はじめての戦闘! 敵幹部にもぶたれたい!
高校から帰り、風呂入って、飯食って。
あまりにもいつも通りの日常で、今日の出来事が夢だったのかと思った頃。
「さて、そろそろ戦いの時間だな」
「あ、神様」
「ちゃんとお前が……」
「お前?」
「クソブタが」
「ありがとうございます」
頼むよ神様。サボらないでよね。
神様はルックスも最高だが、声も最高だよ。澄んだ水のような、麗しい声なのに、罵倒するときは妙にエロティックなんだよな。
要するに、はっきりいって早見沙織なんだよなあ……。罵倒されるなら一択なんだよなあ……。丹下さんも捨てがたいけど……。
「おいクソブタ」
「ありがとうございます」
「クソブタが普通に日常を送れるように、敵が出てくるのは夜寝る前だけってことにしておいたから」
「優しい世界ですね」
「スマブラみたいなものだからね」
男子兄弟が宿題終わらせた後にゲームするみたいな感覚なのか……。
突然襲ってくるもんだと思ってたけど……。
「じゃ、そろそろ戦いでいい? トイレ大丈夫?」
「優しいな……優しくないほうが嬉しいんですけど」
「しょんべん漏らすなよ、このクソブタが!」
「はい、頑張ります!」
その刹那。
身体が瞬間移動した。
「どこだこれ……」
荒れた土地で、人どころか動物もいなさそうな。
芝はあるけど、木は無くて、妙に高い丘だけある。似たような場面を見たことがあるとすると、そうだね、ナメック星だね。
思う存分戦える、そういう感じです。
「人間と動物のどっちの味方か、って戦いだからね。被害を出したら意味がないからね」
「神様!」
声だけじゃなくて神様がそこにいた。
やっぱ顔が見れた方が嬉しいなー。なんて可愛いんだ。
この世界では神様と一緒にいられるようだ。嬉しいなあ。
「見惚れてる場合じゃないよ」
くいっと顎で向こうを見ろって合図された。似合うなー。素敵だなー。
「見惚れんなっつってんの」
「ありがとうございます」
今、前蹴りをいただきましたー。ありがたいですね~。
じゃ、見惚れるのをやめましょう。
「アンタが、ブタキャラってやつかい」
「おっ?」
敵なのかな?
腕組みをして、かっこよく立っている女性……あ、いかにも悪の幹部って感じだ。露出が多くて、黒くて。神様と似てるな。
てか、神様のお姉様って感じだな。25歳のスタイルの良い巨乳の神様と言ってもいいような。ぶって欲しいなー。
「あたいは、ワギュウ。養殖されている黒毛和牛のために戦う女よ」
なるほど……明らかに悪っぽい雰囲気なのに、ちゃんと正義を背負ってるのが洒落くさいなあ。そもそも和牛って人間が作った命じゃねーか。ややこしい。
でも、牛って感じするね。体つきが。うん。
え?
てか、あの人と戦うの?
倒したくないんだけど。むしろ倒されたいんだけど。
「いきなり幹部と戦わないから」
「ほっ」
「ほっとすんなよクソブタが」
「ありがとうございます」
神様はちゃんと罵倒してくれるから本当に嬉しいな。
ワギュウは、かっこよく右手を挙げるとバリバリという音と光とともに、何かがやってきた。召喚ってことでしょう。
「さあ、ブタキャラを倒すのよ、怪人ブリ男」
「ぶーりぶりぶりー!」
「いかにもなやつが来たな」
もうね、でかいブリの頭から手足が生えてる的な。こいつは躊躇なく倒せるぜ。
ていうか、変身しないと。
「どうやって変身するんですか神様」
「変身するときの掛け声と動きは、自分で考えて」
「えっ!? 俺が自分で?」
「これで変身できる、っていう気持ちが重要なの」
「なるほど」
変身か……。
ブタキャラに変身するんだよな?
「スーパーヘンタイパワー! プリーズヒットミー!」
俺は四つん這いでうろうろしたのち、大きくジャンプして一気に土下座。神様の靴を舐めた。
「きも!」
神様が自然な流れで、俺のケツにムチを入れる。
そのタイミングで、ぱーっと光が溢れ、俺は変身した。こんなシーンの変身バンクを作ることになったらアニメーターがブチギレるだろう。
「変身できた!」
できたが……どういう格好しているのだろうか。
「単純に、ピンクの魔法少女の衣装を着ただけのお前だね」
「ええ!?」
そんなコミケスタッフのコスプレみたいな!?
なぜ魔法少女なんすか!?
