26 温かい光
部屋に入るとドアが閉められ、ひとりになった。
家具とかカーテンとか古くはあるけれど、きれいに手入れをされ、掃除されている。
ここにも黄色の丸い光がふわふわ浮いていた。
私はその光のひとつに手を伸ばして抱きかかえてみる。
「温かい……」
前の時、まだナーセルの時……、メルティトの話を聞けていたら、話し合う機会を設けていたら、今のこの世界は変わっていたのかもしれない。
あの時は、カージュの事ばかり考えて、生贄にされる乙女を、王女を救い、国を救うのだとばかりに……。
ドアがノックされ、私は光を空中に戻した。
こころちゃんとメルちゃんとバースさんともうひとり女性が入ってきた。
使用人らしくお茶のセットの乗ったワゴンを押している。
侍女のラルダさんというそう。お茶を入れてくれた。
メルちゃんは少し怒ったような表情。
不機嫌を隠さない声で話し出す。
「あー、ななせちゃん、こころちゃんを助けてくれて……、ありがとう。
こころちゃんは魔力を持たないから、探すことが難しくて……、助かった」
「いえ、気がつけて良かったです」
「それで……、バースから聞いたのだが、聖魔法が使えるが、使うと転移魔法を使われるのではないかと?」
「展望タワーのこと覚えていますか?
メルちゃんがあの場をイルバニアと同じ魔法が使える空間にしましたよね。
そして和也が聖魔法の結界を発動した。
どうやら、時空の歪みで地球と繋がっているみたいなんです、このふたつの異世界同士。
そこに黄色い魔族魔法、メルちゃんのね、と和也の聖魔法を感知した魔法使いが……」
「転移魔法を送り込んできたということか……」
私は頷いた。
メルちゃんが考え込みながら話を続けた。
「それで、私に聖魔法を使うと、それがまた起きるのではということか……。
それなら、発動する前に魔法陣を出ればよい。
それとも、利用して、使者でも送らせてもらうか……」
メルちゃんがニヤリとしてから、言葉を続けた。
「……ななせちゃんは、勇者ナーセルの記憶というか、魂を持っているのだな……」
「すべて思い出してはいませんが……、今、この魔王城に来て、当時の……、俺達が自分の都合でしか物事を捉えていなかったのでは思った。それは申し訳ない」
「いや……、私も聖魔法で一度だけ私を癒してくれた聖女カージュに、もう一度会いたいがために……。
結局、断られて、怒りで魔力を暴走させ、戦いを挑んでしまったのだ……。
そちらだけを非難するつもりはない……。
そうだな、転移魔法陣が送られてきたら、バース、使者として行ってくれるか?」
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