雲雀ともども驚愕した。


ぐったりと丼に収まっていたチョッピがうねうねと動きだしたのだ。

チョッピはまだ生きていたのだろうか。


(くるしい…くるしいよぉ…)


チャッピの声が聞こえてきそうだ。

死ぬ間際の魂の叫びを必死で表現してるかのようだった。


「あっ…あっ…、」

こんな最期は絶対に嫌だ。

少なくともおもちゃのように弄ばれるのは。


「あっはっはっは!!」

瑠璃子の様子を見て女将は手を叩いて爆笑する。


「な?びっくりしたねぇ!!」

「新鮮な証拠さぇ!!」


「新鮮すぎるだろ!!」

雲雀が抗議するが、その叫びは届くことはない。



「…。」

瑠璃子が尚も唖然としていると、店主が口を開いた。


 「…違う、違う、とっくに死んでる。」


「イカの活き造りって知ってるか、それと一緒さ。」


「あっ!!」


そう言われて瑠璃子は合点がいった。

死んだイカに醤油をかけることで、醤油のナトリウムイオンがイカの神経細胞膜を一時的に活性化させる。


そうして、触手が動きだしてあたかも生きているかのように見せる料理である。


要は、ただの神経反応だ。


「良かった…僕、危うく来世でヴィーガンになるところだったよ…」

雲雀が安堵の息を漏らす。


「味には自信がある。食ってくれ。」

瑠璃子は恐る恐る、チョッピを口に含む。


――甘い!!

身はコリコリとして弾力があり、噛めば噛むほどエビのような甘みが染み出てくる。


醤油との相性も絶妙で、米と共に口に放り込むと最高に美味い。


口いっぱいにチョッピを頬張ると、それだけで脳から幸せが溢れてくるようである。  


瑠璃子はガツガツと食べ、すぐにチョッピを平らげてしまった。


「良い食いっぷりねぇ~こっちも気持ちがいいわぁ。」


女将さんが目を細めて言う。

瑠璃子は少し恥ずかしくなり、味噌汁をすすって顔を隠した。


「他にお客さんもいないし、ゆっくりしていってね。」

そう言われたのでお言葉に甘えることにした。


「あんた、余所者だろ?」


そう店主に言われてドキリとした。

そういえば女将さんも先程、余所から来た客と言っていた。

やはり、雰囲気で分かるものなのだろうか。


「はい。」

「そうか、じゃあ、チョッピなんて聞くのも初めてだろう。」

「ハリナメ、ナメッタってんなら知ってんか?」


***

――潰せ。

瑠璃子も亡き曾祖母から固く言い聞かされた言葉である。


ハリナメ――正式名称「Tenebralis agricolaテネブラリス・アグリコラ」 


言わずと知れた害虫。農家の敵。


東日本全土の水田に生息する、暗所性の半軟体系生物。


ハリナメは夜行性のため、瑠璃子は成体は写真でしかお目にかかったことがなかった。


その姿は、黒褐色の硬い外皮に包まれ、無数の細い突起が幾つも生えている。


(醜い!!)

あの醜さを目にしたときの感動――今でも忘れられない。


おそらく、チョッピはハリナメの外皮を完全に剥ぎ取ったものなのだろう。



ハリナメの青いキラキラとした卵を稲で見つけたときほど瑠璃子の胸が高なることはなかった。


プチプチと潰して楽しんだものである。

***


店主は瑠璃子にチョッピについて語ってくれた。


「名前の由来は定かじゃねぇが、一説には"チョッペ"ていう火ノ宮の方言がもとになってんじゃねぇかって言われてんさ」


「チョッペ?」


「ぬめぬめって意味よ。」

横からすかさず女将さん。


「もともとは戦時中の食糧難で食べられるようになったの。」


「…ほぉ。」


「昔の人ってたくましいね!」

雲雀が目を輝かせて話に聞き入る。


おそらく、初めてこれを食べた人は極限までの飢餓状態になっていたのだろう。


そうでなければ、こんなにも醜い生き物を食べようだなんて思わないはずだ。


同時にそれは、ハリナメを食してまでも生き残ろうとする強い意志の証明ではないか。


(…比べて私は軟弱だな。)


ふと、瑠璃子の表情が曇るのであった。








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