ドアサ! キモさの聖地へ!
「今晩も、バトル起きるけど、どうする?」
「うわっ、神様!?」
朝、トイレで座っていたら突然神様から話しかけられた。
「ちょっ、なんで、今なんですか」
「喜ぶかと思って」
神様……アガペーがエグいですて。
俺の性癖を考慮して、脱糞中に話しかけてくれるなんて……
まさに人間離れした辱め方ですよ。ありがたいですね~。
トイレットペーパーを巻く間もそれは止まらない。
「今日は土曜日だろ。学校も無いし。先生に罵倒されることは難しいぞ~」
「確かに……」
「どうやってMPを貯めるのか、考えないと」
「そうですよね」
昨日からブタキャラになった俺。
寝る前に襲ってくる敵と戦うため、日中にMPを貯めなければならない。
MPを貯めるには、罵倒されるなり、叩かれるなり。人間の悪意を受けなければならない宿命です。
学校がない状況では難易度が高いのは間違いない。普通に生きてて理不尽にされるるほど、日本の治安は終わっていない。くそっ、もっとヤバい国ならよかったのに!
「どうすれば……」
「どうする~?」
トイレを出た俺は、手を洗うついでに顔を洗い、顔を拭いてから歯を磨き始める。
鏡に神様が映る。俺の隣。にこにこフェイス。
おいおい、背後霊にしちゃあ、可愛すぎやしねえか~!?
「ねえ、今日、どうする、どうする~? どこいく~?」
ちょっと、神様。
そんな彼女みたいなノリされたら照れちゃいますよ。ただでさえ、俺の好みのどストレートなんだから。
どこ行きましょうかね?
口を濯いで、鏡を見ると、神様が小首を傾げ。
「フリーフォールにする? バンジージャンプにする? それともスカイダイビングにする?」
「なんで高所から落ちるところ限定なんですか!?」
やだよ。怖い。なんでですか?
「ビビったら、めちゃくちゃ馬鹿にしてあげるけど」
「なるほどー!」
そういうことかー。
神様は世界一メスガキが似合いますからね。馬鹿にしてもらえるなら何だって出来るぜ!
飛び降りちゃおっかなー。なんなら普通にビルから飛び降りようかなー。
「ま、それじゃMPにはならないけどね」
「そうですよねー」
神様に罵られても駄目なのよ。人間の悪い感情がMPに変わるからね。
とはいえ、これはヒントということだな。
生きてるだけでは他人は罵倒してくれない。情けないとか、醜態を晒す必要があるんだな。
どうしたものか。
顔を洗い、タオルで顔を拭き終えると、鏡の中の美少女がぴ、と人差し指を立てた。かわよ。
「まず服を買いに行くのがいいかもな」
「服ですか?」
「ああ。ショッピングに行こう」
え~? ほんとにデートみたいじゃん。
デートに行く服がないから、最初のデートが服買うって。
神様って……ほんと俺を翻弄するよね。
つっても、俺普通に服は持ってますけどね。
「普通じゃイジられないだろバカタレ」
「ありがとうございます!」
馬鹿でしたねー。
ほんと俺って馬鹿。
考えてみれば、俺がモブだからイジられなかったって、そういうことなんだよな。
普通の服を着て、普通に生きてたからじゃん。
なぜキモくなるための努力をしなかったんだ……。
学力、スポーツ、おしゃれ。そういうモテる要素のステータスを上げるのは難しいかもしれないよ。
下げるのはそれほど難しくないだろ!
何やってたんだ俺は!
まずは見た目からキモくしていこう!
「神様、キモい服売ってる場所はどこですかね」
「そんな店ないだろ」
確かに……。
そんな店潰れるよな……。
キモくなるのも簡単じゃないんだ。モブとはなんと怠惰な生き方だったのか。
「服自体がキモいとかじゃなくて、着こなしなんだよ」
「おしゃれと同じじゃないですか!」
なんだよー!
センス悪いのもセンスってことかよ!
難しいなあ!
「まあ、安い古着屋でいろいろ買ってみなよ」
「優しい……」
神様……好き……
「心の中で好きになるな、気持ち悪い」
そういうところも好き……嬉しい……好きな人に気持ち悪いと言われるなんて、幸せにも程がある。
しかし、どこに買いに行けばいいんだろう。
「神様、お店はどこですかね」
「ググレカス」
「えっ」
「神様はSiriとかGeminiとかじゃないんだぞ」
神様……
拗ねるとかあるんだ。カワイー!
じゃ、コパイロットで調べよっと。
「スマホなのに!?」
頭の中でボケても神様のツッコミが入るようになってしまったぞ。
幸せすぎるなあ?
AIが言うには、キモい男が集まっている場所にキモい服はある。すなわりアキバですよと。なるほどな。うちからアキバは電車で1時間くらい。
「んー。じゃあ秋葉原に行きますか」
「いいんじゃないか」
神様が実体化して一緒に行ってくれたらいいのにな。
「秋葉原中が恋しちゃうだろ」
「確かに!」
全アキバ男子が好きなルックスですからね!
神様が「おにいちゃーん」って叫んだら、1万人が振り返るだろうな。
え? それって俺もキモいってこと?
よしよし、素質はあるってことか。目指そう、キモさの頂点を!
「じゃ、行ってらっしゃい」
「え!? なんでそんな妻みたいな反応を!?」
「誰が妻だ、キモいな」
「ありがてー」
結婚したら毎朝「キモイ」とか言われるのかな。いいなー。
じゃ、でっぱーつ!