36 存在意義
和也に抱きしめられながら、好きだと言われても、ずっとずっと好きだったと言われても、どこか遠くから言われてるみたいな……。
私の言葉も何か空中を滑っていくかのように実感が伴わない。
もう私は『勇者』ではないのだから。
過去に『聖女』であって、現世で『勇者』になろうとしている君の隣にはいられないんだよ。
そのための努力をしようとしたこともあったけど、もう無理だ。
新しい涙が目から湧き上がり零れる。
もう目のまわりがひりひり痛い。
何で泣くの、私。
もうあきらめたのに、なんで悔しいとか、思うの、バカ!!
くっそー、イルバニアに来てから、気持ちがおかしい。
それは和也にも言えるか……。
イルバニアに来て、和也が私より何をしても強くて上手で……、あれ?
私、自分の存在意義を和也より強くてしっかりしてて、彼を守れることだと思っていたんだ……。
和也は自分の前世を教えてくれた後、私に言ってくれてた。
『ここは魔法がない世界だから。
七瀬はかわいい女の子で、僕は男の子。
今度は僕が七瀬を守るよ』
私、なんて言ったっけ。たぶん、それを否定するようなことを言ったね。
だって、ナーセルの、前世を思い出しちゃった時でもあるから。
『僕は僕で七瀬を勝手に守るから』
和也は9歳の時の言葉の、その通りにしているだけだったのかもしれない。
お互いがお互いを守り合うという関係で良かったのかもしれない。
それは、和也だけが強くなっても、変わらない……のか?
「私は、私にできることをすれば……、和也のそばにいられる?」
「うん、守るとかそういうんじゃなくて、ただそばにいてくれるだけでいい。
でも、七瀬は性格というか性分というか、そういうのちょっと苦手っぽいのわかってる」
……はい?
「だけどさ、そんな嫌がることないじゃん……。
僕の、僕の……、恋人で愛する人になってよ。
勝手に自分の考えで動き回るんじゃなくて、僕と話をして、お互いの気持ちを確認してから、一緒に生きて欲しい。これ、そんなに変なことかな……」
「嘘ついて……、キスを強要してた人に言われたかないわ」
「あ……、それは本当にごめん」
私はすっかり涙も引っ込んだ。
和也と目が合った。
いつもの和也で……、大好きな、いつも落ち着いていて穏やかな和也だ。
私は頷いた。
「わかった。
私は和也のことを好きだよ。
ナーセルの記憶というのも少しはあったかもしれないけど……、ナーセルはカージュを本当にただただ守りたかった人なんだ。私のこの、和也に対する気持ちとは全然違う……」
和也も頷いた。
「うん、僕もそうだ。
カージュは……、ナーセルのことが好きで……、でも、それでナーセルを縛りつけたくなくて。
僕は反対に、七瀬を僕から離れていかないように縛り付けようとした。
前世も勇者も聖女も利用して。
本当は今の僕が七瀬を好きだと、愛してると伝えれば良かっただけなんだ……。
ごめん、本当に苦しませて、ごめん」
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