8 魔力
前世の世界であるイルバニアに転移して、頑張っている七瀬。
ゆっくり進んでいるお話です。
どうぞよろしくお願いします。
とりあえず剣は貸してもらい、ずっと身に付けて置き、暇さえあれば素振りすることにする。
勇者のナーセルの時の剣のイメージを忘れろって言われても、それは無理だ。
もう魂レベルで染みついている。
間に合わないことはわかっているが、少しでも基礎というか体力というかそういうものを上げる努力をするしかない。
「痛っ!」
剣を握る左手のひらにひどい肉刺ができ潰れかけている。
右手のひらにも水ぶくれから皮がむけたところがある。
布を裂いて巻き付けると、また、素振りを始める。
「七瀬、少し休んだら」
心配したのか和也が部屋から私を呼ぶ。
王城の一室。
私はベランダで素振りを続けていた。
「もう少しっ!」
ナーセルの記憶から肉刺が潰れても痛くても素振りを続けていれば、そのうちに皮が硬くなり、乾いて、痛みがなくなることが、経験でわかっていたからだ。
部屋に戻ると和也が心配そうにこちらを見ている。
私は剣を自分のベッドの方へ持って行き、置いた。
カタカタと台の上に置くときに手が震えた。
そのままベッドに座りこむ。
「手、見せて」
和也に言われて手をつかまれるが、拒む元気も力もなかった。
「ひどいな……。痛いだろ」
和也が聖魔法を発動させた。
「! 元に戻すのはやめろ」
私の悲鳴にも似た言葉に頷く。
「大丈夫だよ。疲れと傷を少し直すぐらいにしておく。
元に戻すわけじゃない、大丈夫だ。七瀬の努力は無駄にならないよ」
「ほんと?」
「うん本当」
私は和也の言葉に涙が零れた。
努力しているって言ってくれて、うれしい。
「何で泣くの?
そんなに痛い?!」
「ううん、自分が頑張ってることを和也が認めてくれたのがうれしい。
勇者ナーセルの時まで強くなれっこないのは、わかってる。
でも、頑張りたい……」
私は情けないけれど、できるだけのことをしたいと覚悟を決めている。
たぶん、和也といるにはそれだけしても、一緒にいられないかもしれないけど……。
「七瀬、僕は七瀬から離れないよ。
ずっとそばにいる」
和也がにっこり笑ってくれて、私は少し落ち着いた。
手のひらの震えと痛みは良くなっていた。
「ありがとう、和也」
私の手を握りながら和也が言った。
「七瀬、魔法をやってみない?
ナーセルは魔法の要素がなくて、最初からやらなかったけど、七瀬には魔法の力があるよ」
「……本当?!」
「うん、手を握ってわかった。
聖魔法とは違う魔力がある。
聖魔法の魔力と……。これは、魔族の魔力?」
「魔族の? なんで……」
「うーん、魔王を封印した時に魂が少し混じったのかもしれないね」
「えっ?」
読んで頂き、どうもありがとうございます。
毎日投稿でゆっくり進む予定です。
これからもお付き合いいただけたらうれしいです。