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人形の館~迷える人間と館の主~  作者: まくのゆうき


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返却と自己満足(3)

「大変お待たせいたしました」


応接室に戻ったセバスチャンは客人にそう言うと、エカテリーナを彼の正面の椅子に座らせた。

かつてはフランス人形が座っていた椅子にウサギを降ろすと、ちょうどいいサイズだ。

応接室を出る前に用意したお茶とお菓子がまだ残っていることを確認したセバスチャンは、そこを離れることなく、ウサギのぬいぐるみの後ろに立ってそこに控えた。


「あの、改めて確認ですが、ここは……」


彼がセバスチャンに声をかけると、自分の正面に座らされたウサギがそれに答える。


「ここは私の家よ」

「いや、そうじゃなくて……って、クマじゃない?」


声は同じように聞こえるが、見た目が違う。

たしかにセバスチャンはそこにぬいぐるみを置いていたけれど、さっきまで、その声の主はクマだったはずだ。

それが代わってしまったのは自分が潰さんばかりに扱ったかもしれないが、思わずそうしてしまったのには理由がある。

そしてこんな怪しい家の中でこうしておとなしく待っていたのも、あくまでそのクマを確認したかったのであって、ウサギに出てこられても困る。

困惑する彼にエカテリーナは悟ったように言う。


「せっかくだもの、あなたが何をしていてここに迷い込んだのかお話ししてもらえないかしら。それと、クマのぬいぐるみとの関係も教えてちょうだい。ああ、私はさっきのクマの中にいたエカテリーナよ。体を代えてきただけだから気にしないでちょうだい。あなたが気にしているクマさんも連れてきているわ」


エカテリーナはそう言うと、両腕で抱えるように持っていたクマを落とさないようしっかり挟んで前に突き出して見せる。

とりあえず自分が必要としているクマをもう見せないという話ではないらしい。

それならば、そのウサギの言葉に従って、クマを正規の方法で譲ってもらった方がいいだろう。


「ああ、そうなんですね……。迷い込んだ理由はわからないのですが、とりあえずさっきの……そこのクマのことから話せばいいですか?」

「ええ。お願いするわ」


彼とクマの関係がわからないことには対処のしようがない。

それに、彼には無関係に思える話かもしれないが、エカテリーナたちからすれば、それは彼がここにたどり着いた理由に直結する。

彼はきっとクマとのつながりに導かれてここに来たはすだからだ。

とりあえず話してちょうだいとエカテリーナが催促すると、彼はエカテリーナの腕の中にあるクマをじっと見ながら話し始めた。



「あなたはその女の子から取り上げたマスコットをどこかへやってしまった。探していたけれど見つからなくて、そのことを考えていたらここにたどり着いたと。それで失くしたというのが先ほどのクマのぬいぐるみだった。そういうことね」

「ああ、そうだ」


話を聞いたエカテリーナがそれを要約して口にすると、彼はそれを肯定した。

つまり最初にエカテリーナたちが考えた通り、彼はクマとのつながりによってこの館に引き寄せられてきたということになる。

そうなると腑に落ちないことが出てくる。

なぜこの館に引き寄せられてきたのが持ち主である女の子ではなく、少年なのかという点だ。

確かにこの少年は、罪悪感を強く持っていただろう。

でもそれだけでここにたどり着くとは思えない。

そこにこのクマの処遇を考えるヒントがあるはずだ。


「それで、その女の子は今でもこの子が戻っていることを望んでいるのかしら?」


エカテリーナが思いついた疑問を彼に投げかけると、彼は口ごもった。


「それは……」

「どうなの?」

「確認してない」


彼としては彼女から一方的に取り上げてしまったので返したいとは思っていた。

そもそも、ちょっといたずらするつもりでやったことだったのだ。

すぐに返せば問題ないと思っていたが、返す前に失くしてしまった。

気が付いて必死に探してみたものの見つからない。

気を落としながらも外を歩きながらずっとそのことを考えていたら、いつの間にかここにたどり着いた。

そしてこの建物の中に、探していたものがあったのだ。

もう失くすまいとしっかりと握った結果、エカテリーナとセバスチャンに注意を受けた。

それがすべてだ。



「じゃあもし、この子があなたの手元に戻ったとして、渡そうとしている女の子がもういらないと言ったら、あなたはこの子をどうするつもりかしら?」


エカテリーナが次の質問をすると、彼はそこまで考えていなかったといった様子で少し考えてから答えた。


「それは、俺が持ってても仕方がないから……」


彼がどうしようかと考えていると、そこにエカテリーナの冷たい言葉が続く。


「捨てるということ?」

「……そうなるかな」


最終的にはその通りだ。

自分が持っていても使い道はない。

別に自分がこのクマを欲しているわけではないのだ。

けれどその答えを聞いたエカテリーナは冷静に状況を捉え、渡すことに難色を示した。


「そういうことなら、あなたと話すことは何もないし、私にできることもないわ」


その言葉を聞いて我に返った彼は慌てて言う。


「じゃあ、もし受け取ってもらえなかったら、ここに戻す。それじゃあだめか?」


これだけぬいぐるみを大切にしろと言っている人たちの前で、自分には不要だから、彼女が要らないと受け取らなかった場合は捨てると言えば、そういう反応になるのは当然だ。

素直に思ったことを口にしただけだが、それが悪手になったことに気が付いて、彼が慌てて代替案を告げるも、エカテリーナは難色を示した。


「それではだめね」

「どうして!」


彼が思わず声を荒らげると、エカテリーナが見た目に反して冷静な言葉を紡ぐ。


「逆のことが気になるわ。その女の子がもし、要らないけれどあなたの謝罪を形だけでも受け入れなければと受け取った場合、この子はどうなるのかしら?」

「それ……は、わからない」


持ち主の手に戻ったとしてもクマが幸せな生活に戻れるとは限らない。

持ち主が受け取った場合、ただ彼の罪悪感が軽減されるだけで、それにより彼が罪滅ぼしを達成したに過ぎない。

そこにぬいぐるみの幸せはないかもしれない。

誰の幸せを基準に考えるかによるだろうが、エカテリーナが一番に思うのは、持ち主から引き離され、再度利用されるかもしれないクマのぬいぐるみのことだ。

何度も同じ目に合わせ傷を広げたくはない。

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