追憶
葬儀が終わり49日が過ぎると日常へと戻っていく。
瑠璃子の中にあったもやもやとした気持ちも次第に薄れていった。
そんなある日の夕食時、突然母が見ていたテレビを変えて録画画面を開く。
「録画整理しちゃったら、昔の動画見つけちゃって…。」
動画は瑠璃子が母からクマのぬいぐるみを受け取るところから始まった。
小学生の身体には少し大きなクマのぬいぐるみを抱える。
西洋風の家の綺麗な部屋の中央に、
不釣りあいなローテブルが2つ並べて置かれ、
その周りを子供達が囲んでいた。
誕生日席に座るやや髪の長い少年とよく焼けたぼうず頭の小僧3人、
三つ編みの女の子が座る。
テーブルには小さな紙コップが6つ置かれていた。
動画は再び瑠璃子を映す。
フリフリとした桃色のワンピースをはしたなくひらめかせ、瑠璃子は少年めがけて走り出した。
途中ワンピースのスカートを踏み転けてしまう。
少年は駆け寄り、瑠璃子の身体を起こした。
瑠璃子は彼にクマのぬいぐるみを押し付けた。
少年は嬉しそうにそれを受け取り、瑠璃子の手を引いて席の隣に座らせる。
ケーキが運ばれるとローソクを刺し火を灯す。
子供達が誕生日の歌を元気よく歌い出した。
瑠璃子は一人だけ口を閉ざしていたが、三つ編みの女の子に肘で促されると、
やや音を外しながら人一倍大きな声で歌を歌っていた。
「ハッピバースディトゥーユー、ハッピバースディトゥーユー、バースディトゥーユー、ひばりおめでとう!!」
少年が火を吹き消したところで動画は終わった。
母は私を責めているのだろうか。
今さらになってそんなものを見せられてどうすれば良いのかと瑠璃子は思う。
瑠璃子は夕食を半分ほど残し2階の部屋へと駆けた。
彼女の脳裏に自身の小さい頃の宝箱が浮かんだのだ。
部屋の押し入れを開けると整理していないガラクタが無造作に放り込まれていた。
押し入れの中をしばらく漁ると一つのクッキー缶が出てきた。
歪んでしまいなかなか開かない蓋をなんとかこじあけると、
中には虫の死骸やカラフルなビーズ、トカゲの脱皮した皮、
キラキラぷっくりとしたシール、小さなウサギのキーホルダー、
そして、4枚の未開封の手紙が出てきた。
手紙の封筒の宛先人は―ひばりと。
一つをそっと開封してみる。
「るりちゃん、元気ですか?
新しいクラスで友達はできたかな?
僕がいなくてもちゃんと学校にいっていますか?
嫌なこと言われても友達をなぐっちゃいけないよ。
先生を突き飛ばしたりしていませんか?
最近僕はマジックにはまっています。
自分でもなかなかのレベルに到達したと思う!ぜひ直接ひろうしてみせたい!
もし、夏休みこれそうだったらおみまい来てくれないかな?
そっちの近況も教えてほしい!あと絵も挑戦してみたよ!
まだぜんぜん上手くないけど出来作だから同封するね!
それから、山岡は元気にしてますか?
僕は最近やつの顔をるりちゃんの次に思い出します。
やつのひき笑いとぴちぴちに伸びた服がなつかしいです。
山岡は悪いやつだけど極悪人じゃないから、
たまに構ってやるくらいならいいよ。
でもね、まちがっても山岡なんかのこと好きになっちゃだめだからね!」
他にも当時はまっていたアニメのこと、
秘密基地でこっそり飼っていた猫はどうしているかなどが書かれていた。
手紙と一緒に水彩画で描かれた瑠璃子の絵が同封されていた。
絵の具はにじみお世辞にも上手とは言えなかったが、
暖かな色合いで、背景には向日葵が描かれていた。
瑠璃子は手紙を抱え自身の失った記憶を恨み、
一人部屋の隅で嗚咽をもらした。