「大丈夫、めっちゃキモいから」
「そうですか」
神様がそう言うなら間違いないね。
キモい方がいいもんね。
「ほんとキモいわね」
「ありがとうございます」
ワギュウもキモがってくれました。ありがたいですね~。
蔑む表情が、似合いますね~。蹴って欲しいですね~。
「いけ、ブリ男!」
「ぶりー!」
「うわっ」
でかい大根みたいなので攻撃してきた。ぶり大根ってことかな?
なお、変身したところで動きが早くなるとかはない模様。ほんとに大丈夫?
「食らっても、死にはしないから。痛くてもいいでしょ」
「やですよ!」
神様やギャルならいいけど、ブリ男に殴られても嬉しくねえよ!
痛かったらなんでもいいわけないでしょうよ。
「ぶりー!」
「うおー!?」
ほうほうのていで逃げ回る。
華麗とはほど遠いバトルだな!
とてもテレビでは放送できないし、子どもの目はキラキラしねえよ。
んあ~、逃げ待っててもしょうがねえ!
「こ、攻撃はどうするの、神様?」
「それもイメージでいけるから。魔法少女らしい感じでやってみ」
神様の説明が丁寧じゃないですねー!
この雑な感じ。プレイみたいで嬉しいですね。やっぱ神様サイコー!
えーっと、相手がブリだからな。
「て、てりー!」
俺が両手を突き出して、そう叫ぶ。ベギラマのイメージが再現される。熱攻撃ね。
「ぶりー!?」
ブリ男が、熱に苦しむ。
「くっ、なんて魔法の力が強いの!?」
ワギュウがビビっている。
ビンタしてくれた先生に感謝ですね。
「いまので、使ったMPは6よ」
なるほど……そのくらいか。
しかし、いい匂いだな。
「くっ、攻撃魔法でブリ男を照り焼きにするなんて……なんて邪悪なの」
ワギュウさんからすると、俺は邪悪とのことです。ブリと言ったら、照り焼きだろうがい。
「いまのうちに、必殺技よ!」
「必殺技?」
「そういう気持ちでいけばいけるから」
ふむ……。
さっきの魔法もなんとなくいけたから、いけるか。
「自分が思う強力な魔法のイメージでね」
確かに「てりー!」で倒せる気がしないもんな。
個人的には詠唱が長ければ長いほど、強いイメージだ。
ええっと……この体内の魔力をこう……表現したいね。
「侮蔑の眼差しに、興奮を感じ……」
両手の中に、光が集まってくる。
「軽蔑の言葉に、歓喜を覚え……」
きてるぞきてるぞ……
「足蹴にされては、恍惚となり……」
神様が「なんだコイツ」という目で見ています。嬉しいね。
「罵倒を食らわば、快楽とする……」
ワギュウからも「なんだコイツ」という目で見られている。気持ちいいね。
「今、変態の力を、魔力に変えて、尊き命が食材にならんことを!」
手の中にある、凝縮された魔力を一気に開放する!
「ブタキャラ・クッキング・ジャスティスパワー!」
ブリ男に向かって手を突き出した!
強烈な光線が敵を撃ち抜く。まさに必殺技!
「うわあああああああああ」
断末魔を残して消えていく。
「めしあがれー」
光線が消えた後には、こたつと鍋があった。どういうこと?
「くっ、この外道め!」
ワギュウが、シュッと消えた。
勝ったんだな。
「さて、勝利の食事としようか」
「神様」
「極上の養殖の鰤は、ぶりしゃぶで食べるのが美味いんだと。一緒に食お」
ほお~。
こんな普通の幸せもあるんですね?
美少女とこたつで、美味いぶりしゃぶかよ。
ガスコンロの上の土鍋からは湯気が立ち上り、中には昆布が沈んでいる。
神様が菜箸を取って、鰤をつまんだ。こんな露出の多い格好でやるのはレアでしょうね。へそ出し黒ボンテージですからね。
「ほれ、このくらいレアで食べるのが美味いぞ」
「あ、ありがとうございます」
神様がとんすいによそってくれた。ポン酢とあさつきも添えてある。
「いただきまーす」
うわー。
うめえー。
ブリ男、美味すぎるー。
「養殖で太っているからこその脂の乗りだな」
「しゃぶしゃぶだと、さっぱり食べられるのに、旨味が凄いなあ」
「これを人間の業とするか、妙とするかだな」
「こんな幸せなことが、悪であってたまるかって感じですけど」
「お前はそれでいい。この感じで戦っていってくれ」
イヤな顔をされるのは好きだが、微笑んでいる神様は本当に可愛いな。
この癒やしの時間を糧に、明日も頑張ろう。