醜い争い! カフェでオタクと喧嘩!
「気持ち悪ぃ服装しやがって、この醜いブサイクが」
醜いブサイクだって!
見た目通り、罵倒もギャルっぽい感じ!
よしよし、ちゃんと服装のことをイジってもらえたぞ。
これでMPも貯まるだろうな。
「いや、貯まらないよ」
「ええっ!?」
そんな馬鹿な!?
むちゃくちゃなこと言われてるのに!?
醜いブサイクだよ!?
家を出てから久しぶりに声が聞けて嬉しいですが、どうしてなの神様!?
「そういう店じゃん」
「えっ?」
「そういうカフェだったら、仕事じゃん。どこが悪意やねん」
あー。
そうだった。
MPとは人間の悪意のパワーだった。相手がドSだとしても、それが善意や仕事じゃ意味がないのかー!
ここは秋葉原で見つけた、ドSカフェ。客に辛辣な言葉を浴びせてくれるという夢のようなお店だ。
見つけた瞬間「これだ!」と思ったのだが。
「うわー、お兄さん、キモいね。ダサすぎ」
幼稚園児の服を着ている、ツインテールの店員さんに言われた。最高だ。
「0ポイント」
MPは増えないようです。ボロクソ言ってるけど、リップサービスってことですよ。本当にダサいはずなんですけどね。根が優しんだろうな。
「きしょいでござるな」
今度はくノ一の店員さんだ。胸の谷間を強調しながら、笑顔で罵った。嬉しいな。
「0ポイント」
これもビジネスで言ってるだけだってさ。そうですかそうですか。
この店は最高だが、MPは増えないな。意味ないか。
「こんなとこいても意味ないぞー。何やってんだバカ」
神様に馬鹿にされました。意味はありました。嬉しいから。
でもこのままじゃMPがねえ。うーん、もう店を出ようかなー。
「お、お主。そのパーカーは」
「ん?」
店員さんじゃなくて、客が話しかけてきたぞ。なんというか非常に不健康そうな見た目の男だ。汗がくさそう。
「その作品に目をつけるとは。いやはや」
メガネをクイクイしている。どうやら、俺の着ているパーカーの作品のファンってことっぽいな。
そしてそこまでメジャーな作品でもないというところでしょうか。
俺は服を見た目で選んだだけなんで、よくわからんが。
「いいですよな、ふとみ嬢」
「あー。はあ」
おそらくこの、やたら顔が丸い女子キャラクターの名前だろう。
「お主はどうしてこのパーカーを?」
フンスフンスと鼻息荒く、なかなかのキモいオタクだ。めんどくさいが、ここで無視して店を出ちゃうわけにもいかないな。
「キモいなと思って」
「……なんですと?」
オタクさんの声が変わった。目は見たくないので見てない。
「キモいと思ったから着てるんですよ。作品のことも、このキャラのことも知らなくて、ただこれを着てたらキモいなと思ったから着てるんですよ!」
言ってやった。言ってやりましたよ。
「……なるほど、なるほど。まさに唾棄すべき御仁でしたか。反吐しか出ませんね」
うわー。
すげー罵倒だー。
さすが、男性オタクのボキャブラリーは女子とは異なりますね~。
もちろん全然、嬉しくねー。遠くに見える女医さんのコスプレの女の子に言われたら最高なのになー。
「いや、失礼。拙者は偏屈な人間ゆえ、知らないアーティストや読めない英語のTシャツを着ているものすら嫌いな男」
まあ、わからんでもないんですよ。
この考え。
ただ、俺はわかったうえでやってんですよ。
「作品も、キャラも知らずに着る。結構ですね、死刑になったテロリストの新興宗教の教祖の服も着こなすことでしょう」
それな。
いや、さすがにないだろと思うかもしれんが、実際英語の服だったらそういうことだってあり得るからね。とんでもない差別主義者かもしんないもんな?
ただ、ここで「ですよねー」と言えるわけもない。
「このサブヒロインは、ふとみ嬢。見ての通り、もりもり食べることが好きな女の子。幸せそうに食べるのが魅力」
ほう、そうなのか。
グルメ作品なのかな?
美少女系の絵のタッチにしては妙に太ってるからなんでだろうと思っていましたが。
「この作品はファッションモデルの世界を描いたもの。少女たちが力を合わせて、パリコレを目指す物語なのですぞ」
え、どういうこと?
絶対パリコレに出れるスタイルじゃないんですけど。
「他のキャラがご飯を我慢してるなか、気づいたら食べてしまうドジっ娘っぷりがたまらなくカワイイわけです。フフフ」
駄目じゃん。
どうりで人気ねえはずだよ。
このパーカーだけ90%オフだったもんでね。人気ねえことだけはわかるのよ。
ちょっとだけぽっちゃりくらいなら、むしろ男子は好きだと思いますよ。パリコレモデルよりも。ただ、明らかに太いのよ。
「食べてはいけないのに、食べてしまう。この人間の業を背負った深いキャラクター。わかる人だけがわかるわけです。わかる人にはね」
いや、駄目キャラすぎるだろ。
あんたが好きなのはわかったよ。
「彼女の魅力を少しもわからずに、あろうことか容姿を馬鹿にして着るとは。おお、嘆かわしい。生きていることを悔やむような人生にならんことを」
言い過ぎじゃね?
こいつ凄いね?
なんでこんなやつにここまで言われなきゃなんないんだよ。腹のたつ。
「MPが20溜まったぞ~♪」
神様が嬉しそうなのでヨシ!
これでMPを貯めるという、本来の目的は達成だ。
ただね、こいつに言われっぱなしは嫌ですね。こっちにも考えはあるよ。
「あんた、随分とドSだね」
「……なんですと?」
たじろいだな。
「あんた、ここがどこだかわかってないのか?」
「店員さんがドSな態度を取ってくれるカフェ……でござるな」
「それを全力で楽しもうとしたから、この格好で来たわけですよ。俺は」
「ほ、ほう……」
「ボロクソに言って欲しい、冷たい目で見られたい。そういう気持ちで来てるんだよこっちは」
「こ、こやつ……」
「あんたはさ、無難な格好をしているよな。もちろんオシャレではないが、全身ユニクロだ。ダサいわけでもない。それで本当にドMなんですか?」
「ぐっ」
「それで俺にマウント取って。にわかを馬鹿にして。たいしたドSですねえ!?」
「あ……あ……」
「そんなやつが、ドMのフリしてこの店来てか。嘆かわしいのはどっちだろうね?」
「うわあーっ! な、なんだお主、し、失礼だぞ!?」
「失礼なのは、どっちか、店員さんに聞いてみようじゃないか!」
勝ったな!
ドS店員さんの皆さん、教えてやってくれよ。この失礼な男にさ!
「どっちもうるさい」
「どっちも嫌い」
「どっちも出ていけ」
「「ありがとうございます!!」」
二人とも、お礼を言ってからお会計して店を出ました。