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没落(3)怠惰に死す

約束されし時間は、次の週の月曜日――3時間目であった。


「さぁーいよいよ始まりましたぁ!」

「紳士淑女の皆さんお待ちかねの時間!」

「悪しき罪人の断罪ショーの始まりですっ!!」

聴衆がドッと湧きたつ。


――否、瑠璃子は別に法に裁かれるような極悪人ではない。

日頃より小さな悪事は働いている。

信号無視、蟻を踏む、心配してくれた両親に当たり散らす。

――だが、誰もが思い当たる節のあることだろう。


ただひとつ、裁かれるとしたら――彼女は「怠惰」だった。

瑠璃子は今日という日まで何もしなかった。

頭の中ではいつだって今日が来ることなど分かっていたのに。  


瑠璃子は結局雲雲体操を習得できなかった。

誰かに教えを請う勇気もなければ、みんなと一緒にやる気もない。

初めからソロプレイを決め込み自らハードモードを選んだ。

机に置かれた、楔形文字めいた暗号が並ぶ説明書き。


それだけが頼りだったが、それすらも消えた。


席を外してトイレから戻ると、そこにはもう何もなかった。


その時、全ての運に見放された気がした。 


万事が到来したのだ。


もはや、成り行きに任せるしかない。



今にして思えば、紙がなくなったところでどうということはない。


小百合に写真を撮らせてもらうなり、教師に新しい紙を貰うなりすれば良かったのだ。


だが、あの時瑠璃子は確かに安堵していた。


練習することが、できないやむを得ない理由が手に入ったと喜んでいた。


昼休みに一生懸命体操を練習するクラスメイトを横目に、バカなことで時間を潰したなと嘲っていた。


後に嘲られるのは他ならぬ自分だというのに。 


だが、もう終わりだ。

 

瑠璃子はピンと背筋を伸ばした。 

せめて、最期まで堂々としていよう。


どうせ、これから醜態などいくらでも晒すのだから。


歴史に思いを馳せる。


マリー・アントワネット、石田三成、ソクラテス、ロベスピエール。


彼らに自己を投影する。


志を持ってして亡くなった偉人からしたら、こんなバカ娘と一緒にされるなどたまったものではない。


ヤケクソと謎の高揚感をもってして瑠璃子は体育館のステージに乗り出した。

 

***

瑠璃子の輝かしい最期に同席する、名誉ある者は5名。


その中に小百合もいた。


名簿番号順に六名ずつ、ステージ上に出て雲雲体操を披露する。


6名は隣の生徒と1メートルほど、距離を開け一列になって前を向いてならぶ。


当然、一緒に踊っている生徒の動きなど見ることができない。



その、6名の背後に体育教師が立ち、体操をしている姿をチェックする。


抜け目ないチェックにより、ミスが判明すれば、その時点で背後から肩を叩かれ不合格を告げられる。


最後の一人が不合格になればその瞬間に体操は打ち切られる。


だが、一人でも残れば不合格者は待たなければならないのだ。


不合格になった生徒は惨めなものだ。

その後は体育座りして、見物する側の生徒と目を合わせなければならない。



これの、恐ろしいことは同胞の生死を把握できないことだ。


瑠璃子達の前に体操を披露したチームは体操の中盤から終盤にかけて5名が着々とリタイアさせられていき、


最後に立っていたのは唯一人だった。


体操が終わった瞬間、共に戦った同胞は散り自身だけが生き残ってしまったことを知るのだ。


***


瑠璃子達の番だ。

6名がおのおのの配置に着く。

瑠璃子は真ん中だ。

真ん中である者が匙を投げるルールだ。


瑠璃子は口を開く。


「やすめ」

「気おつけ」

「雲雲体操、用意――初めッ!」

はっきりとした美しい声であった。


足を開いて腕を大きく広げる。


――その瞬間。


瑠璃子は肩を叩かれた。

開始、5秒といかないできごとである。

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