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32 ひとりの女の子

「あいつが……、ノアって奴が、相手?」


 和也が庭でふたりっきりになったなと感じたとたんに吐き捨てるように言った。

 和也らしくない。


「相手って……、そうだね。

 ウルティカの街で仕事に誘ってくれて、2~3日一緒に過ごしただけなんだけど、その時から私のことを気に入って、大切に思ってくれてたみたいで。

 ここで再会するなり、かわいい、好きだと言ってくれたよ。

 とてもうれしかった。そんなこと言われたの、本当に生まれて初めてだったし。

 その時に、思ったの、和也とのこと。

 本当にごめんね」


「何が? 何がごめんね?」

 わけがわからず戸惑う和也。


「私のために、私が強くなりたいって言ったからだよね。

 好きでもない男みたいな女と、魔法の練習でキスみたいなことをしなきゃいけないなんて苦行以外のなにものでもなかったろうにって。

 でも、そのおかげで、私はメルティトを助けることができたし、感謝はしてるんだ。ありがとう!」


「好きでもない……、女?」

「うん、本当に申し訳ないと思ってる……。 

 でもさ、私ももやもやはしてたんだよ。

 和也は和也で嫌な思いしてたかもしれないけどさ。

 私は女としては……、練習って理由だけでこんなことをするのは……。

 でもお互い様だったわけだし。

 本当に好きだって言われてキスしてるんなら、どんなにいいかって……。

 だから、お互い、あの練習のことは忘れよう!」


「忘れるって……?!」

 和也の声が小さくなる。


「ああ、だから、シンシアには言わないようにするってこと。

 ふたりは『勇者』と『聖女』でお似合いだよ!

 ただの幼馴染の、前世が男の、しかも『勇者』とかいう変な女がそばにいない方が、ふたりのこれからにはいいと思う!」


「な、七瀬は……、それで、その、ノアと結婚するのか?」


「うーん、それはわからないな。

 今はわからないし、考えられないから断ったけど……。

 待ってくれるって。

 今でもさ、ふとした時に和也のことを考えちゃうことがあってさ。

 だから、頑張って忘れるよ。

 和也の幸せのためなら、できる。

 和也はただの魔法の練習だったかもしれないけど……、私は、初めてのキスが、和也で良かったよ。

 ありがとう。シンシアとお幸せに!」


 私は精一杯の自分の気持ちを伝えて、笑った。


「七瀬! 僕は!」


「何も言わなくていいよ。

 もう前世も幼馴染だったことも、私の初恋だったことも、終わったこと。

 お互いそんなことに縛られずに生きていこう!」

「七瀬、話を聞けよ!」

「聞かない! 私はこれ以上傷つきたくない。それに和也を困らせたくないから! じゃね!」


 私は魔族魔法で姿くらましをした。

 

 この時のために練習したんだ。

 聖魔法じゃ、追われちゃうからね。


 私は、城の中の今の私の部屋に出現した。

 用心のため、もう一度姿くらましをして、城の一番上の屋根裏部屋へ移る。


 あー、最後に言いたいこと、伝えたかったこと、お礼を和也に言えて良かった。

 身体から力が抜けて、へたり込む。


 和也に久しぶりに会えて、うれしかったな。

 そう思ったら、目が熱くなってきて、涙が湧き出るように零れてきて、笑いながら泣いてしまった。


 何も持ってないひとりの女の子として生きる。

 うん、前世も地球でのことも全部、ここで忘れなくちゃ。

読んで頂き、ありがとうございます。

次から3話ほど和也視点が続きます。

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