やったね! 教師にひどいこと言われたよ!
「はい、じゃワンツースリーで現実に戻るよー」
「催眠術かよ」
「ワン、ツー、スリー」
おっ、元の教室に戻ってきた。
おそらく時間は止まっていたのだろう。
「え? なにこいつ」
「なんかずーっと白目剥いてたよね? え? てかこんなキモかったっけ?」
時間が止まってなかったようです。
なんでだよ。
教室でイッちゃってたら、ヤバいと思われるだろ。
――いいのか。
ヤバいと思われていいんだ。キモいと思われていいんだ。むしろそうしてMPを貯めるのだ。
さっき羨ましいと思って見ていた、ギャル二人が俺を標的にしてくれている。
「あ、あどさぁ~」
普通に「あのさ」って言おうとしたのに、なんかうまく言えなかった。声も変わったわけではないのに妙にドモっている。
「うわ! キモっ!」
「なにこいつ、こんなキモいやついたっけ? ていうかこの世にいたっけ?」
こ、こんな罵倒が俺に?
こんな侮蔑が? 悪口が? 俺にされてるってのかよ?
やったああああああああああああああああああああああああ!!!!
うっひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
「ふひひひ」
「うっわ! こわ!」
「てか、誰?」
「お、おでだよ……馬多尾だよ」
「え? 普稀くん……?」
「ふまれっち?」
「そそそ、そうだよ」
「こんなにキモかったっけ?」
「うひひひ」
ていうか、このギャル俺のこと「普稀くん」とか「ふまれっち」って認識してたの?
言ってくれよー。
いや、結局はモブすぎて話す機会がなかったということよ。
今は俺がキモいために、かまってもらえているのだ。ありがたいですね~。
そしてこれでMPが溜まっているのだ。
今、何ポイントくらいなんだ?
「8ポイントだよ」
おお。神様が脳内で。
え?
いつでも神様と話せる感じ?
「話せるよー。常に見てるから。神だから」
「うわー。超はずかしいじゃん」
「うれしいでしょ」
「うれしいです!」
辱めを受ける。こんなに嬉しいことはない……。
「え? ウチらいるのに、なんで独り言?」
え? これって神様だけと会話してるパートなんじゃないの?
なんで現実に声を出しちゃってるの?
「その方が気持ち悪がられていいじゃん」
「確かに!」
さすが神様だぜ!
二人のギャルが気持ち悪そうに俺を見てるぜ。最高だ。
「うわー」
「やばーい」
やばいよねー。俺もそう思うー。
しかし、俺のことを知ってるうえに、いきなりキモくなってて、独り言し始める俺に対してむしろ優しくない?
普通、無言で逃げるよね?
好きになっちゃうよ?
「ふひ、ふひひ」
「うわ、キモっ」
「気ぃつけなよ、ふまれっち。キモすぎだから」
「ぷひひ」
「キモっ、てか、せんせ来たわ」
いつの間にか休み時間が終わっていた。
そりゃそうだな。時間が止まってたわけじゃないんだから。
数学の授業か。
先生は伯井荷逢。この高校で一番の美人教師だ。非常に理知的で、クールな感じの。27歳だったかな。
「はい、授業始めますよー、って……ん? お前……馬多尾か?」
「ふぇひっ? そ、そーですね、ハイ、ふひひ」
いきなり特別扱いか。どんだけ目立つんだ、俺は。
つい5分前までモブだったというのに。
「そんなんだったかな……なんというか、うーん」
いや、そうだろうよ。
ギャルと違って、教師が生徒に「キモイ」なんて言うわけないからね。
言葉が出ないのだ。
でも、言われたい……いや、MPのために言われなければならない。
「せ、先生……お、俺を好きになっちゃったんですか? 駄目ですよ、禁断の恋は。ぶひひ」
「……死ね」
――ヱェ―――――!?
死ね!?
教師が生徒に死ね!?
速攻でクビでは? そして新聞に載るのでは? 校長も減俸では?
ただ、この心から言ってる感じ。マジで思ってるじゃん。
そいでこの状況で教室がざわつかないのが凄いよね。「死ね」って言われても「そりゃしょうがないだろ」って満場一致なんですね。俺は。ヤバいね?
「あり、ありがとうございます……ぷひ」
お礼を言いました。
そうしておけば、まあクビにならないかなと思いまして。
こんな美人が高校からいなくなったら、全男子生徒が不幸になりますので。
「は? セクハラしておいて、なんだその言い草は」
「せ、セクハラ? 俺がですかぁ?」
「お前を好きになる女が、いや、人間がいるわけないだろ。非常に不快だ」
俺がしたことがセクハラなら、あなたは名誉毀損で訴えれると思いますけれども。俺に人権ないみたいじゃん。いや、ないか。俺に人権なんて。クソブタだもんね。
「せ、セクハラのお詫びとして、お、俺を殴ってください」
「いやだ。手が汚れる」
この先生……たまんねえ。
切れ長の目、長いまつ毛。つややかなロングの黒髪。そのすべてが、俺への侮蔑の眼差しのパワーを増している。
MP溜まってるんじゃない?
「今、13だな」
おっ、神様が教えてくれたぞ。
13ってどのくらいなんだ?
「ドラクエで換算してるから、わかるだろ」
ドラクエで換算してくれてんの?
じゃあわかりやすいな。MP2でメラ、6でメラミが使えるくらいだわ。
変身は?
「ブタキャラに変身するために必要なMPが1だ。ただ変身してる間はずっとMPが消費される。ただ、正直13もあれば十分だな」
「あ、十分なんだ」
「なんだ、馬多尾、勝手に喋るなっ」
「ぶほおっ」
平手打ちされた。
う、嬉しすぎる。
だって、さっき手が汚れるって言ったのに、殴ってくれたんだ……。
カイ、カン――
「すごいな、いまのだけでMPが20増えたぞ」
あ、やっぱ俺の快感に比例するのかな?
死ねって言われて、ビンタだもんな。そりゃ20くらいもらえるでしょ。生き返らせるくらいの呪文が使えて当然だよな。