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人形の館~迷える人間と館の主~  作者: まくのゆうき


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厄と形代と天の川の果て(1)

その日、エカテリーナとセバスチャンは、人形たちが山となっている部屋の様子を確認していた。

あまり減ることはなく、むしろ増える一方の部屋を見てため息をつくところまではいつも通りだが、その山の中に経路の違う子を見つけたエカテリーナは、一つの人形を指して言った。


「あら?あそこに珍しい子が来たみたいね」


エカテリーナが丸みのある短い腕を伸ばした方をセバスチャンが見ると、確かにそこには違う空気をまとった人形が混ざっていた。

ここにいる人形は古ぼけたものが多いけれど、その子はそういったものとは違う。

体中に傷があり、服も焼けたのか裂けたのか、そんな跡が無数に残されていた。

もしかしたら何かのトラブルがあってそこから逃げ出してきたのかもしれない。


「気になりますか?」


セバスチャンに聞かれたエカテリーナはすぐにうなずいた。

それが原因でもし他の子に危害が及ぶことがあってはならない。

害意のある者はそもそもここにたどり着けないのだから、問題はないと思うが、事情は知っておきたいとエカテリーナは言う。


「そうね。他の子とは違うようだから話を聞きたいわ。連れてきてちょうだい」

「かしこまりました」


セバスチャンはエカテリーナから指示を受けると、すぐその人形を山の中から拾い上げた。

そしてエカテリーナと同じように抱え上げると、部屋を出て、とりあえず応接室へと移動するのだった。



応接室に着いたセバスチャンはとりあえずソファーに人形を置いた。

いつもならエカテリーナをすぐに反対の席に座らせるが、人形の反応がないことが気になったのか、エカテリーナはテーブルの上に着地すると、そこからじっと人形を見た。


「それにしても近くで改めてみると、随分ボロボロになってしまっているわね、可哀想に……」


動く気配のない人形を見てそうつぶやいたエカテリーナにセバスチャンは言った。


「では私が繕って差し上げましょう」

「そうしてあげてくれるかしら?」

「では裁縫道具を用意いたします」


セバスチャンは用意をすると言うと応接室を出た。

人形は動ける状態ではないのか、その気がないのかわからないが、動いたり話したりする様子はない。

エカテリーナはとりあえずセバスチャンが戻るまで、テーブルの上からのぞき込むようにその人形を見つめていたのだった。



セバスチャンは戻ってくるとエカテリーナをいつもの席に座らせた。

そしてテーブルに裁縫道具を置くと、普段は客人が据わるソファーに腰を下ろし人形を抱える。

セバスチャンは人形をじっくり観察して、その服を繕い、体をできる限り修復しはじめる。

そして縫物をしながら体を見ていたセバスチャンは、思うところがあったのかそれをエカテリーナに告げた。

エカテリーナはその言葉を受けて、どうしてこの子がこのような状態になっているのか納得した。

けれどセバスチャンの言ったことが正しかった場合、この子がここにたどり着いてしまったのは不自然だ。

その解明はこの子が話せるようになった本人に確認するしかない。

セバスチャンはエカテリーナと話をしながらも手を休めることはせず、そのまま作業をやり遂げた。

人形をそれなりに修復し終えると、セバスチャンは人形をソファーに座らせる。

そして、この道具は不要ですねとそう言って立ち上がり片付けに入った。

人形はセバスチャンによって修復されたからか、きちんと座った状態を維持している。

まるで眠っているかのようだ。

そんな人形が目を覚ますのをエカテリーナは黙って待つ。

時間はいくらでもあるので、待つことくらいは大したことではない。

ただ、この子からどんな話が出てくるのか、エカテリーナはひそかにそこだけを期待していた。



「ここは……?」


怪我で意識をなくしていた、というか自分は死んだはずだとそう思っていた人形は、目を開けてあたりを見回すとそうつぶやいた。

人形の正面にはウサギを模したぬいぐるみが座っている。

そしてつぶやいた自分の声を拾って、ウサギが答えた。


「ここは迷える人形やぬいぐるみたちが集まる館よ。人間たちはこういった場所を人形の館と呼ぶみたいね」


人形ばっかりがいるからというのもあるが、エカテリーナがフランス人形の中に長くいて、主を名乗っていたからというのもある。

今はウサギなので、その半分の条件は消えてしまったが、ここに人形たちが集まることは変わらない。

人間だって滅多に来るものではないし、過去に来た一人がそんなことを言ったから、都合上使用しているのだが、これがよく通じるのだから不思議なものだとエカテリーナがそんなことを思いつつ説明すると、その子もその説明だけですぐに納得した。


「ああ……そんな場所の話は……聞いたことがある気がします。ですが私は特に未練など……」


人形はそう言いながら、自分の体を見下ろした、

そしてその目を見開くと愕然とした表情に変わる。


「私は確かに主の代わりとなって、そして焼かれたことによって天の川を流れていたはずなのに……、まさかそちらの方が幻覚だったのか……」


きれいにされた自分の体を見て呆然とする人形に、エカテリーナは聞いた。


「やはりあなたはどなたかの形代なのね?」


エカテリーナの問いに、人形はその通りだとうなずいた。


「はい。主様の形代として、役目を果たしたはずでした」


だから主の元を離れることになったのだと、人形は語る。

本来が形代ならば、もしその代わりとなる相手に何もなければ相手の側についていられるはずなのだ。

こうして離れているのは形代としての役目を果たせた証拠。

主の厄をこの身に負った証であるはずなのに、いくつもの違和感が残っている。

しかし意識が戻ったばかりだからなのか、別の理由があるのか、とにかく理由は全く思い浮かばない。

本人自身、わからないことが多すぎて困惑するばかりである。


「そう。そうなると、あなたにはここに来る理由がないように思うのだけれど……」


あくまで忘れられてしまったり未練があったりした子が立ち寄る場所であって、何の迷いもないのならここに来る必要はないはずだ。

けれどこの人形はなぜかここにいる。

迷子という可能性もあるけれど、川の流れに沿って流されていくだけなら、それに逆らわなければ、迷子になどなることはないし、考えずとも本来の目的地に着けるはずだ。

それなのになぜ川の流れから外れることになったのか。

エカテリーナと形代の人形だけではなく、セバスチャンも一緒に首をひねることになった。

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