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人形の館~迷える人間と館の主~  作者: まくのゆうき


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厄と形代と天の川の果て(3)

せっかく落ち着いたところだが、そうなると話は振出しに戻る。


「それであなたは、これからどうするの?」

「どうとは?」


エカテリーナが尋ねると、人形はその言葉の意味がよくわからないと聞き返した。


「このままその、命を浄化する流れの中に戻っていくだけでいいのかしら?何か心残りがあるからここに流れ着いたのではないの?」


エカテリーナに改めて聞かれても、人形に思い当たるところはない。

ただ、ここにいつまでもいたところで、埒が明かないし、もし彼らが自分をもとの流れに戻せるというのなら、そうしてもらった方がいいのだろう。

その結果またここにきてしまったり、他のところに流れ着いてしまうようなら、その時に考えればいいことだ。

流れに戻れば、何かしら進展はあるだろう。

それにうまくいけば再び輪廻の中に戻れるのだ。


「わかりません。ですがきっと私は流れの中に戻るべきなのでしょう。そうしてたどり着いた先で私は生まれ変わることができる」


流れに戻って果てに到達したら、きっとこの記憶は失われる。

けれど本来あるべきところに戻るだけだから何も問題ない。

ただそれは戻れたらの話である。


「そうね、そうかもしれないわ。でも、どうやって戻るの?あなたはきっと空にある川を流れていたのよね?」


エカテリーナもセバスチャンもその流れに身を任せたことはない。

だからこうしてここに現存しているのだ。

けれど話には聞いたことがある。

その話を頼りに、実際に流れていたはずの本人に問いかけると、人形は天井しかないけれど、上を見て思いを馳せる。


「そうですね。無数の魂と流れに身を任せていたはずなのですが……、そこから外れて落ちてきてしまったようです」


でもやはり理由がわからないと首を傾げる。

感覚的に普通ではありえないと理解できるからだ。

ただ、忘れられた悲しみなど、本人に強い未練がないことだけは明確になった。

だとすると考えられるのは別の形ということになる。



「話を聞く限り、あなたに未練がないことはおそらく間違いないと思うの。そうなると、この世の誰かにあなたが呼ばれたか、引き寄せられたことになるのだけれど、何か心当たりはあるかしら?」


命を懸けて守った主がこの人形を気にかけている可能性を尋ねるが、人形には心当たりがないという。


「いえ、特には……。私などを呼んでも、どうしようもないでしょう。付喪神くらいにはなっているかもしれませんが、特定して呼び出そうとでもしない限り、流れを逸脱するほど強く引っ張られるなんてことは考えにくいです。それにいくら肩代わりをしたとはいえ、主も無傷ではないでしょうし、何より今もご存命かは……」


自分が流れ始めて随分と時間が経っている。

空の川における時間の流れと、現世の時間の流れには相当な差がある。

それは館に存在し続けているエカテリーナにはよく理解できることだ。

空の川の流れとこの館の時間の流れが全く同じとは言わないが、やはり似たものがある。

ここにいると現世の時間はとても早く短く流れているように見えるのだ。


「そうよね。話を聞く限り、あなたは一人の人間の寿命より長く、川を流れていたように聞こえたもの。大往生したとしても、あなたの主がご存命と考えるのは難しいわね」


だから主がこの人形を忘れた、もしくは思い出したということが理由ではないだろう。

どうにもイレギュラーな事情をお持ちのお客様が多い。

エカテリーナが頭を悩ませていると、セバスチャンが手を上げた。


「あの、失礼ながらよろしいでしょうか」

「セバスチャン、珍しいわね、何かしら?」


とりあえず打開策になる可能性があるのなら聞こうと、人形から許可を得る前にエカテリーナが発言を許すと、セバスチャンは一礼し、お客様に発言の許可を求めた上で意見を述べた。


「お国によっては、ご先祖や、その関係者をお迎えするような行事によって、霊を弔うと聞いたことがございます。それによって本当に霊がそちらに出向くのか、私は存じませんが、そのようなものが、あなた様をこちら側に引き寄せるきっかけになったとは考えられないでしょうか?そういったことにお心当たりなどは?」


セバスチャンに言われた人形は少し考えて、ふと窓の外を見た。

そして青々と葉を茂らせる木に目を止めると、思い当たることがあると彼の方を見た。


「なるほど。今は夏にあたるのでしょうか。だとすると、そんなことをした者がいないとも限りません。ですがその行事は毎年行うものです。形骸化していたはずですし、そんなに強い意思を持って行っているとは考えにくいのですが……」


思い当たることが一つある。

けれどそれは、本来なら毎年行われているものだ。

きっと形だけとはいえ、その風習は多くの家に残っているだろう。

けれどそれならば毎年、この館、ないしは主の、もしくは子孫の家に自分は引き寄せられていたはずだ。

しかしこれまでその経験はなかった。

だからきっかけはセバスチャンの言う通りなのかもしれないが、なぜ今なのか、今回だけどうしてそうなったのかの説明にはならない。

そんな話をするとセバスチャンは自分の意見が正しいならとその先の仮説についても話をする。


「その思いを強くするような出来事が、彼らに起きたのかもしれません。それこそ、あなた様が主とお呼びになっていた方が大往生なされ、その方に近しい者が強い思いで迎えの儀式を行った可能性も考えられましょう。そうだとしたなら、主とあなた様の繋がりがそれだけ強固なものであったと、そういうことになるかと思います」


セバスチャンの言葉に人形はうなずいた。


「もしかしたら順調に川を流れていたけれど、その間に長き年月が経ち、主が寿命を迎え、主の子孫が先祖を呼んだ際、その厄を多く抱えた私も、迎え火で一緒に引き寄せられかもしれないですね」


ここまで重たい厄を負う前に、別の厄も肩代わりしたことがある。

ただその厄は大きなものではなかったため、それだけで形代としての役目が終わることはなかったというだけだ。

最期の印象が強かったけれど、実は抱えたのがそれだけではなかったことを人形は思い出していた。

流れに身を任せるようになってから意識したことはなかったが、数人の厄を抱えているのだから、その誰かに強い思いを持っている子孫がいても不思議ではない。

もしくは誰かの回忌を迎えたタイミングで、そこに参加する人数が増えたことが引金になった可能性もある。

考えれば考えるほど、セバスチャンの意見の方がしっくりくる。

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