迷い人の居候(6)
先週は更新を忘れてしまいました。
お待たせいたしました。
マサキを応接室から連れ出したセバスチャンは館の掃除用具の場所を教える。
どちらかと言えば古い形式の洋館だから、掃除道具も慣れないものを見せられるのではないかと思ったがそうではなく、むしろ見慣れたものばかりがそこに並んでいた。
「基本的に水回りを除く館の中の掃除用具はこちらに置いております。使って戻していただけるのでしたら、マサキ様がご自身のお部屋を掃除するのにもお使いいただいて問題ありません」
セバスチャンの説明にマサキはうなずいた。
館内の掃除はできなくとも自分の借りている部屋をきれいにすることくらいはできる。
今まで押し付けられるのは嫌だったが、なぜかここでできることが増えるのは嬉しい。
同じことをするにしても気持ち一つでこんなに変わるのだなとマサキはそんなことを思っていた。
「とりあえず本日はここまでとエカテリーナ様に言われておりますので、応接室に戻りましょう。申し訳ありませんが、その後はエカテリーナ様の話し相手になって差し上げてください。そのほかの仕事も気になるようでしたら説明いたしますが、エカテリーナ様を優先でお願いいたします」
確かにエカテリーナはマサキと話す時間を作ってくれと言っていた。
マサキの主な仕事は、これまでのことやマサキの知る多くのことを教えることらしいので、掃除ばかりしていたら、こちらは役に立ててる気になっても、館的にはそうではないということになるだろう。
しかしせっかくならできることを増やしたい。
「はい。ありがとうございます。明日もよろしくお願いします」
自然とそんなことを思ったマサキはセバスチャンにそう言って頭を下げた。
それを受けて、では参りましょうとだけ言って歩き出したセバスチャンの後にマサキは続いて、再び応接室に戻るのだった。
「おかえりなさい。待っていたわ」
応接室のドアを開けたセバスチャンに続いてマサキが入ると、定位置の椅子の上に座って体を横に揺らしたエカテリーナがそう言った。
お話の時間はまだかしらと言ったかわいらしい感じの動きに、マサキは表情を緩める。
少し気を張っていたけれどエカテリーナの様子に毒気を抜かれたのだ。
「マサキ様はどうぞお座りください。お茶をお入れしますので」
セバスチャンがマサキに椅子を勧めると、マサキは慌てて言った。
「私がやった方が……」
セバスチャンはすぐにその言葉を制する。
「それは夕食の際にでも」
「はい、じゃあ、お言葉に甘えて……」
さっきエカテリーナを優先するようにと言われたばかりだ。
なのでここはセバスチャンに従った方がいいだろう。
そう考えたマサキは静かにエカテリーナの向かい側に腰を下ろした。
「それでエカテリーナ様、私はいったい何をお話すればいいのでしょう?」
これは話し相手の時間ということになるだろうが、これまでそのような経験はない。
どちらかというと指示や命令のもとに動いていたので、いざ自分から何かしなければならないと言われると、どう動いていいかわからないのだ。
それに、そもそも話し相手と言われてもどんな話題がいいのかわからない。
もしかしたら聞きたい話があるのかもしれないとそう考えてマサキはエカテリーナに確認したのだが、エカテリーナは足をぷらぷらさせながらあっけらかんと言った。
「そうねぇ。実は何も考えてないのよ。適当に話しているうちに知りたい話題が出てきたらそこを詳しく聞こうかしらって程度で。まあ、雑談しましょうというだけだから堅苦しく考えないでもらいたいわ。あなたの好きな物語の話でも何でもいいし、答えられる保証はないけれど、質問をしてくれてもいいわ」
本当に話し相手という立場らしい。
とにかくここには何もない。
だから人の話を聞くのが娯楽なのだという。
「すぐには浮かばないのですが……」
何を話すかマサキが悩んでいると、応接室の外にうっすらと音が響いた。
「あら、お客様が来たみたい」
聞き間違えかと思ったが、エカテリーナがそう言ったので、どうやら音がしたのは間違いないらしい。
「私はどうしましょう」
少なくとも自分の話は中断だ。
とりあえず邪魔にならないようここから出た方がいいのかと尋ねると、エカテリーナはどちらでもいいという。
「一緒に話を聞いてもいいし、部屋に戻っていてもどちらでもいいわ」
先に説明はされていたが本当に選択肢をマサキに与えてくれるらしい。
先ほどすぐに話題を振れなかったこともあり、マサキは何かの参考になればと同席を希望した。
「じゃあ、一緒に聞かせてもらっていいですか?」
「もちろんよ」
そう言うと、薄いピンク色をしたうさぎのぬいぐるみ、もといエカテリーナは、自ら椅子から立ち上がって歩きはじめた。
転がるようにローテーブルに飛びついて、そこを歩き、今度は床に降りると、そこからドアに向かって歩き出す。
耳を揺らしてぽてぽてと歩く姿は可愛らしいが、歩幅が狭いからか、なかなか前に進まない。
そしてドアまで来たが、今度はドアノブに手が届かないらしく、ドアの前でぴょんぴょんと飛び跳ねている。
それを微笑ましくマサキが眺めていると、見かねたセバスチャンがマサキに声をかけた。
「マサキ様、お嬢様の足では移動に時間がかかってしまいます。運んでさしあげてください」
セバスチャンに言われて動揺したマサキに、エカテリーナが言う。
「マサキ、エントランスまで運んでもらえる?」
そう言いながら跳ねてるうさぎを抱えたセバスチャンは、それをマサキに渡した。
「わかりました……」
とりあえず受け取ったマサキはエカテリーナの顔が進行方向に向くように抱き直す。
すると、エカテリーナが右手をバタバタと動かした。
「マサキ、あっちへ行ってちょうだい」
「かしこまりました」
マサキがドアを開けて応接室を出ると、エカテリーナは横に身を乗り出して、その後ろにいるセバスチャンにも声をかける。
「セバスチャン、お客様をお迎えするにはおもてなしが必要よ。一緒に来てちょうだい」
「かしこまりました」
そうして今回は三人でお客様をエントランスから迎え入れたのだった。
そうしてやってきた一組のお客様の相手を済ませ、彼らをエントランスで見送ると、マサキは一度部屋に戻って休みたいと伝えた。
そして抱えていたエカテリーナをセバスチャンに渡す。
エカテリーナと彼らのやり取りから、それぞれに苦労があるのだなと感じたが、聞いているだけで思ったより疲れを感じてしまっていた。
まだこの環境不慣れな上、相手の感情に強く共感したことで、感情が必要以上に揺さぶられてしまったからだ。
けれどそれも静かなところで頭を整理できれば、少し休めば落ち着くだろう。
エカテリーナとセバスチャンは経験から何となくマサキの感情察して深く尋ねることは控え、とりあえずマサキを夕食の時に声をかけると伝えて送り出すと、エカテリーナはセバスチャンに抱えられ応接室に戻るのだった。




