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人形の館~迷える人間と館の主~  作者: まくのゆうき


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仕舞われた出迎え人形(1)

ヒーローと別れたマサキは、人間としての生活に戻ることを決めた。

それでも少しは実際に人形になるという体験をしたことで、彼らの気持ちに寄り添えるようになるような気持ちが芽生えたし、この経験は先々で活かされるとマサキが前向きにとらえられるようになったようなので、エカテリーナたちも何も言わない。

そして人間の姿での生活に戻ったマサキは、再びセバスチャンの手伝いをする立場に戻った。

セバスチャンは見た目が執事のスタイルだが、やっていることは使用人に近く、男性メイドという感じである。

けれど人形になっている間、自分が作業を覚えることはないのでじっくりと見ていたが、所作や気遣いがとてもうまい。

自分がしてもらったことで改めて学ぶところが多いと理解したマサキは、人間に戻ってより一層セバスチャンについて回るようになった。


「マサキには私の話し相手になってもらいたかったのだけれど、楽しそうだからしばらく様子を見ることにするわ。時間はたくさんあるのだもの」


そうエカテリーナに言われてしまうほどだ。



そんな日々を過ごしていたある日。

応接室に三人で集まっていると、エントランスロビーの方で音がしたとエカテリーナが耳をひょこひょこ動かした。

この屋敷の床には重厚なカーペットが敷かれているので、床で物が転がっても音として聞こえることはないはずなのだが、ことっと倒れたような音がしたのだという。

ちなみにエカテリーナがウサギで耳が長居から聞こえたというわけではなく、主として客人が来ると感覚的にわかるというのが実態だ。


「お客様が来たようね」


エカテリーナが口に出すと、マサキは応接室のドアの方を見て、そうなのかと聞き返した。


「ドアのノッカーの音はしなかったようですが……」


この館に入る時は、確かドアのノッカーを叩いて開けてもらわなければならない。

少なくとも自分の時はそうしたし、この間のヒーローの時もそうだった。

そうでないのなら、勝手にドアを開けて中に入ってきた人がいるのかもしれないと少し警戒する。

そんなマサキにエカテリーナは落ち着いた様子で答えた。


「たぶんお客様が人形なのよ。人間はドアの外から来るけれど、人形たちはエントランスか人形たちの部屋に突然現れることが多いわ。エントランスにいる子はたいてい迷いを解決できれば戻るべきところに戻れる子たちが多くて、迷い込んだだけという傾向が強いわね」

「そうなのですね」


人形が現れる場所は人形部屋以外にもあるらしい。

お客さんが来ると言われた時、たいてい部屋に戻って会わないようにしていたし、自分が見送ったヒーローは人形部屋にいた子なので、こうしてきちんと迎えるのは初めてだ。

あの日から、次のお客様は出迎えから一緒にと決めていたので、これがその初日になる。

マサキが気を引き締めると、エカテリーナが言った。


「とりあえず、お迎えしなきゃいけないわ。マサキ、お願い」

「かしこまりました」


エカテリーナがお願いと言いながら短い腕を上に持ち上げている。

これは抱っこしてくれということだ。

マサキがすぐに返事をしてエカテリーナを抱き上げると、セバスチャンが先を歩きドアを開ける。

そしてその先を見ると、ドアの前に、エカテリーナが応接室で言った通り、人形が一体転がっていた。

正面から転んでうつぶせになっているので、倒れた音というのは、立っていたのがこうなった時のものなのかもしれない。

マサキはそう思いながら、同時に人形を目にして思わず立ち止まってつぶやいていた。


「市松人形ですね」


そのつぶやきをエカテリーナが拾う。


「あら、マサキ、あの子のこと、知ってるの?」


お友達なのかとエカテリーナが聞くので、さすがにそうではないとマサキは説明する。


「知ってるというか……なんでしょう、そういう人形があるということを知ってるというだけで……」

「そう。……あの子って女の子よね?イチマツなんてずいぶんと勇ましい名前がついているのね。この子有名な子なの?」


市松人形は美しい女形の歌舞伎役者をモデルにして作られた人形で、その演者から名前をもらっている。

歌舞伎の演者は男性だから、勇ましい名前であると言われたら、本人にとっては名誉だが、確かに女の子の名前としては少々不釣り合いかもしれない。


「有名かどうかは分かりませんが、昔からそう呼ばれる人形の総称の一つですね」

「そうなの。この子の名前というわけではないのね」


エカテリーナが呼びかけに仕えるかという意味で尋ねると、マサキは首を傾げた。

市松人形は、人形の形の総称なので、固有名詞ではない。

自分で名前を付けて呼んでも問題なかったはずだ。


「それは違うと思います」


それだとマサキに人間さんと呼びかけるのに近い。

間違いではないし、そこに市松人形は一体しかいないので、呼ばれた方は自分のことだとは理解できるだろうが、名前として呼ぶのは少し違うような気がする。

マサキの答えにエカテリーナはうなずいた。


「ちなみに、この子の持ち主になるのってどういう子が多いのかしら?」


お迎えする前にわかる情報を教えてもらおうとエカテリーナが尋ねると、マサキは自宅にいた子を思い出しながら答えた。


「確か、親が子供に買い与えるものだったかな……、女の子のお人形遊び用とか、モデルになった人に似た美人になるように願いを込めて渡されるって聞いたように思います」


マサキの説明を聞いたエカテリーナはマサキの腕の中で上を見上げるように頭を動かした。


「女の子が持ち主のことが多いということね。なのにマサキは詳しいのね」


男の子にも知られているなんて随分と有名な子なのねとエカテリーナが言うと、マサキは気まずそうに言った。


「うちのばあちゃん、祖母が子供の頃に買ってもらったって最期まで大事にしてたんで、家でも捨てられなくて、玄関に飾られてたんですけど……」


話が過去形なので、きっともう家にはいないということだろう。


「その子はどうなったの?」


エカテリーナが聞くと、マサキは目を泳がせながら答えた。


「扱いに困って、人形供養のできる神社に預けました」

「そう。それならその子は成仏できたということね。もしかしたらおばあ様のところに行って仲良く過ごしているかもしれないわ。とりあえずあの子の話を聞いてみましょう」


エカテリーナがそう言うと、足を止めていたセバスチャンが再び動き出した。

マサキもエカテリーナを抱えてその後ろに続くのだった。

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