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孤児奮闘

一瞬の光芒がパッと煌めき、瞬く間に消えた。

線香花火のような呆気ない最期であった。


(終わった。)


終わった、二つの意味で。

重大な大仕事をやり遂げた後のような爽快感すらあった。


春の陽気が、柔らかく肌を撫でた。


(…人の終わりとは呆気ない。兎角自分はやり遂げた。)


何やら感傷に浸っているが、瑠璃子が"やり遂げた"と言ったら、


始めの合図と足を開いて腕を広げたことのみである。


(さぁ――存分に抗いな。)


まだ体操をしているであろう同胞に向け、

早くも見物客気取りだ。


雲雲体操は長い。

最初から最後までやるとトータルで4分ある。

もうすでに役目を終えた瑠璃子はやることがない。


仕方なしに、オーディエンスに目をやる。


(揃いも揃って見分けがつかん…)


進学校なだけあって圧倒的メガネ率。 

女はまだなんとなく髪形で分かる。

だが、男となると、一様に同じ顔。

鶏の顔を判別するのと同じようなものだった。


そんな中、異質な鶏を一匹見つけた。


(なんだ、あのデブ。)


下品な小男がこちらををニヤニヤしながら見つめる。


時折、瑠璃子を指刺しながら、隣の者に何か囁いているではないか。


瑠璃子が奴の存在を凝視すると、目があった。

長い間じっくりとお互いを見つめ合う。


小男はその瞬間にんまりとした薄気味悪い微笑みを浮かべた。


――ゾクリ、瑠璃子の背筋に身震いが走る。

デジャヴ、前にも似たようなことがあった気がした。


(……まずいかもしれない。)


瑠璃子の動物的な鋭い感が警報を鳴らした。

胸の中に黒い予感が広がる――。

***

どうやら瑠璃子のチームは選ばれし"精鋭"だったらしい。


どのチームも体操の中盤から終盤にかけて脱落していき、見事合格を果たすのは多くて三名ほどだった。


それに対し、瑠璃子のチームは最後まで五名がステージ上に立ち続けた。


これは歴史的快挙である。

後にも先にも、このチームほど合格者を出したチームはなかった。 


…もっとも、開始五秒で脱落者を出したのもこのチームのみである。


体操が終わると、六名の勇姿を称え、

オーディエンスからの輝かしいスタンディングオベーションが送られた。


拍手喝采を浴びながら、瑠璃子は誇らしげにステージを降りた。


***

瑠璃子の舞台はまだまだ続く。


この学校の体育教師のなんと寛大なことよ。


瑠璃子にも再び皆の場で輝くチャンスが巡ってきたのである。


あれから二回体育の時間があった。

最初に全体で雲雲体操を踊る。


その後に、不合格者の中で希望する生徒がおれば、ステージ上で再テストを行う。


瑠璃子にとっては、体操の振りを覚えられるのは最初の全体練習のみである。


必死に前の生徒の動きを盗み見ながら、動作を真似た。


(…まだ、覚えられてない。今日は危険だ…。今回は見送ろう…)


結局、二回の再テストを、瑠璃子はどちらも参加することがなかった。


その間にほとんどの不合格者が合格を掴みとってしまった。


三回目、四回目でも瑠璃子は見送った。

だが、その中でただ一人挑み続ける者がいた。


――名を新島秋保。

大人しく友達がいなそうな彼女に、瑠璃子は密かに仲間意識を抱いていた。


苦労人で、始めのテストで不合格になってからずっと再テストを受け続けてきた。


いつも良いところで行くのだが、あと一歩届かない。


しかし、再テストの回数を重ねるごとに秋保の動きは洗練され、上達しているのが目に見えて分かった。


孤独な闘いに全力で挑む彼女に、瑠璃子は静かに胸を打たれていた。




五回目の体育の時間。

いつもの体育教師が出張で、代わりに担当になったのは年配の好好爺といった印象の体育教師であった。



いつも通り、全体で雲雲体操を踊る。

瑠璃子は相変わらず前の人の動きを必死に真似していた。


全体での体操が終わると、秋保がステージに進み出た。


(がんばれ…!)

すかさず心の中でエールを送る。

緊張しながらも、秋保の姿を見守った。


秋保の動きにはもう迷いがなかった。

身体が自然に次の動きを理解しているのだろう。


背筋から指のつま先までピンと伸び切っている。


掛け声も堂々と頼もしい。

初めの蚊のなくような声からは見違える成長である。 


そうして、彼女は、ついに――最後まで堂々と踊りきった。


巻き上がる拍手。

瑠璃子は誰よりも大きな拍手を送った。


(おめでとう!!よくぞやりきった!!)

労いの言葉のひとつでも送りたい。


秋保がステージを降り立っても瑠璃子の中には感動の余韻が残っていた。


――体育教師のおじいが口を開く。

「そう言えば、まだ合格していない者が"ひとり"いるな?」


「今、ここでしようか!」

にっこり微笑みながら告げる。






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