僕のヒーロー(5)
「マサキは自分をヒーローで覆っても恥ずかしがり屋なのね。それなら慣れるまでこの子にしたらどうかしら?」
エカテリーナは、なぜか自分の横に座らせていた、顔の上半分が仮面で隠されているヒーローのぬいぐるみを指差して言った。
本当であればかっこいいのかもしれないが、デフォルメされて全体的に丸くなっているので、見た目は愛らしい。
子供向けのゲームセンターの機会の中にある物に似ているので、きっと景品の類だろう。
「なんだか、しまりがないですが……」
大きなヒーローのマサキが、エカテリーナに紹介された小さなヒーローを見て困惑していると、エカテリーナは耳をピコピコ動かしながら言った。
「あら、でもそれで恥ずかしがり屋がなくなるならいいじゃない。私だけがぬいぐるみって、なんか寂しかったのよ。仲間ができたら嬉しいわ」
同じ大きさの仲間は歓迎だとエカテリーナは言うが、マサキは困惑する一方だ。
「しかしそんなことが……、そもそも私が中に入るなんて、できるのですか?」
そんなことができるのはエカテリーナだけではないのか。
そもそも自分には魂だけを乗り換える能力などないし、できてせいぜいヒーロースーツを着るくらいだろう。
そう思われたからこそ、これを渡されたのではないのかとマサキが疑問を抱いていると、エカテリーナは足をぷらぷらさせながら軽く答えた。
「ええ。たぶんできるわ。あなたが望めばね」
普通では考えられないことだが、すでにその姿をしているエカテリーナが口にすると、何か問題あるかしらくらいにしか聞こえない。
「そうですか……。じゃあやってみま……す?」
やってみると言ってもやり方などわからない。
思わず疑問形で答えたマサキに、それを肯定と捉えたエカテリーナは言った。
「じゃあ、とりあえずソファーに座ったままこの子を持って。背もたれに寄りかかって目を閉じていてちょうだい。そして手にしているその子のことを意識してくれたらいいわ」
「わかりました」
とりあえず言われるがまま、一度立ち上がったマサキは人形を手に取ると、それを両手に持って再び腰を下ろした。
人形を膝の上に乗せて、倒れないよう両手で押さえたまま背もたれに体を預けて目をつぶった。
そしてほどなくマサキの意識は途絶えたのだった。
「もう目を開けていいわよ」
エカテリーナの声で覚醒しマサキは目を開けた。
「どうかしら?」
そう言われてとりあえず辺りを見回そうとするがどうにもうまくいかない。
まず首が思ったほど動かなかった。
「はい。あ……れ?」
首が動きにくいのはともかく、見えているものにも違和感がある。
マサキはその理由がわからず困惑していると、エカテリーナが言った。
「体が小さくなったし視界も低いと思うわ」
そう言われたら確かにそうだ。
目を閉じる前にソファーに座った時は椅子の上に椅子を乗せているエカテリーナを上から見下ろせる高さの視界だったはずなのに、今の自分はエカテリーナを見上げる形になっている。
そこでようやく、自分が小さくなっているという考えに至った。
「なんか思うように動けないです。首も……」
身体が小さくなっているということは首も短くなっているのだろう。
だから可動域が狭いのかもしれない。
マサキがどうなっているのか確認しようと慌てて動き出そうとすると、エカテリーナがそれを止めた。
「これまでとは違って体が小さいし、人間に比べたらクビも短いわ。ああ、急に立ち上がろうとしないで。手足も短いから着地も難しいと思うし、歩く時は転ばないように気を付けないといけないわ。セバスチャン」
「はい、エカテリーナ様」
マサキを止めたエカテリーナがセバスチャンを呼ぶと、いつも通りセバスチャンがやってきた。
普段も見上げる形ではあったけれど、今はさらに上の方にセバスチャンの顔がある。
マサキがそんなところに驚いている間に、エカテリーナは彼に指示を出した。
「鏡を持ってきてもらえるかしら?」
「かしこまりました」
セバスチャンはすぐに一礼し、そこから離れると、ほどなく卓上ミラーを持って戻ってきた。
そしてそれをマサキが移る形でテーブルに立てて置く。
マサキはそこではじめて自分の今の姿を確認することになったのだが、そこに写っていたのは、先ほど自分が火さに乗せていた人形だけだった。
鏡にはソファーに座った状態の人形が写っていた。
そして意識的にまっすぐ見て、そこにはそれしか映らないのだから、これが自分ということで間違いなさそうだ。
そんなことを思いながらマサキはとりあえず鏡を見たまま手を動かしてみることにした。
「本当に人形ですね。自分が動かした通りに動いてるし……」
自分に何が起きたのかはよくわからない。
けれど今の自分がこの人形になっているのは間違いないようだ。
それにしても本当にこのようなことが起きてしまうのかと困惑しながら動きを確認しているとエカテリーナは体をゆすって楽しそうに答えた。
「そうでしょう?」
何も難しいことはなかったでしょう、そんなものよねとやはり軽く言うエカテリーナに、マサキは困惑しながら言った。
「しかしこれではお手伝いが……」
これでは面倒を見る側ではなく見てもらう側になってしまう。
もともと人形の気持ちが分かれば、彼らの手伝いをできるかもしれないと思って申し出たことなのに、彼ら、特にセバスチャンの負担を増やす形になってしまった気がする。
仕事も教えてもらったのにこれでは仕事ができない。
今更気が付いても遅いが、どうしたらいいかとマサキがセバスチャンを見上げると、セバスチャンは微笑みながらそれに答えた。
「それは私の方で行いますので問題ございません」
「そうですよね、さすがにこの姿では……。すみません」
明らかに対応方法を間違えたとマサキが謝罪すると、エカテリーナが言った。
「謝ることではないわ。あなたの仕事は私の話し相手だもの。いつもと雰囲気が違うから、新しいお客様が来たみたいで斬新だわ」
「そうですか……?」
とりあえずエカテリーナはマサキが自分と同じサイズの人形になって、さらに話し相手になってくれることを喜んでいる。
もうすでに起きてしまったことだし、館の主がいいというのならその言葉に甘えるしかない。
マサキはもう一度鏡を見ながら、とりあえずそう割り切ったのだった。




