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人形の館~迷える人間と館の主~  作者: まくのゆうき


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僕のヒーロー(6)

慣れない大きさのぬいぐるみと化したマサキは、主にセバスチャンの手を借りながら、どうにかその日一日をぬいぐるみ姿で乗り切った。

一方、慣れているからなのか、似たようなサイズのエカテリーナにも似たような苦労があるはずなのに、エカテリーナからそれを感じ取ることはできなかった。

届かないから取ってとか、あれをしてちょうだいという言葉はよく聞いていたし、セバスチャンが何も言わずそれを実行するので、単に面倒なのかなと思っていたが、実際こうなってみると、やりたくてもできないことがたくさんあるということがわかる。

これまで人間の時は、ほっこりと眺めていたけれど、自分が体験して想像以上に苦労したので、人間に戻ったら、セバスチャンのようにもっとエカテリーナに目をかけた方がよさそうだとそう思った。

結局、今日のマサキはエカテリーナの側に同じくらいの高さの椅子を用意されそこに並べて座らされた。

そこでエカテリーナと話をするだけで、セバスチャンの手伝いをすることもなく一日を終えることになった。

その日の終わりには、セバスチャンがマサキの部屋のベッドの上に自分を置いてくれたので、マサキはそのままベッドで休むことにした。



このぬいぐるみの状態でいるより、人間として自由に動ける方が、多少こき使われても楽かもしれない。

ベッドを転がりながらマサキがそんなことを考えていると、体の中から声が聞こえる感じがした。

頭に響くのとは違って、どちらかというと内臓が振動して、その共鳴で何か言いたいことがあるのだろうと察せられる感じだ。

そうなると、この声は、おそらくこのぬいぐるみのものだろう。


「私に言いたいことがあるんですか?」


マサキが声に出さずにそう伝えようと意識すると、それが伝わったのか、今度ははっきりとその声を認識できた。


「ポク、かっこ悪い?」


声がはっきりと認識できるようになって、その声に乗っている感情も一緒に伝わってきた。

姿かたちではわからないが明らかに落ち込んでいる。


「何でそう思ったのさ」


マサキが聞き返すと、中の声はしょんぼりとした小さな声で言った。


「だって、さっき、しまりがないって……」


それはマサキがこのぬいぐるみに入る前に言った言葉だ。

どうやらマサキの言葉がこのぬいぐるみの心を傷つけてしまったらしい。

ここを訪ねてくる人形の気持ちを理解したいからと大層なことを言っておきながら、最初に関わった子の心をしっかりと抉ってしまっていたという考えに至らなかったマサキは、これではだめだと体を振った。


「ああ……。確かにデフォルメされて随分とかわいらしいなって思ったけど、かっこ悪いとは思わなかったよ」


まずは誤解を解かなければならない。

別にマサキはこの子を見た時すぐにヒーローだと判別できた。

ただ自分がこの年齢で持つかと言われると少し違うなとそう感じただけである。

むしろ園児たちなら、この子を欲しがるのではないかと思う。


「本当?」

「ああ」


マサキの言葉を確認するように小さな声でそう伝えると、マサキはしっかりと肯定の返事をした。



少し落ち着いたところで再度声が質問を投げてくる。


「じゃあ、ボクはちゃんとヒーローになれるかな?」


かっこ悪いわけじゃないなら、ちゃんとすればヒーローとして認めてもらえるかなというが、マサキからすると意図が見えない。


「もうヒーローになってるじゃん」


少なくとも見ただけでヒーローとわかる姿をしている。

自分は普通の人だからヒーロースーツを着たら似せられるかもしれないと思って試したけれど、この子はこのままでもヒーローと認識されている。

なのになれるかなというのはよくわからないとマサキが言うと、中の子は納得できない様子でそれに答えた。


「でもしまりがなくてかわいいって。ボク、みんなが憧れるヒーローになろうって頑張ったのに……」


人気のある戦隊作品のヒーローを模したものだが、見た目は三頭身弱の頭の大きいぬいぐるみだ。

皆がかわいいと言いながら喜んで欲しがる類の商品として生まれたはずだが、芽生えた感情はどうやらその目的に反したものらしい。

しかもマサキが口にしたことをそこまで気にされるとは思っていなかった。


「ああ、なんか悪いこと言っちゃったな……」


マサキがそう語りかけると、中の子がそれに答えた。


「ううん。だって本当のことでしょう?」


相手に聞こえてないから大丈夫と、そう考えて発せられたのが本音であることくらい理解できる。

これまでも、ぬいぐるみとして人間の側に置かれていたのでそういう場面に遭遇したこともある。

だからこそ、余計に落ち込んだのだ。


「いや、まあ、そうなんだけど、子供たちに好かれるようにかわいらしいデザインにされたんだなってだけで、最初に見た時からヒーローじゃないとは思わなかったし、こう、人間の自分から見たら、当然だけど小さいなとか、自分とは違うなとか、そんなことを思っただけなんだよ」


マサキはエカテリーナがこの子の中に入れと言ったので、この子の魂のようなものはここにはないと思っていた。

実際は共存することになったわけだが、そんな事情をマサキが知るわけがない。

だから自分が入るにはかわいすぎやしないかと思ったのだが、それもまたこの子が拒絶されたと感じた要因だったらしい。


「……」


反応のなくなった中の子に、マサキは謝罪の言葉を伝える。


「別に傷つけようとか思ったわけじゃないし、馬鹿にしたわけでもないよ。それでも、ここは人形たちが意思を持ってくるところなんだから、ちゃんと聞こえているかもしれないって考えて言葉にするべきだったかなって思う。ごめん」


マサキの言葉を聞いた中の子は、マサキの謝罪を受け取った。

同じ体を使っていることもあって、マサキに悪意がないことはすでに伝わっていたからだ。

マサキなら自分がここにいる理由のヒントをくれるかもしれないと考えていた中の子は、勇気を振り絞って自分の考えをマサキに伝えることにした。


「お兄さんはそうかもしれないけど、ボクの持ち主はきっと違うんだと思う。ヒーローに憧れてたけど、ボクがあの子の理想のヒーローじゃなかったから、だからボクはここにいるんだと思う」


もしちゃんとしたヒーローだったら、もっと長く必要としてもらえたはずだ。

中の子の言葉からその思いがよく伝わってくる。

しかしなぜ、そのように結論付けたのか。

マサキにはそこが見えないままだった。

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