僕のヒーロー(7)
持ち主が自分に幻滅したから捨てられた。
少なくともこの子はそう考えている。
けれどマサキにはそうは思えない点があった。
少なくともマサキがこのぬいぐるみを手にして喜んだとして、画面にいるヒーローと同じことをこの子に求めるかと言えば求めない。
そもそも実写のヒーローと同じでなければならないということはないはずだ。
とりあえず自分は体を借りてしまっている身だ。
そのお礼としてできることはしてあげたい。
けれどこのままこの話を続けても解決の糸口をつかむのは難しいだろう。
そこでマサキは一度話を変えることにした。
「なあ、聞いてもいいか?」
「なぁに?」
中の子も思うところがあったのか、話を続けてくれる気があるらしく、マサキの問いかけに返事をする。
「自分は気が付いたらこの館の入口に迷い込んでたんだけど、キミはここに来ようとして来たの?」
エカテリーナはあの部屋に人形がいつの間にか増えていると言っていた。
ならばあの部屋にいたこの子に聞けば、どこから来たのか、どうやって来たのかわかるかもしれない。
それを知ったからと言ってエカテリーナがこれから来るであろう人形たちを拒絶するような対策を取ることはしないだろうが、預かる側の主として、何か理由があるなら知っておくべきことだろう。
そんな思いからマサキは尋ねたのだが、中の子は落ち込んだ声で言った。
「違うよ。ボクが持ち主にかまってもらえなくなって、ずっとそのままにされてて、そのうち何も考えなくなって、ふと次に意識を持ちなおしたら、館の他の仲間たちが一緒のお部屋にいたんだ」
少なくともこの子は意識的にここに来たわけではないらしい。
ならば何かのトリガーを引くとあの部屋に引っ張られてしまうような仕組みがあるのかもしれない。
それが何かを解明するのは無理だろうが、エカテリーナやセバスチャンとこれをネタにすれば数日は話に困らないだろう。
マサキがそんなことを思っていると、中の子がぽつりぽつりと話を続ける。
「あの部屋にいる仲間たちは、みんな持ち主に忘れられたり放置されたりしてここに来たって言ってた。だからきっと、ボクもそうだったんじゃないかって、そう教えてくれたんだ」
「そっか……」
分からないままあの部屋に集まっている人形たちは、少なくとも大半が同じ境遇の子である。
だからどうしてここにいるのかわからないと嘆いたこの子に、彼らは親切で自分の体験や多くの先輩にあたる人形たちからの伝聞を伝えたのだろう。
それが少しでも彼の役に立てばと、きっと善意で。
けれどそれを正しく認識するということは、自分が持ち主から忘れられたこと、放置され続けていることを認めるのと同義だ。
そしてこの子は、そうなったことにさらなる理由を求め、結論を出していた。
「ボク、あの子のヒーローとしては失格だったんじゃないかなって思う。だって、ヒーローなのは見た目だけだもん」
ヒーローなのに、持ち主の子が困っていても助けてあげることはできないし、大丈夫だと声をかけることもできない。
気持ちはあっても伝える術がない、ただそこにあるだけのものだ。
「見た目は大切だと思うけどな。その見た目だから、あ、ヒーローがいるってすぐに理解できたんだし」
マサキもエカテリーナのところにいるのが懐かしのヒーローであることはすぐに分かった。
彼を知っているわけではないけれど、戦隊モノと呼ばれる作品で、悪と戦っていた一人だとすぐに確信できたのは、その見た目のおかげだ。
もし中身が正義の味方でも見た目が悪役だったら、まず警戒したと思うと励ますように伝えると、彼は困ったような声で言う。
「そうかな。でもさっきのお兄さんの方が、あの子の理想のヒーローに近い気がするよ」
マサキが彼を見ていたように、彼もヒーロースーツで応接室に入ってきたマサキを見ていたらしい。
マサキはエカテリーナやセバスチャンには何か言われると思っていたけれど、それ以外からあの姿について話を聞かされるとは思っていなかったと動揺した。
しかし彼とはこうして話ができているのだから、今はマサキが主体になっているが、マサキが体を借りるまで、この体は自分と会話が成立している彼が動かしていたはずだ。
当然、応接室に人が入ってくればそちらを見るだろう。
その時彼の目に入ったのがヒーロースーツに身を包んだマサキなのだった。
そして自分と比較して、かっこいいなぁって思ったのだと彼は言う。
しかしマサキは違うと伝えた。
「それこそ見た目だけじゃないのか?元が人間だし、ヒーロースーツ着たら、そりゃあテレビの中のヤツに似るさ。大きさもキミより近いだろうしさ。だけど自分はヒーローじゃないって自覚があるし、そもそもそこは目指してないから。何ていうかさ、心構えが違うと思う」
見た目がそれっぽくても中身が全然伴っていない。
それでは本物のヒーローになんてなれないし、そもそもそう名乗るのもおこがましい。
そもそもあの格好をしていたのも、今こうして人形のヒーローになっているのも、自分の伴わない内面を外見で補おうとしているからに他ならない。
マサキからすれば、持ち主や他の人を大切に思い、その行動ができなくて悔やんでいる彼の方がよほどヒーローマインドを持っているように見える。
ないものねだりかもしれないが、マサキの方こそ彼がうらやましいと思ってしまう。
身体を共有しているからか、マサキは彼になら話してもいいかもしれないと判断して自分の気持ちを正直に打ち明けた。
「子供、特に男の子がヒーローに憧れるのってさ、確かにかっこいいからだと思う。でも、ぬいぐるみって、彼らの勇姿を思い出すためのトリガーに過ぎないんじゃないかな。だから、キミの持ち主も、ぬいぐるみのヒーローに戦ってほしいなんて考えたことないと思うんだ。でも、過去にかっこよく戦ってたヒーローのことを思い出したら、なんか自分たちのために戦ってくれているヒーローという存在がいるんだから、自分も頑張ろうって、そう思わせてくれる。その存在がかっこいいから、そばに置いておきたいって、そんな感じな気がする」
さすがに人間がぬいぐるみに戦えと指示を出したりはしない。
この先、機械や技術の発達で、見た目がぬいぐるみのロボットなんかにそういうことをさせる人間は出てくるかもしれないが、少なくとも子供のおもちゃにそんな仕様は不要だろうと思う。
マサキがそんなことを伝えると、彼はありがとうと言った。
表情は見えなかったけど、頭に響いた声は少し軽く、たぶんにっこり位は微笑んでくれたんじゃないかなとそう感じさせた。
そして会話を終わらせると、どっと疲れを感じたマサキは、そのまま意識を手放すことになった。




