34 拒否 ※和也視点
向こうのバース、ノアという名のふたりが、僕をメルティトから引き離そうと手をかけるが、メルティトはそれを制して笑った。
「今は君が『魔王』みたいだな。
前世の私は、聖女カージュを求めて拒否されて、暴走したが……。
今度は『聖女』だった君が『勇者』に拒否されるなんて、人生は何が起こるかわからないものだな……」
僕はメルティトを睨みつけた。
「僕は、確かに、聖女カージュの記憶を持つが……。それは……、関係ない……」
「うん、カズヤもななせちゃんも、もう前世とは別人だということがよくわかった。
私も地球で小さな少女に転生して、そして、この世界に戻ってきて……、私だけはたぶん前世を改めてやり直す必要があるのだろうな。
君達は前世をやり切って、次の生をもう生きてる……。
ノア、悪い。
ななせちゃんとカズヤを会わせて話をさせてやりたい。頼む」
ノアと呼ばれた黒髪の男はため息をついた。
「私に失恋しろと」
「すまん、ななせちゃんが、あんなに泣いている」
ノアはさらに大きなため息をついた。
「こい、カズヤ。ナナセはこっちだ」
「でも、近づくと姿くらましで逃げられる」
「さすが、ナナセ。やるときゃ、とことんやるな」
ノアがふっと笑った。
歩き出したノアについて部屋を出る。
「ナナセとはウルティカの街で会った。
すごくまっすぐで信用できて……」
ノアが話し始める。
僕は歩きながら聞いていた。
「料理もうまくて、よく考えて行動して、人に優しくて、でも、自分をしっかり持っていて……。
すごく特別な子だ。
お前が捕まえ損ねるのを願うよ。ほんと」
「悪い……。
でも、僕の方がずっと前から……」
「好きだと? 傷つけてきたのに?」
「……傷つけてた、つもりはなくて……」
「今回、メルティトに言われたから、一度だけ協力する。
でも、次はない。
ナナセは、屋根裏に隠れてる。
誰にも泣かれてるところを見られたくないんだな。かわいそうに。
ナナセに私が声をかける。
その時に……、とても不本意だが……、ナナセに制約魔法をかける。
姿くらましが一時的に使えなくなるはず。
ただ、ナナセは魔族魔法がかなり使えるようになっているぞ、いつまで私の魔法で抑えていられるかわからない。言いたいことはさっさと伝えることだ」
「……ありがとう、ノア」
ノアが黙れというように、指を口の前に立てた。
そっと階段を上って行き、木の小さめなドアを開けるとまた急な階段があり、それを静かに上ると少し埃っぽい、物置のような部屋に出た。
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