21 出奔 ※マーティス視点
魔法使いマーティスの視点です。
前世ではカージュとナーセルの同世代の仲間でしたが、今は先生みたいな感じです。
魔王国の様子の報告を皆で確認。
ナナセとシンシアとマイネとレオンの成長の様子やこれからどうしていくかなどの話をした次の日の朝、カズヤが青い顔で私を訪ねてきた。
「七瀬がいない!!
きっと昨夜からいなかったんだ!!」
かなり取り乱していて、ぶっ倒れそうな様子だった。
何故、ナナセが出て行く?
思い当たることが全くない。
「……もしかしたらメルティトが?!」
カズヤの言葉に私も慌てそうになったが、昨夜から今まで王城付近で魔族魔法を感じたことはない。
そう伝えるとカズヤはがっくり座りこんだ。
「僕もそう思います。
ということは、やっぱり……、七瀬は自分から出て行ったということ?!
なんで?
だって、七瀬は……?
なんで?」
私はマイネを呼び、昨日変わったことはなかったか聞いた。
マイネはカズヤをちらっと見てから話し出した。
「最近、ナナセは城の外のこと、街やギルドや、お金のこと……、どんな物がどんな店で、どのくらいの値段で売られているか……などすごく知りたがってた」
「それを教えた?!」
カズヤがマイネに掴みかかる。
マイネが襟元を掴まれたまま言った。
「ナナセにずっと教えないつもりだったのか?!
王城の中だけに閉じ込めて!」
「だって、七瀬は、メルティトに『勇者』だと狙われてる!」
「……ナナセと話したことがあるんだ。
このままカズヤがどんどん強くなれば、カズヤが『勇者』と呼ばれるようになるだろうと。
ナナセは言ったよ、『カズヤが強くなるのはうれしい』って。
でも、カズヤが勇者になれば、自分は必要なくなると思ったのかも。
最近は、シンシアが聖女の中で一番強いのだろうって。
シンシアがカズヤに悪く思われないように気を遣ってた。
『勇者』と『聖女』がいれば、この王国は大丈夫だよな……とも」
「……それは、七瀬が僕から離れようとしていた、そう自分で考えていたということか?!」
「そうかもな……」
マイネがぽつりと言った。
私はわざと明るい声で言った。
「ナーセルの悪い癖が出たのかもしれない。自由な、旅の好きなところが!
少しぶらっとしてくれば、けろっとした顔で戻ってくるかもしれないぞ。
それに今のナナセなら、聖魔法が使える。
使えば、すぐどこにいるか感知できる」
「それは七瀬もよく知っているから、決して使おうとしないと思う……」
カズヤが呟いた。
ナーセルがカージュを置いて出て行くとは思えないが、ナナセの気持ちなら少しわかる気がした。
カズヤはすでにかなり強い。
確かに今の魔法騎士としてのカズヤなら『勇者』と呼ばれてもおかしくない。
それに引き換え、ナナセは騎士としては並の男程度。
魔法も魔力量はだいぶ増えたが、魔法の腕前は初級者の域を出た程度だ。
もし、ナナセが魔王に狙われていることを自分でも知っているとしたら、カズヤを守るために離れた方がいいと考えたのかもしれないな……。
読んで頂き、どうもありがとうございます。
毎日1~2話投稿でゆっくり進む予定です。
これからもお付き合いいただけたらうれしいです。




